会期:2025/04/04~2025/05/17
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)[東京都]
公式サイト:https://www.dnpfcp.jp/gallery/ggg/jp/00000842
文字や言葉の視覚表現を軸とした国際賞「東京TDC賞」。その受賞作品とノミネート作品を今年も興味深く鑑賞した。グランプリを受賞したのは、映像作家、橋本麦の作品《MONO NO AWARE / かむかもしかもにどもかも!(imai remix)ミュージック・ビデオ》である。これはギターポップバンド、MONO NO AWAREによる早口言葉の楽曲を元にしたリミックス曲のミュージックビデオなのだが、超高速の早口言葉に合わせて、一つひとつコマ撮りされた文字がこれまた高速で順次映し出されていくアニメーションで構成されていた。まるで文字が生き物のようにうごめく面白さに目が引かれるが、解説を読むと、実はもっとコンセプチュアルな作品であることがわかった。というのも、このアニメーションにはUnicodeへのオマージュが込められていたのだ。Unicodeとは、世界中のあらゆる文字をコンピュータで正しく扱えるように、各文字に固有の番号を割り当てた文字コード(規格)である。これにより異なる言語間でもコンピュータ上での処理や伝送が可能になり、いわゆる文字化けが回避できるようになった。策定には40年もの歳月を費やしたのだという。アニメーションを見ていると、早口言葉の内容に合わせた漢字や仮名を中心としながら、時折、どこの言語なのかわからない文字や記号も登場する。世界にはたくさんの言語があり、それらはひとつになることはないが、現代の情報社会を迎えて、文字コードは標準化されたのだ。そのすごさに改めて気づかされる作品だった。
展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー 1階[撮影:藤塚光政]
展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー B1階[撮影:藤塚光政]
もうひとつ注目したのは、タイプデザイン賞を受賞した舟山貴士の作品《しゅうれん かな》である。現在、日本語のレイアウトに主に使用されている明朝体の仮名は、明治初期に中国・上海から輸入された金属活字の漢字書体の影響を受けているのだという。ところが、江戸時代までは連綿体やくずし字、変体仮名などが主流だったため、現代人は古典や古文書に書かれた文字が読めないという現象が起きている。これは江戸時代に用いられた連綿体のフォント化に挑戦したものだ。連綿体の特徴は、文字と文字との間がつながっていることである。同作品ではその接続位置をセンター以外にも設けることで、実に柔らかで情緒あふれる書体の仕上がりに成功していた。鳥海修と松本タイポグラフィ研究会が主催する「松本文字塾第二期」で自主制作された作品のため、商品化については不明だが、ぜひDTPの現場で広く使える機会が訪れてほしいと思う。
展示風景 ギンザ・グラフィック・ギャラリー 1階[撮影:藤塚光政]
鑑賞日:2025/04/22(火)