2019年01月15日号
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天球の音楽

The Music of the Spheres

「天球」とは天体がその上を運行すると考えられた地球を中心とする球体のこと。古代ギリシャより、天体の運行が音を発し、宇宙全体が和声を奏でているという発想があり、これが「天球の音楽」と呼ばれた。その響きはきわめて大きいが、つねに鳴り続けているため人間の耳には気づかれないとされる。こうした発想の根底には宇宙が数の原理に基づき、音楽はこの原理を体現するという西洋の伝統的思想がある。天球の音楽を着想したのはピタゴラスとされる。プラトン、プトレマイオス、アウグスティヌス、ボエティウスら、多くの思想家がこの発想を受け継いだ。ケプラーも自身の理論を天球の音楽に結びつけた。彼らは音楽を「ムーシカ・ムーンダーナ(宇宙の音楽:天球が発する音楽)」、「ムーシカ・フマーナ(人間の音楽:人体が発する聞こえない音楽)」、「ムーシカ・インストルメンターリス(器楽の音楽:人間がつくる聞こえる音楽)」に分け、これらは段階をもちながら調和していると考えた。感情や自己の表現を音楽の本質とする見方が普及した19世紀以降、こうした音楽観は顧みられなくなっていく。しかし、20世紀にはこの発想にいくつかの新しい光が当てられた。まず、シェーンベルクに始まり、いわゆる前衛音楽家が受け継いだ、数の原理を強調するセリー音楽の系譜によって。また、サウンドスケープ概念の提唱者、R・M・シェーファーもこの概念を天球の音楽と関連づけた。彼の主著『世界の調律』(1977)のタイトルや表紙は、ケプラーと同時期に天球の音楽に関する理論を展開したR・フラッドの著作から取られている。

著者: 金子智太郎

参考文献

  • 『宇宙の調和』, ヨハネス・ケプラー(岸本良彦訳), 工作舎, 2009
  • 『星界の音楽 神話からアヴァンギャルドまで 音楽の霊的次元』, ジョスリン・ゴドウィン(斉藤栄一訳), 工作舎, 1990
  • 『交響するイコン フラッドの神聖宇宙誌』, ジョスリン・ゴドウィン(吉村正和訳), 平凡社, 1987
  • 『天球の音楽 歴史の中の科学・音楽・神秘思想』, ジェイミー・ジェイムズ(黒川孝文訳), 白揚社, 1998
  • 『世界の調律 サウンドスケープとはなにか』, R・マリー・シェーファー(鳥越けい子ほか訳), 平凡社, 1986

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