2019年06月15日号
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秩序への回帰

Return to order(英), Ritorno all'ordine(伊), Retour à l'ordre(仏)

1910年代の後半から20年代にかけて汎ヨーロッパ的に謳われた、創作の源泉を古典美術に求める芸術思潮。「秩序への回帰」という呼称は、J・コクトーが26年に発表したエッセイ「秩序への呼びかけ(Le rappel à l'ordre)」に拠るもの。第一次世界大戦のもたらした深刻な被害と社会不安を受け、秩序、安定、統一性の回復を願う精神風土が生まれると、それまでの前衛美術からの反動を示すかのように、多くの芸術家たちが伝統的な美術に目を向けはじめた。なかでもよく知られるのがピカソの新古典主義の作品群である。そこではギリシャ・ローマの古代美術、イタリア・ルネサンス、プッサンやアングルといった17世紀以降のフランス絵画などが極めて独創的に引用された。他方、A・ドランもフォーヴィズムから古典主義に転身。17年にパリに移住したE・ジャンヌレ(後のル・コルビュジエ)は、A・オザンファンとともに『キュビスム以降』(1918)を著し、厳格で合理的な法則に基づく新たな古典の美学を説いた。イタリアではローマの美術雑誌『ヴァローリ・プラスティチ』(1918-22)の周辺に集った画家たちがこの傾向を牽引する。たとえばデ・キリコは同誌で「メティエへの回帰」と題されたテキストを発表、過去の巨匠の絵画技法に戻ることや美術館の彫像の模写を称揚し、C・カッラはウッチェルロやジョットなど14-15世紀の画家の再評価に貢献した。批評家・画家のA・ソッフィチも、単なる退行現象ではない側面からこの流れを擁護するようになった。そのほか、『キュビスムから古典主義へ』(1921)と題した著書で数学と幾何学に基づく理論を展開したG・セヴェリーニ、自然主義的な描写に戻ったオダリスク時代のH・マティス、「栄光あるクワトロチェント(1400年代)」を現代に蘇らせようとしたノヴェチェントの運動や表現主義以後のリアリズムである新即物主義など、古典回帰の影響を受けた実例は枚挙にいとまがない。戦間期の造形表現を考察する上で見逃すことのできない動向といえるだろう。

著者: 中島水緒

参考文献

  • Chaos and Classicism: Art in France, Italy, and Germany, 1918-1936, Solomon R Guggenheim Museum, 2010
  • On Classic Ground: Picasso, Leger, De Chirico and the New Classicism 1910-1930, Tate Publishing, 1990
  • 『ピカソ・クラシック 1914-1925』, 大高保二郎監修, 産経新聞社, 2003
  • 『トランスアトランティック・モダン 大西洋を横断する美術』, 村田宏, みすず書房, 2002

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