会期:2025/04/16~2025/06/22
会場:東京オペラシティ アートギャラリー[東京都]
公式サイト:https://www.operacity.jp/ag/exh285/

「衣食住足りて礼節を知る」ということわざがあるが、この場合の衣とは、おそらく人が生活をするうえで必要最低限なものという意味合いが強いだろう。食も住ももちろんそのレベルはピンからキリまであるが、衣は加えて個々人の趣味嗜好や社会的立場などが色濃く反映されやすい分野だ。ただ身体が覆い隠されていて、寒さや乾燥から肌を守ってくれればいいというわけではないことを我々は十分に知っている。そうした「人が服を着ることの意味」を問いかけるのが、本展である。着る人のさまざまな情熱や願望を「LOVE」と表現し、それを受け止める存在を「ファッション」とする。そのLOVEの方向性が人の根源的な欲求に基づいていて、なかなか面白く観た。

展示風景 東京オペラシティ アートギャラリー[撮影:髙橋健治]

本展は5つのチャプターで構成されていたのが、各タイトルがまさに「人が服を着ることの意味」を表わしていた。それは「自然にかえりたい」「きれいになりたい」「ありのままでいたい」「自由になりたい」「我を忘れたい」である。確かにそのとおりで、豊かな自然の恵みから作られたものできれいに着飾り、でも自分らしく自由に、ときにはときめきを与えてくれる存在、それが服なのである。こうした概念は今に始まったことではなく、太古の昔、人が社会生活を営み始めたときからある。つまり対人関係においてより意識されるものといえるだろうし、自己形成に関わるものともいえる。なぜなら装いというように、身にまとう服は自分を“演出する”最も手っ取り早いものであるからだ。あるいは自分の分身のような存在ともいえる。したがって食や住に比べると、個々人の内面が色濃く映し出されてしまうのである。

展示風景 東京オペラシティ アートギャラリー[撮影:髙橋健治]

そして「私を着がえるとき」とタイトルにもあるとおり、分身である一方、服は簡単に着替えられる。だから人は情熱や願望を際限なく服に託すのだ。本展では18世紀から現代までのさまざまな服に加え、アート作品も展示されていたのだが、なかでも着替えるという行為をヤドカリの姿に重ねた、AKI INOMATAの作品《やどかりに「やど」をわたしてみる-Border-》(2010/2019)が実に印象的だった。まさにヤドカリのように、素敵な服に憧れては買い求め、しばらく着た後には飽きてしまうことを繰り返す、我が身の行動を思わず顧みてしまった。

展示風景 東京オペラシティ アートギャラリー[撮影:髙橋健治]

鑑賞日:2025/04/24(木)