引き続きもう一本投稿です。次は梅田哲也さんをお招きしてのワークショップ&展覧会について。こちらも3月28日で無事終了しました。
梅田さんは基本はライブも展覧会もひとりで粛々とつくりあげていくタイプで、ワークショップをベースにものをつくったりはそんなにしないタイプです。ライブの際のセッションも普段からよく知っている人とは実践するけど、その場のノリでセッションとかもあまりしてないみたいです。ただ、彼の作品のつくり方はすごく興味深いし、実際に出来上がってくるものも非常に魅力的なので、そこにWS参加者というある種の偶然として人の手が加わったらまた違ったものが構築されるのではないかと思い、ワークショップをお願いしてみました。
またかなり癖のある音の響きもすごい巨大なACACのギャラリーに対して、梅田さんならマッチョではない手法で面白い空間を生成できるのではないかという期待もありました。
梅田さんは基本はライブも展覧会もひとりで粛々とつくりあげていくタイプで、ワークショップをベースにものをつくったりはそんなにしないタイプです。ライブの際のセッションも普段からよく知っている人とは実践するけど、その場のノリでセッションとかもあまりしてないみたいです。ただ、彼の作品のつくり方はすごく興味深いし、実際に出来上がってくるものも非常に魅力的なので、そこにWS参加者というある種の偶然として人の手が加わったらまた違ったものが構築されるのではないかと思い、ワークショップをお願いしてみました。
またかなり癖のある音の響きもすごい巨大なACACのギャラリーに対して、梅田さんならマッチョではない手法で面白い空間を生成できるのではないかという期待もありました。
流れとしては3月1日に梅田さんが青森入りし、ワークショップ前の5日間である程度作品空間をつくっていきます。彼は「こういう絵を描きたい」とか「こんな感じのものをつくりたい」というイメージ(印象や感覚)から制作をスタートすることはなく、まず与えられた空間をよく観察し、その場所の特性をつかみ、そこに残る痕跡などを手がかりにして作品を構成します。また館内を隅々まで探索し、作品に利用できそうなものをどんどん発掘していきます。彼の手法の面白い一面として、展示ケース、ホースやロープにテープ類などどんな施設にも大抵ありそうなものと、ACACならではの雪対策の紅白ポールや基礎ブロックなどのその場所らしいものの両方を組み合わせることによって、その場所独自の空間を形成することがあげられます。また、それら既存のものに彼が持参したちょっとした装置などを組み合わせて、音や光を生成する空間をつくっていきます。
こうしてワークショップ前日までにある程度の空間をつくっておいて、そこで2日間のワークショップを実施することにより、参加者のみなさんには梅田さんの作品を鑑賞・体験してもらうだけでなく、その作品を完成させる一人としても作用してもらうことになりました。
↑事前準備の様子。高所作業台上の方はこのワークショップをずっと一緒にボランティアでつくってくれた田村さん。
ワークショップは作品鑑賞からスタートし、それぞれの参加者が見たものを絵に描いてもらいます。そしてそれをもとに議論し作品をもう一度注意深く鑑賞してもらって、参加者それぞれの視点で展覧会のタイトルをつけていく作業をしました。名前を与えるという作業は、対象について考えることを前提とするので、作品を体験し理解するすごくよい手がかりともなりました。
次に梅田さんが手がかりを残した作品部分に、事前に収集しておいたおもちゃや家電などを用いて、参加者がひとりずつそこにある痕跡を利用して、リレー形式で手を加えて完成させていきます。1日目はひとまずここで終了。
↑お米をガスで炊くときに発生する音を共振により増幅させる"鳴り釜"の音を用いたサウンドパフォーマンス
2日目はこの空間を用いてライブパフォーマンスをみんなでつくりました。キッチン用ボールとすり鉢やペットボトルなどを使って簡単な楽器をつくったりしつつ、それらを用いたセッションを通して少しずつ空間の特性や音の響きを捉え、各人が発する音を聞き、互いに呼応しながらどんどん音の波紋を広げていきます。空間や人やものとのコンタクトによる全参加者での即興セッションを経て、最後にはこの空間を最大限に体で把握した状態で、コンビを組んでパフォーマンスを披露しました。空間やものや人の動きを読み込み、それに対する反応としてのパフォーマンス。音で空間をつくる面白い試みとなりました。
↑こどもたちのパフォーマンス。お弁当箱の中にファンと磁石が仕込まれていて、箱上に金属のボルトやナット、ワッシャーなどを置くと飛び跳ねまわり面白いサウンドを発します。
このワークショップを経て梅田哲也個展「反イメージ進法」は3月9日よりスタートしました。
展示に関する詳細は東奥日報という地元紙に寄稿させていただいた記事より引用します。
音と光の波紋による静寂の風景
国際芸術センター青森で3月9日より梅田哲也個展「空間の法則/現象の方程式」がスタートした。梅田は大阪在住で世界各地を飛び回り活躍中の気鋭の音楽家であり美術家でもあるアーティストで、今回は3月6-7日に15名程度の参加者とワークショップを実施し、それを踏まえて音と光による空間を完成させた。
彼はその作品のつくり方が非常に独特で、まずは与えられた空間の特性やそこに残る痕跡を丁寧に観察する。次に敷地内を散策し、倉庫に眠っているものなどを集めてくる。今回は雪対策の紅白ポールやポリタンク、デッキブラシ、展示用ケース、さらには椅子などを拾得し、それに加えてボランティアの方々からいただいた扇風機なども用いている。高価な材料などを購入することはなく、収拾したものに彼が持参したちょっとした装置などを組み合わせて、簡単な電子工作により音や光を生成する空間をつくっていく。
ひとつ具体例を挙げると、60cm四方のアクリルの展示ケースに水を張り水槽とし、その中に電球を落とし、さらに水槽内にポンプ付きのホースを挿入して、その上空に吊られたポリタンクまでホースをつなげた装置をつくる。そのポリタンクは天井から1本のロープで吊られ、滑車を介して20メートルほど先に同じロープで吊られた巨大モビールとバランスをとっている。このモビールも館内にあったポールや木材、テープ類などでつくられている。定期的に電源が入るポンプで水槽の水が汲み上げられると、上空のタンクに溜まっていき、その先にあるモビールよりも重量が重くなると下降してくる。サイフォンの原理でその水はスイッチが切れるとタンクから下部の水槽に落ちていき、タンクがモビールより軽くなると今度はタンクが上昇する。これが10分間隔で繰り返される。結わえるロープがタンクの上昇とともに水中からあがるとき、その水滴が水槽に滴り美しい水の波紋を描く。そしてそれが水槽内の照明により乱反射し、ギャラリー内に水紋の渦をつくり出す。ちなみに水槽の横には天井から吊られたデッキブラシがあり、その下に真上に向けて風を吹き出す扇風機が置かれ、その上を風船が浮遊している。風船がブラシを吊るテグスに触れるとブラシは回転して小さな接触音をあげて水槽に触れ、あらたな水紋を描く。
このように梅田は普段人が気付かないがシンプルで当たり前の原理や現象を、音や光により体感できるかたちにする。ちなみに展覧会鑑賞のお勧めは周囲が暗くなる閉館間際の夕方5〜6時のあいだだ。
会期中はギャラリーBにて生花作家の辻綾子による個展「シェル・ファンタジー」も開催中で、何千というホタテの稚貝を表面に纏ったオブジェは必見。辻の手から紡がれる具象的な作品と、梅田の音と光による抽象的な風景の差異も非常に興味深い。どちらも3月28日までで、会期中は無休。
服部浩之(国際芸術センター青森学芸員)
本展覧会が3月28日に無事終了し、春と秋のAIRのカタログと季刊誌が仕上がりACACの平成21(2009)年度の事業はすべて完了しました。今年度は青森公立大学に完全に統合されたことで、色々遅れていますが間もなく詳細を発表できると思います。一応予定としては、写真家山本糾さんの個展を皮切りに、Nadegata Instant Partyによる滞在制作、そして藤浩志さん、小山田徹さん、高嶺格さんによる滞在制作と続く予定です。今後はACAC ウェブサイトにて確定次第スケジュールや内容など発表し、ACACブログにてアーティストの制作やプロジェクトの進行など逐次公開していこうと思いますので、ひきつづきよろしくお願いします。
そして是非みなさん青森に遊びにきて下さい。お待ちしてます。
こうしてワークショップ前日までにある程度の空間をつくっておいて、そこで2日間のワークショップを実施することにより、参加者のみなさんには梅田さんの作品を鑑賞・体験してもらうだけでなく、その作品を完成させる一人としても作用してもらうことになりました。
↑事前準備の様子。高所作業台上の方はこのワークショップをずっと一緒にボランティアでつくってくれた田村さん。
ワークショップは作品鑑賞からスタートし、それぞれの参加者が見たものを絵に描いてもらいます。そしてそれをもとに議論し作品をもう一度注意深く鑑賞してもらって、参加者それぞれの視点で展覧会のタイトルをつけていく作業をしました。名前を与えるという作業は、対象について考えることを前提とするので、作品を体験し理解するすごくよい手がかりともなりました。
次に梅田さんが手がかりを残した作品部分に、事前に収集しておいたおもちゃや家電などを用いて、参加者がひとりずつそこにある痕跡を利用して、リレー形式で手を加えて完成させていきます。1日目はひとまずここで終了。
↑お米をガスで炊くときに発生する音を共振により増幅させる"鳴り釜"の音を用いたサウンドパフォーマンス
2日目はこの空間を用いてライブパフォーマンスをみんなでつくりました。キッチン用ボールとすり鉢やペットボトルなどを使って簡単な楽器をつくったりしつつ、それらを用いたセッションを通して少しずつ空間の特性や音の響きを捉え、各人が発する音を聞き、互いに呼応しながらどんどん音の波紋を広げていきます。空間や人やものとのコンタクトによる全参加者での即興セッションを経て、最後にはこの空間を最大限に体で把握した状態で、コンビを組んでパフォーマンスを披露しました。空間やものや人の動きを読み込み、それに対する反応としてのパフォーマンス。音で空間をつくる面白い試みとなりました。
↑こどもたちのパフォーマンス。お弁当箱の中にファンと磁石が仕込まれていて、箱上に金属のボルトやナット、ワッシャーなどを置くと飛び跳ねまわり面白いサウンドを発します。
このワークショップを経て梅田哲也個展「反イメージ進法」は3月9日よりスタートしました。
展示に関する詳細は東奥日報という地元紙に寄稿させていただいた記事より引用します。
音と光の波紋による静寂の風景
国際芸術センター青森で3月9日より梅田哲也個展「空間の法則/現象の方程式」がスタートした。梅田は大阪在住で世界各地を飛び回り活躍中の気鋭の音楽家であり美術家でもあるアーティストで、今回は3月6-7日に15名程度の参加者とワークショップを実施し、それを踏まえて音と光による空間を完成させた。
彼はその作品のつくり方が非常に独特で、まずは与えられた空間の特性やそこに残る痕跡を丁寧に観察する。次に敷地内を散策し、倉庫に眠っているものなどを集めてくる。今回は雪対策の紅白ポールやポリタンク、デッキブラシ、展示用ケース、さらには椅子などを拾得し、それに加えてボランティアの方々からいただいた扇風機なども用いている。高価な材料などを購入することはなく、収拾したものに彼が持参したちょっとした装置などを組み合わせて、簡単な電子工作により音や光を生成する空間をつくっていく。
ひとつ具体例を挙げると、60cm四方のアクリルの展示ケースに水を張り水槽とし、その中に電球を落とし、さらに水槽内にポンプ付きのホースを挿入して、その上空に吊られたポリタンクまでホースをつなげた装置をつくる。そのポリタンクは天井から1本のロープで吊られ、滑車を介して20メートルほど先に同じロープで吊られた巨大モビールとバランスをとっている。このモビールも館内にあったポールや木材、テープ類などでつくられている。定期的に電源が入るポンプで水槽の水が汲み上げられると、上空のタンクに溜まっていき、その先にあるモビールよりも重量が重くなると下降してくる。サイフォンの原理でその水はスイッチが切れるとタンクから下部の水槽に落ちていき、タンクがモビールより軽くなると今度はタンクが上昇する。これが10分間隔で繰り返される。結わえるロープがタンクの上昇とともに水中からあがるとき、その水滴が水槽に滴り美しい水の波紋を描く。そしてそれが水槽内の照明により乱反射し、ギャラリー内に水紋の渦をつくり出す。ちなみに水槽の横には天井から吊られたデッキブラシがあり、その下に真上に向けて風を吹き出す扇風機が置かれ、その上を風船が浮遊している。風船がブラシを吊るテグスに触れるとブラシは回転して小さな接触音をあげて水槽に触れ、あらたな水紋を描く。
このように梅田は普段人が気付かないがシンプルで当たり前の原理や現象を、音や光により体感できるかたちにする。ちなみに展覧会鑑賞のお勧めは周囲が暗くなる閉館間際の夕方5〜6時のあいだだ。
会期中はギャラリーBにて生花作家の辻綾子による個展「シェル・ファンタジー」も開催中で、何千というホタテの稚貝を表面に纏ったオブジェは必見。辻の手から紡がれる具象的な作品と、梅田の音と光による抽象的な風景の差異も非常に興味深い。どちらも3月28日までで、会期中は無休。
服部浩之(国際芸術センター青森学芸員)
本展覧会が3月28日に無事終了し、春と秋のAIRのカタログと季刊誌が仕上がりACACの平成21(2009)年度の事業はすべて完了しました。今年度は青森公立大学に完全に統合されたことで、色々遅れていますが間もなく詳細を発表できると思います。一応予定としては、写真家山本糾さんの個展を皮切りに、Nadegata Instant Partyによる滞在制作、そして藤浩志さん、小山田徹さん、高嶺格さんによる滞在制作と続く予定です。今後はACAC ウェブサイトにて確定次第スケジュールや内容など発表し、ACACブログにてアーティストの制作やプロジェクトの進行など逐次公開していこうと思いますので、ひきつづきよろしくお願いします。
そして是非みなさん青森に遊びにきて下さい。お待ちしてます。