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東京  荒木夏実
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report学芸員レポート[三鷹市芸術文化センター]

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 9月に初めてニューヨークへ行ってきた。ヨーロッパ、アジアが優先していてこれまで行く機会を逸していたのだが、予想以上にゴキゲンな街で、アートざんまいの毎日を心ゆくまで満喫することができた。訪れた場所をいくつかご報告したい。

.. ISP(International Studio Program)

ISPにて 左は中山ダイスケ氏
ISPにて 左は中山ダイスケ氏

 現在NYに滞在しているアーティスト中山ダイスケさんの案内で、アーティスト・イン・レジデンスの組織であるISPを訪れた。ここには6部屋ほどのスタジオがあり、各国からの作家が制作を行っている。中山さんも昨年ここに受け入れられたのである。ディレクターのデニス・エリオットから色々お話を伺った。作家たちはおのおの自国で奨学金をとった上でISPへ申請し、費用を支払うしくみになっている。プログラムは実に機能的にオーガナイズされており、定期的に行われる美術関係者の訪問が作家にとっては大きなチャンスとなる。主要な美術館のキュレーターや著名な批評家へのプレゼンテーションがNYでの個展開催のきっかけとなったりするのである。デニスはスポンサーやマスコミ、美術界とのコネクションを強化するために奔走し、より大きな建物に組織を移すことやプログラムの新たな展開を計画している。アートとアーティストへの愛情と社会貢献への信念がなければこのような優れたプログラムは存続し得ないであろう。

.. ソーホー

デイヴィッド・ツヴィルナーでの 曽根裕展
デイヴィッド・ツヴィルナーでの
曽根裕展

マーガレット・キルガレンの作品
マーガレット・キルガレンの作品

 デイヴィッド・ツヴィルナー・ギャラリーで曽根裕展のオープニングに出席。植物の鉢を所狭しと並べ、その中にいくつもの大理石の彫刻を配したジャングルのインスタレーションは最高の出来であった。それにパーティーの雰囲気がとても良い。神妙な顔をしている人など一人もいなくて、心から楽しそう。子供たちはかくれんぼに夢中だ。2日後に改めて見に行くと、オーナーのデイヴィッドは美術関係者の対応に大忙しであった。作品購入の話などが実に早いテンポで進んでいく様子がうかがえる。多くの人が率直にショーを楽しみ、そしてビジネスも着実に行われていく。なんて健全な状況なのだろうと感動をおぼえた。ジェフリー・ダイチのギャラリー、ダイチ・プロジェクツではレーン・トゥヴィッチェルの細密画のような美しい平面作品と壁いっぱいの空間を使ったマーガレット・キルガレンの作品が展示されていた。気持ち良いスペースだ。New MuseumのThe Time of Our Lives展は、作品解説のパネルが全て高校生や一般の来館者の感想によって作られている。画期的な方法だと思う。

.. チェルシー

アンドレアス・スロミンスキ展
アンドレアス・スロミンスキ展

 NYのギャラリーの中心は今、ソーホー地区からチェルシーへと移っている。夏休みが終わった9月は各ギャラリーが「勝負」に出る季節だと聞く。オープニング巡りの人々でこの界隈はにぎわっていた。
 ルーリング・オーガスティンでは森村泰昌展。「このレンブラント・シリーズ面白い」「私はシンディ・シャーマンのが好きだわ」と活発に意見が交わされていた。メトロ・ピクチャーズのアンドレアス・スロミンスキ展では、小鳥から猛獣に至る様々な生き物用の美しい「罠」が展示されている。見事なショーだ。DIA Center for the Artsではスタン・ダグラスとダグラス・ゴードンの二人展。一瞬名前のシャレか?と思う。その上階のロバート・アーウィンによる蛍光灯の部屋のインスタレーションは幻想的で本当に美しい。
 学生からお年寄りまで、ギャラリー・ガイドを片手にみんなわいわい楽しそうにギャラリー巡りをしているのがとても良い感じ。またギャラリーが用意するプレス・リリースは実に簡潔でわかりやすい。まずは誰もがアクセスできるようにすそ野を広げ、そこから先はニーズによって情報を公開していく、という合理的なシステムがうかがえる。

.. シェルター島

アトリエでのアラン
アトリエでのアラン

アランの愛犬
アランの愛犬

 8月に私が担当して展覧会を行ったアラン・シールズに会いに、マンハッタンからバスで2時間半ほどの場所にあるシェルター島を訪れる。アランは70年代にポーラ・クーパー・ギャラリーを根拠地として華々しく活躍したアーティストであるが、当時から島に住んで漁業や農耕を営む生活を送ってきている。しかし、私の抱いていた素朴なイメージとは裏腹に、シェルター島は超高級リゾート地であった。マンハッタンに住むお金持ちのセカンド・ハウスがほとんどらしい。アランの船で素敵なクルージングを楽しむことができた。恐るおそる彼に、20代という若さでこんな高級な場所に家を構えることができたわけを尋ねると、当時の彼は1週間に「6点」ぐらいの勢いで作品が売れていて、たくさんお金が貯まったのだそうだ。うーん、American dream ! 成功したアーティストとして50歳を過ぎた今も悠々自適の生活を送ることができるのだ。

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 今回のNYのアート旅行では色々なことを考えさせられた。アート、特に現代美術が健全に機能するための環境が充実している。オーディエンスとのコミュニケーションが活発である。それはアートを愛し、そこに携わる人たちの真摯な姿勢に基づいている。日本とアメリカという状況の違いはあるにしても、そのスピリットは学ぶべきだと強く感じた。日本のアート界が空回りしないために。

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