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『世界の調律』レーモンド・マリー・シェーファー

The Tuning of the World, Raymond Murray Schafer

「サウンドスケープ」概念の提唱者として知られるカナダの作曲家、理論家、R・M・シェーファーによる1977年の著作。彼の主著でありサウンドスケープ研究における最重要文献である。神話における音の記述からジェット機の騒音問題まで、古今東西の音をめぐる一大博物誌ともなっている。概略をたどると、本書前半はサウンドスケープの歴史記述であり、産業革命以前のハイファイなサウンドスケープと、産業革命以後のローファイなサウンドスケープの区別が論じられる。次に「間奏曲」と題された現代音楽論を挟み、後半はサウンドスケープの受容を研究する音響生態学(騒音問題はここで扱われる)と、サウンドスケープの調整を行なうサウンドスケープ・デザインの解説に分けられる。本書の大きな意義は以上の内容を軸とするサウンドスケープ理論の確立にある。この理論がのちに社会学的性格、つまりサウンドスケープとそこに暮らす人間の知覚の関係を重視する傾向を強めていったことをふまえると、その過程で後退したり、修正されたりした論点を含んでいることも本書の特色と言えよう。そうした論点はまず、サウンドスケープと音楽の結びつきである。両者を結びつけるという発想は音楽作品もサウンドスケープと呼べるという見解や、ピタゴラスにはじまる「天球の音楽」思想に由来する題名、「サウンドスケープ・コンポジション」といった用語などに表われている。実際、本書は出版当初、新しい音楽美学として紹介されていた。また、本書はまだ、物理的な音としてのサウンドスケープと、そこに暮らす人間の知覚にあらわれるサウンドスケープを厳密に区別していない。のちにこれらは明確に分けられたため、鳥越けい子らによる86年の邦訳ではシェーファー本人の要望を受け、原著の物理的な音というニュアンスの強い「音響(acoustic)」という語を「サウンドスケープ」に直して訳した箇所がある。

著者: 金子智太郎

参考文献

  • 『世界の調律 サウンドスケープとはなにか』, R・マリー・シェーファー(鳥越けい子ほか訳), 平凡社ライブラリー, 2006

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