2018年10月15日号
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特権的肉体論

Tokkenteki Nikutai Ron

状況劇場の主宰者である劇作家唐十郎が、訓練された普遍的な肉体としてではなく、各役者の個性的な肉体が舞台上で特権的に「語りだす」ことを目指した演劇論。著書である『特権的肉体論』をはじめ複数のエッセイで展開された。「東北の農村の貧婆」が過酷な労働の後に土手でしばらく自慰するイメージを通して、唐は肉体をそう価値づける貧婆の特権的時間は追体験できず、見る者はそう価値づけられた「特権的肉体」を目にすることになるとした。特権的時間へ向けた探究を文学の内に見る一方、演劇の目的を特権的肉体の内に位置づける唐は、そこに既存の演劇観への批判を差し向けた。スタニスラフスキーの俳優術を批判の対象として例に挙げながら、唐が求めたのは、役者が尊厳ある芸術的で普遍的な肉体へと訓練されることではなく、卑俗的で現実的な個々の役者に根ざす特権的肉体が「劇的なイリュージョン」となって舞台に登場することだった。「肉体の花鳥風月」を待望し、役者の肉体が特権的に「語りだす」ことを目指したこの演劇論は、実践的には、麿赤兒らきわめて個性的な役者とのリハーサルのなかで、演出家が役者の状態を見ながらあて書きを行なったり、「私的ドラマ」を肉体の背景に読み取ってゆくことでキャラクターを形成して行く独特の演出方法として展開された。実存主義的な「いま、ここ」にある肉体を「特権的」と称するこの演劇論は、当時の若者にとって人生論でもあった。

著者: 木村覚

参考文献

  • 『特権的肉体論』, 唐十郎, 白水社, 1997

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