最後の庭

20代半ば。山形で暮らしていた頃、ふと最後の砦という言葉が頭をよぎった。庭でぼんやりと花や遠くの山を眺めていて、いや、ここは最後の庭なのかもしれないと思った。

10代後半を神奈川で過ごし、大学入学を機に山形へ戻った。先のことは何もわからなかったが、ただ絵を描くことだけを考えていた。
山形は穏やかな街のようでいて、子どもの頃に親しんだ景色や人の多くはすでに失われていた。その後再び上京し10年が経ち、あの頃見ていた風景も今はもう違うものになっている。

実家の庭には、今も母の愛する草花が所狭しと植えられている。

人との関係に深く根を下ろすことがあまり得意ではなかった。いくつかの場所を移りながら、どこか浅い関わりのまま過ごしてきたように思う。
それでも季節が巡り、それぞれの花が咲くとき、かつてそこにいた人や、遠くにいる誰か、昔見た景色を思い出したりする。

誰にとっても、今いる場所が最後の庭になるのだと思う。今暮らしている街もすぐに姿を変えてしまうだろう。
それでも、このとりとめのない瞬間、その空気を、私の理想郷として描きたい。

多田さやか



Opening Reception : 5/2 (sat) 16:00 − 19:00

Gallery Talk : 5/9 (sat) 15:00 −
中村ケンゴ Kengo Nakamura × 多田さやか