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北海道  吉崎元章
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exhibition佐々木秀明展『雫を聴く』

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佐々木秀明展

佐々木秀明展
展示風景

 薄暗い室内。壁に並ぶ楕円形の光、時折ピチャという雫の音が静寂をやぶり、それとともにひとつの楕円の光がろうそくの炎のように揺らめく……。そこは静かに時が流れ、いつまでも不規則に揺れる光をぼーっと見ていたくなる心地いい空間である。'98年8月のギャラリーSEEDに引き続いての個展であるが、前回同様、これほど心休まる作品を僕は他にあまり知らない。雫の音の主は、ガラス製の漏斗に入った氷が室温で溶けて、その下の浅いガラス皿に張った水に落ちる音。揺れる光は、この張った水に小さなスポットライトを当てているために、雫による波紋によって生み出される。この壁に整然と並べられたガラスとアルミと電球による丁寧な作りの装置は、学校の理科室にあった実験器具のようで、どこか懐かしささえ感じさせる。しかし、作品の主役は、氷、水、光という根元的な物質であり、それらのごく当たり前の自然現象から導かれる時間と空間の演出である。
 佐々木秀明(1958- )は、石狩にある廃校となった小学校を借りてアトリエとしながら、札幌、東京、パリなどでの個展を中心に活動している。また、1992年の山田勇男監督映画『アンモナイトの囁きを聞いた』をはじめ、いくつかの映画や舞台の美術も担当している。『雫を聴く』シリーズは6年前から手がけているが、それ以前は、小さな箱に古い写真や流木、貝殻、玩具、歯車などの廃品を組み合わせ密封した作品を展開していた。別々の時間を過ごしてきた物たちが1つの箱に密閉され、記憶の断片が入り交じることによって、見る者の個々の物語を引き出していくような作品である。しかし、彼はこの『雫を聴く』シリーズは「物語発生以前を問題にしたい」のだという。人は意識するしないに関わらず、物に対してさまざまな意味、象徴、メタファーを持ち、それは文化、宗教、伝統、地域性によって大きく異なっている。このずれが発生する前の原初的な部分、基層のところで表現できるものとし、水や光を用いるようになったのだということを1995年の個展にあてた文章で語っている。これまでの『雫を聴く』シリーズでは、分液漏斗という器具で水滴を落としていたが、今回の作品ではじめて氷を用いている。氷が溶けて、雫となって落ち、波紋を広げ、光が揺らめく。この作品によって、彼が求める普遍的な世界は、さらに深まりを増した。
 それにしても、脳の深いところに働きかけてくるような、そしてほとんど忘れかけている遠い記憶をくすぐるような、不思議な感覚を覚える作品である。
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会場:TEMPORARY SPACE
   札幌市中央区北4条西27丁目
会期:1999年12月6日(月)〜12月30日(木)
開館:11:00〜19:00 休館日=毎週日曜日
問い合わせ:Tel. 011-631-7555

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新しい二つの美術館
report西村計雄記念美術館 小川原脩記念美術館

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共和町、西村計雄記念美術館
共和町、西村計雄記念美術館

共和町、西村計雄記念美術館

小川原脩記念美術館
倶知安町、小川原脩記念美術館

小川原脩記念美術館

しりべしミュージアムロード

 北海道のなかでも後志地方は、地元出身の芸術家の作品を収集展示する個人美術館が多い地域である。スキー・リゾート地としても名高いニセコ連峰や蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山など、この地の雄大な自然が優れた芸術家を育む大きな要因になっているのだろう。この地域に点在する木田金次郎美術館(岩内町)、荒井記念美術館(岩内町)、国松登ギャラリー(真狩村)、有島記念館(ニセコ町)という4つの美術館や文学館を巡る周遊コースは、1995年に「しりべしミュージアムロード」と名付けられ、協力し合いながら共同で広報活動などを行ってきた。札幌から車で数時間ほどの距離であり、途中の「ニセコパノラマライン」と呼ばれる風光明媚な峠越えを含むルートは、自然と美術を楽しめる絶好のドライブコースとして人気が高い。

 昨年の11月初頭、この地域にさらにふたつの美術館が相次いでオープンし、「しりべしミュージアムロード」に仲間入りした。共和町に西村計雄記念美術館、倶知安町に小川原脩記念美術館。いずれも地元出身の洋画家の公立の個人美術館であり、作家からの寄贈をもとにしたほぼ同規模の建物である。

 西村計雄(1909- )は、東京美術学校で藤村武二に師事し、卒業後、文展などに入選、入賞したのち、1951年に42歳で単身で渡仏。ピカソの画商として知られるカーンワイラーに認められ、フランスで評価を高めた。自然の情景から想を得た光や風を感じさせる流麗な線が織りなす世界を特徴としている。開館記念展として「光と風の詩情〜西村計雄の世界」と題し、東京美術学校時代から近作までの約70点によって、作品の変遷をわかりやすく追っている。

 一方、小川原脩(1911- )は、東京美術学校に学び、戦前には前衛的な絵画グループに参加し、「池袋モンパルナス」の作家たちとの交流を通してシュルレアリスムに傾倒。戦後は故郷に戻り制作活動を続けている。60歳を越えてからはアジアへの関心を高め、旅先での取材もとに叙情豊かな作品を描いている。美術館では、常設展として中国、チベット、インドに取材した27点、企画展として20歳代の作品17点を展示している。

 こうした郷里に建てられた美術館の醍醐味は、作家の原風景となっているその地の風土を肌で感じながら、作品と接することができることであろう。小川原脩記念美術館の背景に広がる壮大な羊蹄山の姿もさることながら、小高い丘に佇む西村計雄記念美術館の窓から眼下に広がる何もない真っ白な雪原は実に美しかった(僕が訪れたのが前晩からの雪が上がり晴れわたった日であったため、特別なのだと学芸員は言っていたが…)。故郷の倶知安町に暮らす小川原とは対照的に西村はパリや東京に活動の場を求めたが、「いつでも、何につけても、故郷の小澤の風景が頭に浮かんでくる」というように、彼の心の底にはこの地の風景が焼き付いている。

 どこの美術館でも開館間もなくのころは、珍しさも手伝って来館者も多い。入館者を維持し、魅力的な美術館であり続けるためにはどうしたらいいのか。観光地としての集客だけではなく、地元住民の文化の拠点としての活動に今後の真価が問われるところであろう。
 なお、今年4月には、さらに中山峠に、アールヌーヴォーを中心とした19世紀末のヨーロッパのガラス工芸品や家具、野鳥の写真を展示する喜茂別町立の美術館が開館し、「しりべしミュージアムロード」に参画する予定である。

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(1) 西村計雄記念美術館
   北海道共和町南幌似143-2
  電話:0135-71-2525
 開館:10:00〜18:00 休館日=月曜日(月曜が祝日の場合はその翌日)・年末年始
 入場料:一般500円/高大生200円/小中生100円

(2) 小川原脩記念美術館
   北海道共和町南幌似143-2
  電話:0135-71-2525
 開館:90:00〜17:00 休館日=火曜日および12/31〜1/5
 入場料:大人500円/高校生200円/小中生100円
  http://www.tokeidai.co.jp/ogawara-museum/


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report学芸員レポート[札幌芸術の森美術館]

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 最近、テレビゲームやコンピュータゲームなど、インタラクティブ性を備えた画像表現に興味を持っている。と言えば聞こえはいいが、端で見るとただ遊んでいるようにしか見えないかもしれない。実を言うとほとんど自分の娯楽としてやっているところも強いのだが、その質の高さに思わず唸ってしまうことも少なくない。
 なかでも先日ようやく手に入れた『セレモニー・オブ・イノセンス〜グリフィンとサビーヌの不思議な文通』(http://www.photon-lab.co.jp/index.html)というCD-ROMがとてもおもしろい。ロンドンのアーティストのもとに、見知らぬ女性から一通の絵はがきが届く。そこには、誰にも見せていないはずの制作途中の絵に対する感想が書かれている。その後、この男女の絵はがきのやりとりがはじまり、はがきの絵と手紙によってストーリーが進められていくのである。3部構成全58通の絵はがきには遊び心あふれる仕掛けが随所に隠されており、画像とナレーション(藤谷美和子、光石研、緒方拳)によって知らず知らずのうちに不思議な世界に引き込まれていく。数年前に動く絵本とも言える『LuLu』が出たときも、インタラクティブ性の持つ表現の新たな可能性を見た想いがしたが、この分野、ますます目が離せなくなってきている。
 ここ数年、マンガの展覧会があちこちで開催されているように、この種の作品を扱った展覧会というものがいつか開かれるはずであり、いずれしっかりと位置づけしていかなければならないものであろう。その日に向けて、今日もゲームに勤しむのも学芸員の仕事である。?

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