2019年08月01日号
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聴覚空間

Acoustic Space

マーシャル・マクルーハンらによって視覚空間と対比され論じられた、聴覚によって捉えられる空間。聴覚空間はマクルーハンのメディア論において現代文化を特徴づける重要な概念である。彼によれば、視覚によってとらえられる空間は均質かつ連続的、静的な容器のようなものであり、反対に聴覚空間は不均質かつ非連続的、動的な流れのようなものである。そして、印刷技術のような書字メディアは視覚空間を、テレビ、ラジオなどの電子メディアは聴覚空間をそれぞれ強調する。聴覚空間は書字メディアが文化の中心にあった長い時代、視覚空間に抑圧されてきた。しかし、19世紀後半の電子メディアの誕生によって聴覚空間が復活を遂げ、以後の文化に顕著に見られるようになる。マクルーハンによれば、例えばキュビスムは聴覚空間の絵画的表現である。視覚空間と聴覚空間がこのように比較検討されたのは、マクルーハンらが50年代にコミュニケーションとメディアに関する共同研究を行なった学際的グループの議論のなかでのことだった。発想の源となったのは、聴覚を研究した心理学者、E・A・ボットや、美術史家、H・ヴェルフリンに学んだ建築史家、S・ギーディオンの理論だったという。ここでの議論を元に心理学者、C・ウィリアムズが論文「聴覚空間」を55年に執筆し、さらにこの論文を下敷きにマクルーハンと文化人類学者、E・カーペンターが同名の論文を60年に共同発表した。マクルーハンと交流があったケージは聴覚空間の概念を賞賛し、R・M・シェーファーはこの概念を批判的に継承している。マクルーハンの考えに賛同するにしろ反対するにしろ、多くのサウンド・アーティストが聴覚空間を視覚空間と対比する作品を制作していることを考えると、この概念の重要性がさらに理解できるだろう。

著者: 金子智太郎

参考文献

  • 『マクルーハン理論 電子メディアの可能性』, マーシャル・マクルーハン、エドマンド・カーペンター(大前正臣、後藤和彦訳), 平凡社, 2003
  • 『グーテンベルクの銀河系 活字人間の形成』, マーシャル・マクルーハン(森常治訳), みすず書房, 1986
  • 『ジョン・ケージ 小鳥たちのために』, ジョン・ケージ、ダニエル・シャルル(青山マミ訳), 青土社, 1982
  • 『世界の調律 サウンドスケープとはなにか』, (鳥越けい子ほか訳)R・マリー・シェーファー, 平凡社, 1986
  • Background Noise: Perspectives on Sound Art, Brandon Labelle, Continuum Intl Pub Group, 2006

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