8月の東京、10月の台北から続いて、11月にソウルで開催された「dialog() – Asian Generative Art Exhibition 2024 vol. 3」をソウル在住のアートライター、クォン・ジョンウォン氏にレポートしていただきました。ソウルのアーティストたちは、この展覧会をどのように再キュレーションしたのでしょうか。今回は韓国語版と日本語版(翻訳=尹志慧)でお届けします。(artscape編集部)

絶えず生成され変形し続ける。同時に、完全な刹那もある。そのような矛盾をあえて抱え込んだ42個のジェネラティブアート作品が、ソウル三成洞のCOEXモールの大型スクリーン上で上映された。常に変化する瞬間が無限に生成されているが、観客の撮影によって、それらはひとつの確定したイメージとして残される。

ソウルCOEX S-Liveの展示全景[提供:Aeon Studio]

ジェネラティブアートの拡張性を探る

2024年11月、ソウルのCOEX S-Liveとアンコモン・ギャラリーで開催された「dialog() – Asian Generative Art Exhibition 2024」展(以下「dialog()」 )は、韓国、日本、台湾、中国の4カ国が共同企画した巡回展で、北東アジアのジェネラティブアートの現在を眺望するプラットフォームであり、芸術的対話の場として企画された。

デジタルアルゴリズムに基づいて稼動するジェネラティブアートというジャンルは、拡張し続けている。作家による独自の規則、プログラミング言語の演算に加えて、ビッグデータや人工知能も活用している。世界的な広がりをもつジャンルであるが、本展は北東アジアの作家によるジェネラティブアートに限定し、各国のシーンと作品を眺望することを目的にしていた。その特徴は何か。

ソウルCOEX S-Liveの展示全景[提供:Aeon Studio]

本展のために集まった多国籍企画チームの一員、イオンスタジオ(韓国)の代表、ルシア(Lucia Kang)は、企画の初期段階からの目標は、各国の作家が持っている固有の文化的感受性と美的言語を概観することであったと言う。しかし、現場で見た限り、アジアの文化的共通点、または各国を象徴する特性が明らかになったとは考えられなかった。各国の地域的な特徴ではなく、むしろ作家個人が設計した構造と規則の下で永遠に創造──再創造されるひとつの世界が、ジェネラティブアートの根幹であることが確認できた。

ソウルCOEX S-Liveの展示全景[提供:Aeon Studio]

対話のプラットフォーム

作品を通して対話を交わすという本展の特徴は、多様なアーティストトークでも実現された。アーティストトークは約3週間の会期中に継続的に開催され、それに呼応するかのように多くの観客を迎えた。

カナダのアーティスト、ドミトリー・チェルニアック(Dmitri Cherniak)による特別トークセッションもあった。彼は、代表作《Ringers》の制作過程でアルゴリズムの偶然と即興性が、制作の一部としてどのように機能したかを話した。また、現実の物理的コミュニケーションや関係性を超えた、オンラインと密接な関わりをもつ私たちの生活において、NFTは新しい文化を保存する役割を担っていると説明した。


アーティストトーク中のドミトリー・チェルニアック(Dmitri Cherniak)、アンコモン・ギャラリー[撮影:JungWon Kwon]

これと同時に、韓国では初めてのタッチ・デザイナーのミートアップが連携イベントとして開催され、多くの観客が集まり満席となった。この日、タッチ・デザイナーを活用する作家8人(Caroline Reize[カロ]、アソッド[Arthod]、okdalto[キム・ソンヒョン]、ロクス[Alex Griff]、Nsyme[エンザイム]、コフィ、oOps.50656[ムン・ギュチョル&ファン・ソンジョン])によるワークショップが続き、ジェネラティブアートと制作活動についての豊かな対話が交わされた。

連携イベント「タッチ・デザイナー・ミートアップ・ソウル」、ムン・ギュチョル、ファン・ソンジョンのアーティストトーク記録写真、アンコモン・ギャラリー[提供:Aeon Studio]

「dialog()」の公式イベントの最初のアーティストトークに登壇したセオ・ヒョジョンからは、ジェネラティブアートに対する各国の立場と態度について興味深い話を聞くことができた。セオ・ヒョジョンは、本展の立ち上げの初期から各会場の企画者や作家と緊密な対話を行なってきた。日本はジェネラティブアートの歴史が長い、それだけに派生する多様な観点を議論しながらジャンル自体を深く掘り下げている。また台湾の場合は、ブロックチェーンを積極的に活用したり、パフォーマンスなどに拡張させているそうだ。韓国は、ジェネラティブアートのシーン自体は大きくないが、コードベースで制作するメディアアーティストたちが本展をきっかけに集まり、新しい可能性を模索できたと言う。

連携イベント「アーティスト・トーク01:観点」、エンザイムのアーティスト・トークの記録写真(左からモデレーターのクォン・ジョンウォン、作家のセオ・ヒョジョン、エンザイム、チェ・ゴンヒョク、ムン・ギュチョル、ファン・ソンジョン)、アンコモン・ギャラリー[提供:Aeon Studio]

新しく生まれ続ける作品を空間と物質を使って見せる

ジェネラティブアートは予測不可能かのように見えながらも、作家が設計した意図と規則によって稼働している。設計や規則のもとで、無限に稼動する有機体として構成されている。そのようなジェネラティブアートはどこまで拡張できるだろうか。本展は国ごとに展示構成と環境が違ったため、作家は同じ作品でありながら、毎回新しく変奏し直すことができた。場所とデバイス環境に合わせて用意されたシステムに、最適なコードを再び設計し直すことが可能だった。解体と構築を繰り返し、作家の意図を超え、時に偶然を呼び込みながら作品が完成した。

韓国展では、作品はスクリーン上での表現から、ほかのメディア(ロボットアームなど)を使うことへと変化した以外にも、人工知能とビッグデータが現実の物質とつながり、物質世界に還元されるタイプの作品が展示されたことが目をひいた。

オーガニックオペレーターのoOps.50656チームで活動するファン・ソンジョンとムン・ギュチョルは、日常のなかに存在しているが知覚しづらいシグナル(電磁波)をどのように表現できるかを実験する、キネティック・インタラクティブ作品《Spatial Rotate Oscillator》(2022)を披露した。人が知覚できない電磁波を演算し、光と影の波形を展示空間の中に描き出した。まるで墨で描いたかのように、空中に徐々に広がる線と面は、観客に時空間そのものを感じ取るように促す。

アンコモン・ギャラリーに設置された作品、ムン・ギュチョル《Spatial Rotate Oscillator》(2022)、ステンレス、モーター、電子回路設計。アンコモン・ギャラリー[提供:Aeon Studio]

墨で描いたような線が、流れ、広がり、水に溶け込んでいくジェネラティブアート作品《Innermost Landscape:最も深いところのアリア(Aria)》(2024)も一緒に展示された。2つの作品は、観客に視覚、聴覚、そしてすべての身体感覚を動員して作品を知覚することを促す。自分の身体は外部にどのように反応し動くのか、このテーマが作品と観客の相互作用のなかから引き出される。


アンコモン・ギャラリーの展示風景。ヤン・ミンハ《閉ざされた生命活動2409》(2024)、上映中の作品:oOps.50656《Innermost Landscape:最も深いところのアリア(Aria)》(2024)、アンコモン・ギャラリー、[提供:Aeon Studio]

ヤン・ミンハのキネティック・インタラクティブのインスタレーション、《閉ざされた生命活動2409》(2024)のオブジェの外部を囲んでいる光る球体は、「閉ざされた環境」の中で無限に繰り返される生命活動を表わした。創造主として人間が作り出した人工生命は、非常に小さい音で呼吸し、ゆっくりと、そして徐々に点滅しながら、不完全な生命体として展示空間内に棲息する。同作家のもうひとつの作品《Huge Black Flag》(2024)は、仮想空間の中で点と線を生成する。プログラミング言語C++とGLSL、そしてCompute Shaderだけで制作され、目に見えない流れがアルゴリズム化し、作家が意図する規則の下で有機的に稼動するひとつのイメージが視覚化する。


展覧会連携瞑想イベントの記録写真、上映中の作品:ソ・ヒョジョン《Oscillation_H》(2024)、アンコモン・ギャラリー[提供:Aeon Studio]

「dialog()」韓国展は、デジタル生成に物質性が結合させた作品が特徴的だった。それらはジェネラティブアートの新しい可能性を模索しているといえよう。各国の方向性が拡張、進化していることを確認できた機会だった。デジタルアルゴリズムと人工知能、ビッグデータとプログラミング言語を活用して物質性の領域に拡張していくところに韓国の特徴があるし、ブロックチェーンとの連係の可能性を探求したのが台湾の特徴だった。また、深みのある問いを投げかけることでジェネラティブアートシーンの議論を深める日本の特徴がわかる場でもあった。

「dialog()」の展開は、先に少し触れたが、展示のみではなく、アーティストトークと多様な連携イベントとして展開した。オンライン─オフラインで絶えず生成され、発表された作家と企画者の言葉は、視覚的作品の表面下に隠れて、見えにくかった国ごとのジェネラティブアートの現在を垣間見る機会となった。

「dialog()」は、単なる展覧会というよりも、アジアのジェネラティブアーティストたちが芸術言語でコミュニケーションするプラットフォームとして拡張しつつある。キュレーターや企画者が提示する大きい言説やテーマの下で各国のシーンを概観するのではなく、各作家の個々の芸術言語から各国の現在を推し量る「場」としての地位を確保したものと見なすことができるだろう。


オープニング・イベント、作家によるドーセント・プログラムの記録写真(作品説明中のチェ・ゴンヒョク)、上映中の作品:チェ・ゴンヒョク《Printed Work: Spiralling》(2024)、アンコモン・ギャラリー[提供:Aeon Studio]


アンコモン・ギャラリーの展示風景、設置作品:ヤン・ミンハ《閉ざされた生命活動2409》(2024)、上映中の作品左から:ゴフィ《Microbial Motion》(2024)、エンザイム《Ethereal Whispers》(2024)、Kaoru Tanaka《Glimmer》(2024)、アンコモン・ギャラリー、[提供:Aeon Studio]

北東アジアで生まれたジェネラティブアートの方向性を模索する試みとして始まり、北京での最後の展示を控えている「dialog()」は、どのような可能性と意味を残すことになるだろうか。

展示タイトルの空白のカッコは、国家、言語、文化の境界を越えて開かれた対話の可能性を象徴している。本展が技術と芸術の境界を越える、ジェネラティブアートの新しい言説の場を探索する試みであったことを知らせる空白である。国とアーティストを超え、作品を通じて交わした対話の時間は、今後どのように展開するか、期待して待ちたい。


dialog () Seoul Exhibition

(翻訳=尹志慧、校正協力=セオ・ヒョジョン)
韓国語版(オリジナルテキスト)

dialog() 2024 서울 – 아시아 제너레이티브 아트 전시/dialog() – Asian generative Art Exhibition 2024
会期:2024/11/08~2024/11/30
会場:COEX S-LIVE(ソウル特別市江南区奉恩寺路524[三成洞]コエックスモール地下2階), Uncommon Gallery (ソウル特別市江南区三成洞147-2)
公式サイト:https://dialog-asia.com/