2017年06月15日号
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ポストメディウム

post-medium

芸術表現はそれぞれのジャンルに固有のメディウムへと純化されるべきである、とするクレメント・グリーンバーグによるモダニズムの規定(メディウム・スペシフィシティ)に抗して、アメリカの美術批評家ロザリンド・E・クラウスが2000年頃より提唱している概念。クラウスは、様々なメディウムの領域横断的な使用が美術作品の制作における所与となった1970年代以降の状況を指して、ポストメディウムの条件ないしポストメディウム的状況(post-medium condition)という言葉を用いている。彼女によれば、こうした状況下では、芸術表現はそのジャンルに固有のメディウムに還元できないため、グリーンバーグによるメディウム・スペシフィシティの理論は有効性を持たない。そこでクラウスは、「自動性」(スタンリー・カヴェル)や装置論などの映画理論の諸概念を参照しつつ、芸術制作における様々な約束事(convention)をも含みうる概念としてメディウムを再定義した。彼女はこの刷新されたメディウム概念の実例として、マルセル・ブロータース、ジェイムズ・コールマン、クリスチャン・マークレーなどの作品を分析し、そのなかでメディウムの異種混淆性やメディウムが内部にはらむ自己差異化の契機などを強調している。グリーンバーグ流のモダニズム理解に対するオルタナティヴを模索するという1970年代以来のクラウスの批評活動を総括する概念であると同時に、グリーンバーグ流のメディウム理解を更新して延命させる試みとも捉えうる。なお、映画理論に着想を得た本概念は、ひるがえってメアリー・アン・ドーンやマーク・B・N・ハンセンなど、2000年代以降の映画理論、メディア理論の研究者に注目されているほか、精神医学者・思想家フェリックス・ガタリ、メディア理論家レフ・マノヴィッチなどがクラウスとは独立してポストメディア概念を提唱している。

著者: 門林岳史

参考文献

  • 『表象08 ポストメディウム映像のゆくえ』, 「メディウムの再発明」, ロザリンド・E・クラウス(星野太訳), 月曜社, 2014
  • A Voyage on the North Sea: Art in the Age of the Post-Medium Condition, , Rosalind E. Krauss, Thames and Hudson, 2000
  • 『眼に映る世界 映画の存在論についての考察』, , スタンリー・カヴェル(石原陽一郎訳), 法政大学出版局, 2012
  • “The Indexical and the Concept of Medium Specificity”, Differences 18: 1, Mary Anne Doane, , 2007
  • New Philosophy for New Media, , Mark D. N. Hansen, MIT Press, 2004
  • 『表象08 ポストメディウム映像のゆくえ』, 「ポストメディア時代に向けて」, フェリックス・ガタリ(門林岳史訳), 月曜社, 2014
  • “Post-media Aesthetics”, , Lev Manovich, http://manovich.net/index.php/projects/post-media-aesthetics, 2001

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