2019年06月15日号
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J回帰

J Kaiki

評論家の浅田彰が指摘した、1990年代の日本文化の特徴。「J‐POP」や「J文学」など販売促進のためのネーミングにとどまらず、批評言説の面でも顕著になった日本回帰の傾向を指している。80年代から90年代前半に盛んに論じられたポストモダニズムは欧米の現代思想に由来していたが、90年代後半になると、日本の土着的な問題が検討されるようになった。例えば美術評論家の椹木野衣は、ポストモダン美学の影響を受けた『シミュレーショニズム』(1991)から一転して、日本の現代美術の歴史を再検証した『日本・現代・美術』(1998)を発表する。浅田によれば、フランスから日本へ回帰した福田和也や東浩紀も同じ傾向にある。だが、こうした日本回帰があくまでも表層的な「J回帰」にすぎないことを浅田は批判的に指摘する。こうした論客が回帰しているのは日本の伝統そのものではなく、サブカルチャーやオタク文化といった現象面にすぎないからだ。このような「J回帰」は、経済的な条件に由来していると浅田は言う。現代思想としてのポストモダニズムは80年代の好景気に支えられていたが、バブル経済が破綻して長期的な不況に突入した90年代になるとポストモダニズムは退潮してしまった。浅田は「J回帰」がグローバル資本主義の波にさらされた日本の文化が自閉しようとした兆候であるとして批判的に見ているが、2000年代になっても欧米の批評理論を導入するより、むしろフリーターや格差社会、ひきこもり、右傾化といったドメスティックな論点に注目が集まったように、「J回帰」の傾向は依然として継続していると言わねばなるまい。

著者: 福住廉

参考文献

  • 『Voice』2000年3月号, 「『J回帰』の行方」, 浅田彰, PHP研究所
  • 『シミュレーショニズム ハウス・ミュジックと盗用芸術』, 椹木野衣, 洋泉社, 1991
  • 『増補シミュレーショニズム』, 椹木野衣, 筑摩書房, 2001
  • 『日本・現代・美術』, 椹木野衣, 新潮社 , 1998

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