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Recommendation
岡山  柳沢秀行
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exhibition中山巍展

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画室の男
「画室の男」
1926 (大正15) 頃
油彩・カンバス
岡山県立美術館蔵

画室の一隅
「画室の一隅」
1952(昭和27)
油彩・カンバス
岡山県立美術館蔵

緑の窓辺
「緑の窓辺」
1961(昭和36)
油彩・カンバス
個人蔵

写真:岡山県立美術館
カタログより
※画像をクリックすると拡大して見られます

 いささか泣きを入れながら、先月も触れ回った「中山巍」展。
おかげさまで、このページを見て「かわいそうだから、見に行ってあげる」という遠来のお客さまの声もありまして、本当にありがとうございます。
 さて始まりました。台風直下の9月24日。もっとも、その後は晴天続きで良し。
と思いきや、この時期晴天続きだと、みんな行っちゃうんだよね。アウトドア。ですから今のところ、静かにじっくりと鑑賞できます。
 さて前回、自主企画について、それから中山の作品が低い評価にとどまってきたこと、そしてその一因として作家自身の加筆について書き留めました。今回は、もう一つ中山の作品がなかなか受け入れられなかった要因について、中学生達の作品鑑賞とからめてお伝えします。
 以前から、地元の岡山大学付属中学校が美術館を活用しての作品鑑賞に取り組んでいます。それも事前、事後の授業をしっかり組み込み、学年毎の積み重ねの段階に応じてプログラムを組んで下さいますから、担当の先生には本当に頭がさがります。美術館としても、それをフォローすべく立ち回りますが、幾度となく共同作業をこなした今となっては、生徒を美術館に迎え入れてからは、先生と私で、そりゃ見事な役割分担で、指示、注意、展示場で集中のとぎれた生徒へのてこ入れにあたります。
 今回は、2年生が一クラスずつ来館し、中山巍展を素材に「一人の作家を対象に、その文法の一貫性と変化を見いだそう」という内容です。
 と言うと難しそうですが、生徒達には展覧会場の壁の配置図だけを渡したうえで「描かれているもの、形や構図、色、それに色の塗り方など、いくつかの観察の視点があるね。いろいろな観点から作品を観察して、どこにある作品(どのコーナー)が、どの点では共通しているのか、どの点では異なるのか? あるいは遠く離れた場所に展示された、あの作品とあの作品に、こんな共通点がある、といったことを見つけてゆこう」と指示して後は生徒達にまかせます。
 ただ今回は私から、生徒が気づきにくい観察の視点を与えるために「一つだけキーワード。四角形に注目」と言い添えました。
 実はこの四角形=矩形が中山作品の特徴なのです。彼は画面に画中画や鏡、窓、扉、椅子の背面、カーペットなどの矩形を導入して、実に複雑な画面を構成します。日本の近代絵画史上、中山ほど多様に、それも生涯に渡って矩形を画面構造のメインに取り込み、造形的なアクセント、鏡を使用した屈折した視線、画中画を利用した絵画制作の寓意など、様々なレベルで機能させた画家は、他にいないでしょう。
 ただその試みがあまりに複雑であったり、彼の作品がまとまって展観される機会がなかったため、これまで評者によってきちんと指摘されることがなく、彼の腐心がなかなか効果的に観者に伝わりませんでした。また、眼に映ずるそのままを描いた作品の率直な美しさに対して、こうした主知的な操作が加わった作品では、いささか知が勝ったぎこちなさを感じさせたりもします(それだけ達者な手であったという事でもありますが)。こうした画面構造に起因する理由が、これまでの中山作品を低い評価に甘んじさせた一因だとも思います。
 ですから、こんな点にも気付いて欲しいし、何より中学生が展示場に向かうモチベーションを高めるためにも「一つだけキーワード。四角形に注目」と言っておくわけです。
 さて、たいてい、この四角探しから始まるのが男子生徒。中にはいきなり図録をぺらぺら見ながら四角探しを始める者もいます(そんな時はおもむろに近づいて「そこに載ってる写真と、実物の作品の違うところ、どこだ?」と尋ねながら対話を始め、マチエールとサイズが写真では欠落する情報だということを確認させ、そのサイズの問題から図録を見るだけでは、かえって四角形は見つからないよと作品の前に立つことをうながします。)
 その点女子生徒は、あまり四角形探しにはこだわらないで作品を見始めますが、どうも画中画をまず見つけるのは女子生徒です。それに男子生徒は画中画を見つけると「はい、見つかった。終わり」パターンが多く、一方女子生徒は、そこからまたたんたんと作品を観察し、結局は窓や鏡など他の矩形をも見いだす生徒が多いようです。
 もっとも、男女各全員がこのパターンにはまるわけでもないのは言うまでもなく、それにこうした状況が生まれるには、自分が絵を熱中して見ている姿を人に見られたくないという男子生徒の照れ隠しもあります。ただいずれにせよ「もう解った。はい終わり」の人は作品鑑賞で損をするし、それから鑑賞は、特定の個人に与えられた特殊な才能ではなく、観察力と想像力とを動員する、ある程度の訓練可能なことであるのは確かなようです。
 さてさて、1時間展示場で没頭して過ごしてくれた生徒は、終了後、私の方から上記のようなことを述べて、たった今の体験を整理してあげると、「うんうん。そうだった」となります。一方で、なにせそういった現実的な体験を持てなかった生徒には「鑑賞能力は特定の個人に与えられた特別な才能ではない」と言いっても「ぽかーん」です。この子達がこのまま成人男子になり、そして社会のイニシアチブを握るのだとしたら…。我々もがんばらねば(でも今すでに成人男子はいるんだよな…。きっと現実感がないまま「ぽかーん」で、でも「ぽかーん」な現実感の周りに知識だけは身につけちゃった人が)。
 さてさて、こんな中学2年生の集団ですが、たいていは加筆の有無、フランスからの帰国前後の主題の変化、戦争期の記録画の外圧下での制作などは、きちんと発見してゆきます。中には見たままそのままを描いたような作品と、一度画家が頭で処理して画面を構成している作品の違い(展示場ではこれらをたいてい対峙させています)を指摘する生徒もいます。
 このように、今回の鑑賞授業は、その作品を成立させている文法=方法論の読みとり、さらにはそれに対する展示者(学芸員)の解釈の読みとりが主眼とされているわけですが、最後にひとつ。
 かなり敏感に観察し、それを整理してゆける生徒でも、中山巍の戦後作品になるとほとんど同じように見えてしまうようです。「キーワードは四角形」。これに対して画中画、鏡、窓などの具象形態のうちは彼等の思考も及ぶのですが、これが戦後作品になり、その四角形が何かの具象形態に依存することなく、まさに四角の色面となって画面に現れると、とたんに見極めが悪くなります。
 中山巍は、1958年65歳にして脳出血で倒れて以降、左半身不随になり、それを境にスタイルが明確に変わるのですが、中学生には色面による構成から、色面による構成であって、その変化があまり読みとれないようです。すでにそこに至るまでに100点以上見ているゆえ、彼等の集中力が消耗してしまっているのも確かですが、やはり具象形態に依存しない抽象的な構成の画面を対象にすると、それを観察して、その文法を見定めるのは、いささか難しいようです。
 こうした点から、抽象絵画の方法論の読みとりも鑑賞授業に明確に枠を設けて組み入れて置く方がよいのかなと思います。もっとも「だから抽象は難しい」と思われる(その先には、いわゆる現代美術は…が待っているし)のも困ります。それゆえ今のところ私は、観者が抽象絵画と仲良くなる入口として、作品の造形的な分析の前に、その作品を基点に自分なりのイメージを紡ぎ出す「自分語り」から抽象絵画に取り組むようにしています。またこんなことも改めて書き留める機会があればと思います。
 何はともあれ、油彩だけで167点、うち個人所蔵約60点、初出約40点、水彩、素描合わせ総点数257点もが展示されています。ねえ、お願い、時間と経済的に無理のない方は是非見に来て下さい。すごいんだから。
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会場:岡山県立美術館自主企画特別展 中山巍(たかし)
会期:1999年9月24日(金)〜11月7日(日)
月曜休館。ただし10月11日は開館、翌日が休館
一般700円

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exhibitionクロスオーバー10 若い表現者たちの?(問い)

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クロスオーバー10 若い表現者たちの?(問い)

いよいよ近づきました「クロスオーバー10 若い表現者たちの?(問い)」。
日頃は公募団体展の貸会場として機能している岡山県総合文化センター(岡山県立美術館の隣)が自主企画として取り組む数少ない展覧会。
 あの熱い60年代に産声をあげた汎瀬戸内現代美術展を引き受けるもので、もともと汎瀬戸内7県+高知で実施していた汎瀬戸内現代美術展が衣替えをし、瀬戸内海に面した兵庫、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、それに高知、さらには鳥取、島根の10県在住者を対象にした現代美術展です。
 出品作家は鳥取・松本文仁、島根・竹田茂、山口・秋貞勇、広島・柴川敏之、岡山・金平靖子と宮地恵子、愛媛・藤田雅彦、高知・川埜龍三、徳島・三木健司、香川・村井知之、兵庫・日野田祟という各県代表各一名(地元岡山のみが2名)。平均年齢は30歳代の前半となる実にフレッシュな顔ぶれです。
 もっとも、非公式ながら香川は毛利(高松市美)、高知は松本(高知県美)、山口は河野(山口県美)という頼りがいのある学芸員さん達が選んできた作家達ですから、まさに中四国山陰のイキの良い作家が集まっています。
 なにせ汎瀬戸内現代美術展からクロスオーバー10と衣替えしたばかりで、まだいろいろ問題があるところからのスタートですが、汎瀬戸当初の勢いをしのぎ、いつか各県毎が西日本の覇を競うべく力を注ぎ尽くし、いずれはアーティストとコミッショナーが瀬戸内を軍艦で渡って乗り付けるような展覧会になればいいな。
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会場:岡山県総合文化センター
会期:1999年10月20日(水)〜10月31日(日)
問い合わせ:Tel. 086-224-1286
入場無料
※10月24日(日) 午前11時と午後2時
柳沢秀行をナビゲーターに、双方向ギャラリートークあり

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report学芸員レポート[岡山県立美術館]

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徳田さん

徳田さん
徳田さん

 先月号の村田真さんの記事中、8月6日の欄に「徳田さんにムリヤリ引っぱり込まれたっつーか。徳田さんてだれ?」とある。その徳田さんについてふれさせていただきます。
 ともかく岡山在住者に限らず、一度岡山を訪れたアーティストや芸術文化関係者の多くが「ああ、あの人」と知る徳田さん。
 お名前は徳田恭子(とくだ・きょうこ)。肩書きは、どれにしたら良いのかわからないほどで「染織家」「岡山県立美術館ボランティア」に始まり、「中学校心の教室相談員」「元・学区の交通安全母の会会長」から「日本女性会議副委員長」まで。でもたいていは、もう「あの徳田さん」に落ち着きます。
 年齢は写真から想像していただきたいが、現在東京の某美術系大学に通う娘さんがいらっしゃいます。生まれは岡山県、自身も東京の美術系大学に学び、若かりし頃はさぞや…だったのでしょう。以前、ここでも紹介したデビットホールでのコンサートの際、芸大出たての若い演奏家達が、スタッフとして会場にいた徳田さんを見て「だれ、あのセンスのよい人」とリハーサルの時から噂していて、懇親会で、すかさず人気者になってしまったこともある、今でも格好いいおばさま(失礼お姉さま)です。
 では何が彼女をここに紹介させるほどなのか。ともかくそれも形容し難いのですが、ともかく、基本的には一度あったらみんな友達。もちろん宴会、飲み会大好き。そして友達に対して出来ることは精一杯助力するのです。その交遊の広さと、サポートの質が見事。
 主な友達?としては同じ学区に住む江田五月(徳ちゃんと呼ばれ、すっかりお馴染み)、岡山県知事(さすがに相手は覚えていないらしい)、岡山市長(もうすっかり友達)、それにベネッセの社長(やはり徳ちゃんと呼ばれている)といったお歴々。
 それからベネッセさんの直島では、先の直島会議の折り、北川フラムちゃん(本人曰く)とすっかりお友達で飲み明かし、以前、酔った勢いで南條さんにギャラリートークをしてもらっていた。
 岡山県立美術館での展覧会の際、開会前夜の飲み会で出品作家の藤本由紀夫さんに「明日のオープニング、私を愛人として連れてって」とのたまい、ヤノベケンジ夫妻には一度夕食をご馳走しちゃった経歴も持つ。
 こう書くと有名人好きのミーハーなおばちゃんだと思う方もいるかもしれないが、それがまったく話が逆。相手に媚びることは絶対になく、相手がなんだがわからなくても、会って楽しい人とはすぐに意気投合。それになにしろ地元の皆さんのために実に惜しまずいろいろサポートしてくれるので、若い女性陣からは「キョンキョン」と呼ばれる始末?
 なかでも宴会セッティングは、おてのもの。かつて岡山に存在した自由工場においては、何かあると徳田部隊による夜食の供給が行われ、それが乾き物など論外で、手作りパンから美味しいお総菜、もちろんアルコールばっちり。先般も、とあるシンポジウムで福岡から宮本初音女史が来てくれた際の懇親会で「こんな場におでんを出すとは、なかなかやるな」と岡山食料部隊の実力を高く評価していただきましたが、それもまた徳田さんのなせる技。こんな様子だから、一般の飲食店を活用してのコンパのセッティングなどおちゃのこさいさい。私の結婚披露パーティーでは、来客300人をビール片手に楽々さばいてしまいました。
 それにベネッセのキュレーター秋元雄二氏をして「徳田さんがいると、どんな話題も話がヘビーにならずいいよね」と言わしめたほど、下準備をばっちやったあとの酒席でも、彼女の存在でムードは一変する。
 その他、県立美術館にある自家製の看板やキャプションの類は、原稿を出力してからは、徳田さんの独壇場。実に丁寧でセンス良く、仕立て上げてくれます。要注目。
 そんな徳田さんに私もいろいろお世話になりながら、いろいろな局面で一緒に仕事をしますが、最近没頭しているのが近隣の芸術文化関係者のお見合いセッティング。堂々と飲み会を仕立てることもあれば、展覧会のオープニングやらシンポジウムやらの打ち上げを活用して、こまめに若い男女を引き合わせる(そのために展覧会やシンポジウムを仕立てているのではと、自分でも思うほど)。昨年は見事4週連続?で「打ち上げ会で偶然に会ってしまった」二人が見事ゴールインし、その披露パーティーも徳田、柳沢で仕切ってしまいました。
 まあ、ぜひ一度会って見て下さい。ここでのご紹介がすべて「ああ、なるほど、こういう人なのね」と、すっきりわかってしまう、ほんとうにすてきな女性です。
 アーティストも、アートマネージャーも大事ですが、普段は表に出てこない、こんな方の存在が、地方の芸術文化を支えているのではないでしょうか(実は岡山は、ここが一番強い)。そのように思い、あえてこの場で紹介させていただきました。

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