会期:2024/11/01〜2025/02/24
会場:東京国立博物館 表慶館[東京都]
※以降、沖縄、福岡、京都、名古屋の各都市へ巡回予定
公式サイト:https://hellokittyexhibition.com/

日本でもっとも長い歴史をもつ博物館である東京国立博物館(以下、東博)。博物館、美術館が集中する上野周辺でも頭ひとつ抜けた規模をもつ同館は「トーハク」の愛称でも親しまれ、5つの展示施設や資料館では、膨大なコレクションや海外の施設から貸し出された貴重な文化財を目玉とした企画展が開催されている。

© 2025 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. SP650123

今回私は、誕生から50年を記念して開催された「ハローキティ展」を実見するために東博にやってきた。会場である表慶館は、関東大震災で大きな被害を被ってしまった初代の本館の設計者であるジョサイア・コンドルの弟子である片山東熊によるネオ・バロック建築だ。1909(明治42)年に開館した同館は、中央のドームを軸にシンメトリカルかつ華麗な装飾が施され、本館や東洋館にも負けない存在感を放っている。そんな日本の近代化とともに歩んできたこの建築の玄関アプローチに、ハローキティのバルーンがまるで私を呼び寄せるかのように視線を投げかけている。東博でポピュラーカルチャーに関連する催しが開催されるのは初めてではないが★1、1872(明治5)年の開館以来、古今東西の文化に「正統性」を付与してきた東博でのこうした歓待に、私はひとつの時代の変化を感じると同時に、歴史的建造物に対しても物おじせず、堂々としたコラボレーションを展開するハローキティのキャラクターとしての強度を改めて再認した。

© 2025 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. SP650123

このたびの展覧会は数多くのグッズを中心に展示することによって、ハローキティのもつ卓越性やコンセプトを提示する機会になっていた★2。そもそも、ハローキティはマンガのキャラクターのようにストーリーに依存しない。雑貨や文房具など日常使いするグッズとなって、私たちと生活を共にすることで愛着を強め、支持されていった。そのような感情移入を促す造形的な特徴として展示でも解説されていたのが、「口を描かない」ことである。それによって「見る人が悲しいときは一緒に悲しみ、嬉しいときには一緒に喜ぶ」ことができるようになるのだ。

しかし、ハローキティがこれほどまでに息の長いIP(Intellectual Property、知的財産)に成長したのは、造形的な要因だけではない。1975年の登場時、メインのターゲット層は小学生女子であり、グッズも彼女たちのニーズに合うように文房具が中心だった。しかし80年代に入ると、高校生を対象とした落ち着いた色合いや当時流行していたカントリー調のアイテムが登場してくる。展示でも赤や黒といった色別にグッズがまとめられ、ハイビスカスや原宿デコラファッションなどその時々に応じたテイストとハイブリッドされてきたさまが概観できるようになっていた。その50年にわたる歴史のなかでも、特にターニングポイントとなっていると筆者が考えているのは、1996年に発売されたピンクキルトシリーズである。なぜなら合成皮革製キルトによるバックや財布は、ハイブランドのファッションのトレンドを取り入れ、それらに憧れる高校生たちの自己実現にもなったからである。このような「背のび感」を与えると同時に、ハイティーンになってもキャラクターグッズを使うことに対する抵抗感を軽くした。

© 2025 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. SP650123

ピンクキルトシリーズ(※展示品は当時をイメージしたレプリカです) © 2025 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. SP650123


後編へ)


★1──過去には2011年に特別展「手塚治虫のブッダ展」が開催され、2020年にはバーチャル特別展「アノニマス-逸名の名画-」が開催されている。同展は細田守監督『時をかける少女』(2006)に登場する展覧会がバーチャルSNS・clusterで再現された。なお、同作は東博の敷地内で複数回野外上映されてもいる。
★2──2021年から各地で開催されている「サンリオ展 ニッポンのカワイイ文化60年史」は、そういった意味ではこのたびの「ハローキティ展」と対照的な側面を有していた。「サンリオ展」ではデザインの原画など、展示資料にバリエーションがあり、より多角的な視点から考察できるものとなっている。


鑑賞日:2024/12/14(土)