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開かれた美術館
Musée Ouvert(仏)
1977年に開館したパリのポンピドゥー・センターが提唱した理念。市民ないしは都市に開かれた美術館を意味しており、多くの美術館にとって目指すべき理想として広く共有されている。岡本太郎は開館したポンピドゥー・センターについて次のように描写している。「見物人がものすごい勢いで押しかけている。前の広場には大道芸人も集まって来て、連日お祭りのよう。この巨大な空間の中には、子供たちが集まって自由に絵を描いたり造形活動をすることが出来るアトリエもあるし、その他オープンシステムの図書館、展示会場、さまざまな施設がある。その中心に近代絵画の美術館がある」。つまり、美術を中心とした複合的な文化施設と教育普及事業によって消費者に満足度の高いサービスを提供することが「開かれた美術館」の内実だといえる。こうした文化戦略は、たしかに「墓場としての美術館」(テオドール・W・アドルノ)や「神殿としての美術館」(ダンカン・キャメロン)という従来の美術館像を効果的に刷新した。だが、経済原理に従属せざるをえない今日の美術館にとって「開かれた美術館」は理想というより、むしろ必要条件として課せられているものであることもまた事実である。むしろ、キャメロンによる「フォーラムとしての美術館」やジェイムズ・クリフォードによる「接触領域としての美術館」のほうが、容易には実現しえないという点で、理念としては意義深い。
著者: 福住廉
参考文献
- 『現代の眼』311号, 「開かれた美術館」, 岡本太郎, 1980
- 『プリズメン』, 「ヴァレリー、プルースト、美術館」, テオドール・W・アドルノ, ちくま学芸文庫, 1996
- 『ルーツ』, ジェイムズ・クリフォード, 月曜社, 2002
- 『あいだ』99号, 「美術館:神殿かフォーラムか」, ダンカン・F・キャメロン, 2004