乳幼児の子育てに奮闘する日々に伴い、これまでとは美術館の捉え方が少し変わってきたように感じます。2月に公開した鷲田めるろ氏の寄稿記事「美術館を開く託児室」のなかで、金沢21世紀美術館が常設する託児室の意義が語られていましたが、まさに筆者自身も、展覧会の内容と同じく「授乳室やおむつ替え台はあるか」「託児サービスは利用できるか」といった美術館のインフラ部分に意識が向くようになりました。
そんななか、家から近い東京都写真美術館で開催中の「養老孟司と小檜山賢二の虫展」へ足を運びました。同館は1階に授乳室があり、各階の多機能トイレにおむつ交換台が設けられているなど設備面は充実しているものの、常設の託児施設はないため、今回は子どもを預けてひとりでの訪問です。2024年に大分県立美術館からスタートし、28,949人もの来場者を記録して全国を巡回している本展で驚かされたのは、小さな子どもからシニアまで、幅広い世代が熱中して展示に見入っている光景でした。現代アートの展示ではなかなかお目にかかれない会場の雰囲気、そして虫というテーマが持つ根源的な強さを実感します。 2019年に21_21 DESIGN SIGHTで開催された「虫展 −デザインのお手本−」では、虫の生態や造形をインスピレーションとした人工物のヒントが示されていましたが、今回はシンプルに、深度合成技術を用いてすべてにピントを合わせた圧倒的な拡大写真が主役であり、このダイナミックな「スケールの操作」が、言葉による思索以前に、鑑賞者の興味を捉えて離さないように見えました。
「養老孟司と小檜山賢二の虫展」の様子[筆者撮影]
スケールの操作という意味で、この春、個人的にも注目しているのが、森美術館で開幕した「ロン・ミュエク」展です。内覧会にはうかがえませんでしたが、筆者が10年ほど前の学生時代から図版でのみ知っていた作家であり、日本では18年ぶりとなる大規模個展です。
虫展でミクロの世界を巨大化する魔法に目を輝かせた子どもたちは、ミュエクが創り出す極端に巨大、あるいは微小でリアルな人体彫刻を前に、一体どのような反応を示すのでしょうか。森美術館ではこれまでの企画展でもたびたび開催されてきた、開館前に親子でゆったり鑑賞できる「おやこでアート ファミリーアワー」が今回も実施されるほか、近接する託児サービスを特別料金で利用できるキャンペーンを展開しているそうです。
スケールの操作を通して、かたや科学の眼差しから、かたや現代アートの表現から私たちの知覚を揺さぶる「虫展」と「ロン・ミュエク」展。さまざまな美術館がより開かれた場所になろうと試行錯誤している昨今において、アクセスの敷居が下がり、人々がアートや知の拠点を自由に行き来する回遊性が高まっていけば、地域やその文化はより一層豊かに育まれていくはずです。まずは自分自身も、新しい楽しみ方を模索していきたいと思います。(h)