2019年06月15日号
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触覚性

Haptisch(独), Haptic(英)

美術史家アロイス・リーグルが『末期ローマの美術工芸』(1901)で提起した視知覚の概念。リーグルの分類において「遠隔視的」な視覚に対する「近接視的」な視覚とも定義される。リーグルはエジプト美術に顕著に見られる、複数の形象が奥行を持たない状態で並列する平面的な作品様式を触覚的な様式の最たるものとし、平面性に捕われた古典古代、ヘレニズム時代、初期ローマがそのような様式に相当するとした。逆に、空間的かつ三次元的なイリュージョニズムを備えた末期ローマの美術工芸における空間認識の把握はより「近代的」であるとされる。そのような意味で、末期ローマ以前の様式は、事物の限界(表面)を視覚がなぞるように作品が知覚されるという側面を持つ。「触覚性」というメタファーを用いて定義される「近接視」とは、建築や彫刻における物理的な表面のそのような平面的把握を指すのであり、逆に「遠隔視」における非物質的な空間的イリュージョンとは、非直接的な複数の知覚の組み合わせ(高さ、奥行、幅等々)、あるいはより複雑化した主観的な思考過程において捉えられるものだった。そのため、リーグルは触覚を視覚に対してより原始的な立場に置いたといえるが、作品の表面の表象を触知可能な「触覚」という生理的・物理的抵抗感において記述しようとするその特異な思考には、W・ベンヤミンやG・ドゥルーズらも注目を寄せた。

著者: 沢山遼

参考文献

  • 『末期ローマの美術工芸』, , アロイス・リーグル(井面信行訳), 中央公論美術出版, 2007

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