このたびGASBON METABOLISMでは、美術作家・成田輝の個展「遠くのペラペラ」を開催いたします。本展では、登山時に見た眺めが、まるで平面のように見えたという体験をきっかけに、空間の把握とその錯覚について問い直し続けてきた作家が、「見ること」と「存在すること」に向き合う新作レリーフ18点を発表します。本展タイトルである「遠くのペラペラ」は、そうした視覚体験から浮上する感覚のズレ、認知のフラット化、そして“仮象”としての風景への皮肉とも読み取れる言葉です。

成田は2020年に弊社が運営する東京・西麻布のCALM & PUNK GALLERYで個展「Reproduction」を開催しており、立体作品やドローイング作品を展示しました。2024年には、CALM & PUNK GALLERYと韓国・ソウルを拠点として実験的なアートへのアプローチに挑戦するギャラリーsangheeutがそれぞれの国のアーティストを紹介する展覧会交流プログラム「Alter Being」において、sangheeutでの展示に参加しました。GASBON METABOLISMでも作品を常設展示するなど、継続的な関わりを持ってきた作家の一人です。

主作品となる新作《不在の視線》は、縦長の黒い鏡面に景色を凹凸で表現しつつ、近づいた観覧者の目には自分自身の姿が映りこむ構造になっています。 本展に向けてテキストを寄せた美術評論家・山内舞子は本作について「古代ギリシャ以来の芸術における主要命題のひとつ『実在と仮象』が2セット出現する」と述べ、そこには「鑑賞者」と「作品に映る鑑賞者の姿」、そして「作品」と「鑑賞者の網膜上で結ばれた像」という関係が立ち現れるといいます。本作は、前述の登山体験を鑑賞者に追体験させるかのように、実際の山並みを臨む主展示室の窓と向き合うかたちで展示されます。

ステートメント
遠くの山が平面的に見えた体験が、制作の出発点となっている。
その時の山は確かに実在していたが、どこか懐疑的な感覚を伴っていた。
色のコントラストの問題なのか、物体としてあまりにも大きすぎるせいなのか——
そのためにボリュームを把握できなかったのかは分からない。ただ、輪郭だけがはっきりと見え、その様子がまるで背景画のように、現実ではなくイメージの世界に属しているように感じられた。

この体験をもとに、現実をいったん平面化し、距離をとるようにして捉え直す。
そして、そのイメージをもとに、物質を用いて三次元空間へと再構成していく——
空間を探るように。
この過程は、一度フラットになった現実を、自分の身体を媒介にして物質的な現実へと再び立ち上げるプロセスであり、イメージと現実、視線と物質のあいだを行き来する往復運動でもある。
そのなかでは、誰のものとも知れない不在の視線が、余白を生み出している。

イメージは物質となり、やがて再びフラットな像へと還っていく。
その揺らぎの中で、「見ること」と「存在すること」の輪郭を探っている。

成田輝