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カルチュラル・スタディーズ
Cultural Studies
文化を語ることによって社会を分析するための学術的方法論の総称。1960年代にイギリスで始まり、日本には90年代後半になって本格的に導入された。ジャーナリズムを巻き込みながら日本のアカデミズムに徐々に浸透していき、現在ではある程度定着している。日本では「文化研究」と称することもある。カルチュラル・スタディーズは、イギリスのバーミンガム現代文化研究センター(The Birmingham Centre for Contemporary Cultural Studies)から生まれた。この研究所に関わったスチュアート・ホール、ディック・ヘブディッジ、ポール・ウィリス、アンジェラ・マクロビー、リチャート・ホガードらは、既存の社会学や文化人類学、歴史学と緊張関係にありながらも、それらの知見を任意に応用することによって、それまで学問対象として論じられることの少なかった同時代の大衆文化や生々しい若者文化、サブカルチャー、そしてアイデンティティ・ポリティクスなどを盛んに研究した。日本では、96年にホールらが来日し、東京大学などで講演したことをきっかけに広く知られるようになり、当時の大学院重点化政策も手伝って急速に普及した。「文化を語る」がゆえに時として趣味性の自己肯定に陥りがちであり、あるいは逆に政治的社会的文脈を強調するあまり反権力や抵抗の物語に回収されがちであるという批判があるにせよ、同時代の社会的な諸問題を幅広く考察する糸口を提供したことはまちがいない。
著者: 福住廉
参考文献
- 『現代思想』, 特集=カルチュラル・スタディーズとは何か, 青土社, 1996年3月
- 『STUDIO VOICE』, 特集=Loud Minority, インファス, 1996年9月
- 『現代思想』(臨時増刊号), 総特集=スチュアート・ホール, 青土社, 1998年3月
- 『カルチュラル・スタディーズ入門 理論と英国での発展』, グレアム・ターナー(溝上由紀、毛利嘉孝、鶴本花織ほか訳), 作品社, 1999
- 『カルチュラル・スタディーズ入門』, 上野俊哉、毛利嘉孝, ちくま新書, 2000