アーティスト・イン・レジデンスというシステムについて

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ちょっとアーティスト・イン・レジデンスというシステムについて考えてみたいと思います。
この15年くらいで、様々なタイプの滞在制作が本当に色んな場所で実施されていると思うのですが、アーティスト・イン・レジデンスという制度として地方自治体が取り入れたものを、特に公募型のレジデンスに着目して3つのアートセンターの例を挙げながらその現状を紹介します。

trans_20092010_main_img_1.jpg←秋吉台国際芸術村で3月6日よりスタートするレジデンス展フライヤー

まずは日本で最初のアーティスト・イン・レジデンスと言われる茨城県のARCUS projectです。今年で15年目になります。この数年でARCUSは予算をはじめとする外的要因も相まってそのシステムは大きく変動してきています。まず、数年前までは日本人1名、その他のアジア地域から1名、台湾から1名全世界から2名の計5名を公募で受け入れていたのですが、今年度は計3名の招聘に減少しています。ただ、人数は減少したものの公募やアーティスト選考のシステムは独自のものに一新されました。募集期間は2月〜3月の2ヶ月程度で、6月くらいに招聘アーティストが決定され,滞在期間は9月下旬から12月まで。つまり現在大募集中ということです!エントリーはウェブサイトからのオンライン登録になっています。日本人は対象外ですが、登録フォームはこちら。http://arcus-studio.jpn.org/applicationform.html
応募終了後はディレクターをはじめとするスタッフによる1次審査を経て、2次審査は世界的に活躍する海外のキュレーターや批評家など本当に客観的な外部の人間を中心として、審査員とスタッフで話し合って決定しています。選考には毎年異なった審査員が選出されており、ここ2年間は以下に挙げる方々が担当されています。
2008年
Giovanni Carmine(スイス/Kunsthalle St Gallenディレクター)
Joseph Del Pesco(アメリカ/artists spaceキュレーター)
Gridthiya Gaweewong(タイ/Jim Thompson Art Centerディレクター )
2009年
Helmut Batista(ブラジル/capaceteディレクター)
Abdellah Karroum(モロッコ/キュレーター・L'appartement 22設立者)
Tirdad Zolghadr(イラン/キュレーター・美術批評家)

来年度は地域の国際交流のより積極的な推進と、ARCUSだからこそ実現できるプロジェクトを実施するということで、展覧会としてのアウトプットよりはプロセスを重視して、海外国籍のアーティスト2名を招聘する予定だそうです。つまり日本人はこの公募のレジデンスの対象外になっているのですが、そのかわりに年に1回日本人対象のサポートプログラムを実施するそうで、この3月27日からはその枠で橋本聡さんの個展を開催するそうです。
予算などは削減されているのかもしれませんが、選考のプロセスも含めて、より特色を発揮したプログラムとして今後も展開されていくのではないでしょうか。
※3月3日にディレクターの遠藤さんに確認していただいて、僕の認識違いなどがあった部分などを加筆修正いたしました。

arcus_photo.jpg↑ARCUSです。


次に現在僕が所属する国際芸術センター青森(ACAC)です。ACACは今年の秋で設立から9年目に入ります。こちらの特徴は何を置いても巨大な展示空間と木工・金工や版画の機材が充実したワークショップ空間にあります。天井高6メートルで、短手が8メートル程度、長手が約40メートル以上にも及ぶ直方体を湾曲させた扇形状のギャラリーAと、やはり天井高は6メートルの立方体状のギャラリーB、水盤をもつ円形の屋外劇場など、その展示空間は個性的でかなりアーティストの力量が試されます。そのためある程度インスタレーションや彫刻をベースにしたアーティストが選定される傾向が高かったですが、今後少しずつこれも変化していくと思います。
ちなみにアーティスト・イン・レジデンスは春から夏にかけての指名と、秋から冬にかけての公募で、年2回実施しています。各シーズン3〜5名ずつ招聘しており、次年度は指名で春に1組、夏に3組。そして秋から冬の公募で日本人2名、外国人3名の計5名を招聘する予定です。公募のもうひとつ特徴としては、毎回公募の際に異なったテーマが設定されていることです。例えば今年度は"HOME"というテーマを打ち出してアーティストの募集をかけて、ポートフォリオだけでなくそれに対するプロポーザルとしてのプロジェクト提案、つまりここで何を制作するかにも重点がおかれています。

ということで、来年度秋冬の滞在アーティストの公募は数日中にスタートします。テーマはまだちょっと公開できないのですが、スケジュール的には以下になります。公募のガイドラインに関しては昨年度の情報を参考にしてください。
募集締切:2010年5月10日

招聘期間:9月13日〜11月26日

展示期間:10月23日〜11月21日

ちなみに、ACACでは参加型のプロジェクトも積極的に展開しており、3月1日から梅田哲也さんが滞在制作を開始し、3月6〜7日の2日間のワークショップをベースに展覧会を実施します。ギャラリーAの広大ですごい響きの空間を参加者と一緒に梅田さんがいかに変容させるか。とても楽しみです。こちらも3月28日まで個展として展示しますので、是非ご来場ください。

onishi_blog.jpg↑ACACのギャラリーです。 (photo;山本糾)


最後に僕の前職である秋吉台国際芸術村です。前述のふたつのアートセンターが美術(fine arts)に特化しているのとは対照的に、こちらはどんなジャンルのアーティストでも応募可能となっています。近年は海外アーティスト2名、国内アーティスト1名を受け入れており、国内在住アーティストのバックアップにも力を入れ始めています。出自が現代音楽ということもあって、展示スペースやワークショップなどはそんなに大きくはないのですが、その替わりに音響機材などは充実しているし、特徴ある音楽ホールも備えています。そしてなんと最大100名が滞在できる宿泊施設もあり、本当にひとつの村みたいなんですよね。

hall.jpg↑秋吉台のホールです。こちら造形だけでなく、音響やどこでもステージになるというシステムも興味深いです。

秋吉台は7〜9月が公募期間で、11月にアーティストを選定し、1〜3月が滞在制作期間となっています。つまり現在アーティストが滞在制作中ってことなんですよね。ちょうど秋吉台スタッフから滞在創作作品発表のお知らせをいただいたので、そちらを転載させていただきます。是非いちど行ってみてください。

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trans_2009-2010:レジデンスサポートプログラム 創作作品展示/パフォーマンス
"Space Reception (スペース レセプション)"

http://www.aiav.jp/programs/2010/trans_20092010/

秋吉台国際芸術村では、99年の開村以来、国内外の若いアーティストを招へいし、滞在創作活動と地域交流活動を支援するレジデンスサポートプログラムを行ってきました。今年度は、48ヶ国288組の中から3組4名のアーティストが選出され、異なる文化・生活環境のなかで制作に取り組んでいます。
レセプションとは、知覚、信号の受信、受け入れる過程、許容すること、また歓迎することを意味します。レジデンス成果展では、3組のアーティストそれぞれが山口という空間でレセプションした作品を展開します。

[レジデンス・アーティスト]
クレア・ヒーリー&ショーン・コーデイロ
ヴァレリア・ロクサナ・プリモスト
椎名 勇仁

[会期中のイベント] いずれも入場・参加無料(交流会をのぞく)
■滞在創作作品展示
3月6日(土)-3月16日(火) 10:30-17:00 ※初日のみ13:00-/会期中無休

■オープニングパフォーマンス
3月6日(土)14:00開演/場所:中庭パフォーマンスステージ ※雨天時ホール
ヴァレリア・プリモストによるオープニングパフォーマンス

■アーティスト・トーク
3月6日(土)15:00-/場所:本館1F・カフェ
ゲスト:藤川哲(山口大学准教授)、高橋 瑞木(水戸芸術館学芸員)
今回のレジデンス作品について、ゲストを迎えてアーティスト・トークを行います。

■交流会
3月6日(土)17:30-/本館1F・カフェ
アーティストたちとの交流会。軽食・ソフトドリンクあり。
参加費:一般1000円 大学生以下500円 ※FN会員は1割引

■ギャラリーツアー
3月14日(日) 13:30-14:30 /13:30に本館1F・カフェに集合してください。
芸術村スタッフが今回の滞在創作作品を紹介します。

■スペシャル・ゲスト・トーク
3月14日(日)15:00-17:00/宿泊棟2F・サロン
ゲスト:梶川泰司(デザインサイエンティスト/シナジェティクス研究所所長)
聞き手:椎名勇仁(アーティスト)
専門家を招き、レジデンス・アーティストが聞き手となってお話をうかがいます。

■会場・お問い合わせ 
秋吉台国際芸術村
〒754-0511 山口県美祢市秋芳町秋吉50
TEL:0837-63-0020 FAX:0837-63-0021

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最後に世界のアーティスト・イン・レジデンスに関するデータベースを国際交流基金さんが制作しているので、こちらもあわせてご参照ください。
http://www.jpf.go.jp/air/index_j.html


アーティスト・イン・レジデンスを、人材の発掘育成と地域の活性化や文化的な発展などの目的のために地方自治体が取り入れて約15年が経過したわけですが、人材についても文化振興についても10年やそこらでそんなに劇的に変化するものではないし、分かりやすい変化や効果は見えにくいと思います。ほんとうにゆっくりと着実に地域に根付いていけばいいなと思っています。ということで自治体や住民の皆さん、長い目で見守ってください。そしてアーティストのみなさん、どんどんレジデンスを利用して、ドキドキするようなプロジェクトを実現してください。

コメント(2)

ARCUSの日本人対象のサポートプログラムには公募などあるのでしょうか?
だれがどのように選ばれるのでしょうか?

ARCUSの遠藤です。

>服部君
記事訂正ありがとう。
ちなみに審査員の一人アブドラ・カルムは、いまAITのプログラムで来日しています。

>コメントくれた方
いまのところ公募ではなく内部選考になっています。申し訳ない。

ブロガー

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