2019年06月01日号
次回6月17日更新予定

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石膏像

Plaster Cast

石膏は日常生活のさまざまな場面で使用される素材であり、特に美術の文脈では、石膏像は古代彫刻やルネサンス彫刻などの複製に用いられる。石膏像の生産は、古代彫刻の発掘が進んだルネサンス期以降に本格的になった。ヴァチカン宮殿に収蔵された古代彫刻はヨーロッパ諸侯の羨望の的になり、16世紀にブロンズ鋳造や大理石による複製が盛んになった。その後、より安価な複製の需要が高まったことから、イタリアの鋳造師がヨーロッパ各国に出向き石膏像を販売するようになった。18世紀末には、フランスのルーブル複製工房、ドイツのギプスフォルメイ石膏工房などの大規模な石膏工房が設立され、各国の美術学校や美術館に石膏像を販売するようになった。今日のように図版や映像で美術品を簡単に閲覧できない時代、石膏像はデッサンや考古学の資料として、また美術館の展示物として重要な役割を果たしていた。19世紀には世界各国の美術館で大規模な石膏像コレクションを形成することが流行し、例えばアメリカのボストン美術館やメトロポリタン美術館では、当初、本物の美術品が不足していたために石膏像が展示品の大部分を占めたほどであった。日本では欧米ほど大規模な石膏像コレクションは形成されなかったが、工部美術学校設立の際にお雇い外国人が持ち込んだ石膏像や、東京美術学校がフランスから輸入した石膏像が、国内で流通する石膏像の原型となった。このように、石膏像は美術史で重要な役割を果たしてきたが、近代美学がオリジナリティを重視するようになり、その思想が美術館の収集や展示にも影響を与えるようになると、急速にその価値は失墜していった。20世紀初頭、各国の美術館はそれまで展示していた石膏像を撤去するようになり、欧米の美術アカデミーでは軒並み石膏デッサンが廃止された。今日では、イギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館やデンマークのロイヤル・キャスト・コレクションなど、一部のコレクションが残存し、往年の隆盛を伝えている。

著者: 荒木慎也

参考文献

  • Taste and the Antique: The Lure of Classical Sculpture, 1500-1900, Francis Haskell and Nicholas Penny, Yale University Press, 1982
  • L'Atelier de Moulage du Musée du Louvre (1794-1928), Florence Rionnet, Réunion des Musées Nationaux, 1996

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