会期:2024/12/21~2025/03/30
会場:東京都現代美術館[東京都]
公式サイト:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/RS/
私自身、坂本龍一の熱心なファンというわけではないが、十数年前、とある縁から地方公演に招待されてコンサートを鑑賞したことがあった。その際、ある曲の演奏前に「皆さん、携帯電話を出して、私を撮影してください」と坂本龍一が観客に呼びかけたことが印象に残っている。通常ならコンサート中に観客による写真撮影はNGであるし、携帯電話の電源も切るのがマナーであるにもかかわらず、あえてタブーをやってのけたのだ。当時はまだほとんどの人々がガラケーだった時代、いわゆる写メを観客は演奏の間ずっと撮り続け、ピアノが奏でるメロディーとカシャカシャ音、フラッシュの光で会場中が包まれていたことを覚えている。今、思い返すと、あれも「音を視る」体験のひとつだったのだろう。
本展は、坂本龍一が生前に遺したという構想を軸にした展覧会である。彼が創作活動のなかで長年の関心事としてきた音と時間をテーマにした内容で、没入型サウンド・インスタレーション作品を10点ほど体験できる。「音を視る」とは「音を空間に設置する」という試みだ。一般に、芸術は時間芸術と空間芸術の二つに分類できるといわれる。時間芸術は音楽や演劇、文学など、時間の経過とともに展開されていく分野に当たり、空間芸術は絵画や彫刻、建築など、時間に左右されずに、その作品に見て触れることのできる分野に当たる。つまり時間芸術である音楽は、時の制約から逃れることはできない。「時を聴く」とはその点を突いた言葉のようにも思えるし、あるいは「音を視る 時を聴く」というタイトルからは音楽における空間芸術への挑戦のようにも捉えられるのだ。
「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年
坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》(2007)[© 2024 KAB Inc. 撮影:浅野豪]
「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年
坂本龍一+高谷史郎《async–immersion tokyo》(2024)[© 2024 KAB Inc. 撮影:浅野豪]
高谷史郎をはじめ7組のアーティストとのコラボレーション作品は、いずれも幻想的かつ実験的で、坂本龍一が遺した音楽や彼の先駆的な活動の一端を知るには十分だった。そして最後のアーカイブ特別展示である、坂本龍一×岩井俊雄《Music Plays Images X Images Play Music》(1996-1997/2024)は、ファンが観たらきっと泣けるに違いない。こんな風に坂本龍一の演奏を蘇らせることができるなんて! この驚きは、ぜひ会場で味わってほしい。
「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年
坂本龍一×岩井俊雄《Music Plays Images X Images Play Music》(1996–1997/2024)[© 2024 KAB Inc. 撮影:丸尾隆一]
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