2019年06月15日号
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転換子

Shifter

言語学で用いられる「shifter」の訳語。言語学者のR・ヤーコブソンによって広く知れ渡った概念であり、それ自体としては空虚で、文脈によってその意味内容を変化させる言語記号が「転換子(シフター)」と呼ばれる。例えば「この」椅子、「あの」テーブルといった代名詞(this, that)や、「わたし」や「あなた」のような人称代名詞(I, you)など、発話者の立場や文脈によってその指示対象を変える言葉が「転換子」に相当する。この議論に関しては、ヤーコブソンと同じ言語学者であるE・バンヴェニストの「代名詞の性質」(『一般言語学の諸問題』に収録)などが有名だが、美術批評にこの「転換子」という概念を導入したのはロザリンド・クラウスである。クラウスは、1976年初出の「指標論:パート1」においてこの「転換子」という概念に言及している。クラウスは同テクストの冒頭で、ヴィト・アコンチのヴィデオ作品《エアータイム》への言及に際して「転換子」という概念を導入し、それをラカンの「象徴界」やパースの「指標(インデックス)」に接続しつつ論じていく。そこでの議論の核心は次のようなものである。すなわち、this, that, I, youのような転換子は、それが言語記号であるという性質上、第一には象徴記号(シンボル)である。ただしそれらは、その指示対象(「この」椅子、「あの」テーブル)との対応関係を保持しているかぎりにおいて、同時に指標記号(インデックス)でもある。以上のような軸に沿ってデュシャン以降の作品を論じていくクラウスは、70年代の芸術作品を、空虚な記号としての転換子(=指標)的性格を保持したものとして論じるという大胆な企てに着手する。言うなればそれは、しばしば統一的な様式の不在が指摘されていたこの時代の絵画・写真作品に、一定の解読格子を与える試みだったと言うことができる。

著者: 星野太

参考文献

  • 『一般言語学』, ロマン・ヤーコブソン(川本茂雄監修、田村すず子ほか訳), みすず書房, 1973
  • 『一般言語学の諸問題』, エミール・バンヴェニスト(岸本通夫監訳), みすず書房, 1983
  • The Originality of the Avant-Garde and Other Modernist Myths, “Notes on the Index (Part 1 & 2)”, Rosalind E. Krauss, MIT Press, 1985
  • 『オリジナリティと反復 ロザリンド・クラウス美術評論集』, ロザリンド・E・クラウス(小西信之訳), リブロポート, 1994

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