この10月後半は、韓国の昌原という都市で現在開催されている「昌原彫刻ビエンナーレ」の現地からのレポートを、その準備から関わった横浜美術館学芸員の飯岡陸さんに寄稿していただきました。

飯岡陸|都市を静かに剥く──第7回昌原彫刻ビエンナーレ2024「silent apple」 (2024年10月25日公開)

記事の序盤でも触れられているように、夏から秋にかけての韓国国内では、現代美術に関する大型のイベントが目白押し。近年のartscapeでも、それらの訪問記やレビューが多数掲載されています。近年で特に多くの執筆者が訪れているのはやはり「光州ビエンナーレ」。

第14回 光州ビエンナーレ|五十嵐太郎:artscsapeレビュー(2023年06月01日号)

光州デザイン・ビエンナーレのフォリー|五十嵐太郎:artscsapeレビュー(2023年06月01日号)

第14回 光州ビエンナーレ(フランスパビリオンでの展示、ジネブ・セディラ《꿈은 제목이 없다 Dreams Have No Titles》)|きりとりめでる:artscsapeレビュー(2023年06月01日号)

第14回 光州ビエンナーレ(Horanggasy Artpolygonでの展示)|きりとりめでる:artscsapeレビュー(2023年05月15日号)

昨年(2023年)に開催された第14回に関連する記事だけでも充実の内容ですが(上記)、過去記事のアーカイブを遡っていくと、おそらく一番古くは第2回目である1997年の村田真さんによるレポートも。光州ビエンナーレの開始の年は1995年なので、artscapeとも実は同い年(!)。

■2006年(第6回)

アジアで開かれた2つのビエンナーレ──上海と光州──から見える2006年の美術状況|市原研太郎:フォーカス(2007年1月15日号)

■2002年(第4回)

光州ビエンナーレ2002・レポート|春木祐美子:フォーカス(2002年5月15日号)

■2000年(第3回)

2000年光州ビエンナーレ報告|嘉藤笑子:フォーカス(2000年4月15日号)

光州日記|村田真:トピックス(2000年4月15日号)

■1997年(第2回)

97光州ビエンナーレ |村田真:feature/特集(1997年9月18日号)

※ちなみに、光州に比べると数はだいぶ少ないですが、釜山ビエンナーレについての記事もいくつか挙げておきます。 

an/other avant-garde china-japan-korea 釜山市立美術館|能勢陽子(豊田市美術館):キュレーターズノート(2016年12月01日号)

2006.11. 1「釜山>>光州」|森司(水戸芸術館現代美術センター):アートスケープ・ブログ(2006年11月)

国際情勢も社会通念も大きく変化するなか、東アジアの現代美術シーンもそれに呼応してうねり続けてきたこの30年。ごく一部ですが、上記のような記事を振り返ると、国際美術展の担う役割や空気感も現在とは大きく違います。執筆者やその周囲の方々の現地での交流の様子や祝祭感(現地のグルメとお酒!)も改めて読むと新鮮ですが、ドラマやアイドル、音楽といった韓国のポップカルチャーの存在感が加速度的に増し、日本の日常にも完全に溶け込んだといえるこの5年ほどの時間軸を思うと、さらに隔世の感があります。

そんななか、都市型のアートイベントのオルタナティブとして、地域の歴史や文化に着目してコンセプトを組み上げていったという今回の昌原彫刻ビエンナーレ。その参照項のひとつにもなったという日本の地域芸術祭のような存在が、今後韓国でも浸透していくのか、はたまたまったく異なる道を辿っていくのか。自分もソウルだけではなくいろいろな都市にできるだけ多く足を運んで、その変化の過程を味わっていきたいところです。

新たなレビュワーを(さらに)迎えて

今年に入ってから、展覧会や書籍・作品などを扱う「レビュー」カテゴリの執筆陣に複数の新メンバーを迎えてきましたが、さらにこの10月からは、評論家の塚田優(つかだ・ゆたか)さんに合流していただきました。

江戸〜明治期から現代に至るまで、主にアニメーションやイラストレーションの観点から、時代ごとのメディアの変遷や、美術やサブカルチャーを通して人々と図像の関わりを読み解く興味深い論考をこれまでも精力的に発表されており、artscapeでも2022年に日本近代文学館で開催された「明治文学の彩り──口絵・挿絵の世界」展についてご執筆いただいています。

「明治文学の彩り──口絵・挿絵の世界」展から垣間見る、その時代ゆえの挿絵画家たちの生態系|塚田優:フォーカス(2022年03月15日号)

今年に入ってからは、「シリーズ:美術批評を読む」というトークシリーズの企画・運営にも南島興(横浜美術館学芸員)さんとともに関わられており、7月9月にすでに開催されています。「批評」の現在地を、回ごとに異なるゲストと視点から語り、探る試み。筆者もアーカイブで視聴しましたが、各登壇者が関心を寄せる批評(家)に関するレクチャーを経て討議になだれ込んでいく、ほかでは聴けない濃密な構成&内容でした。時間が足りない。初回ゲストには元レビュー連載陣のきりとりめでるさんの姿も。塚田さん独自の視点からのレビューの連載とともに、今後の展開にぜひご注目ください。(g)

写真は京都に向かう東海道新幹線の車内から。遠出をするのにも気持ちのいい季節になってきました