今回の「美術遊歩」は、村田真さんに現代美術にフォーカスした美術賞/Art Awardをとりあげていただきました。こんなにも増えていたのですね。審査員の面々、受賞された作家さんたち、そして賞金の額や受賞記念展覧会、その変遷など、縦へ横へとご案内いただきました。(artscape編集部)

なんか最近「アートアワード」が多くなった気がする。ざっと目についただけでも、「Tokyo Contemporary Art Award」「TERRADA ART AWARD」「Idemitsu Art Award」「ART AWARD TOKYO MARUNOUCHI」「TOKYO MIDTOWN AWARD」「森アートアワード」……。「アワード」とつかないものでも「VOCA賞」「FACE」「CAF賞」「岡本太郎現代芸術賞」等々。これに地方のものも加えればキリがない。

やたらアルファベット表記が多くて区別しづらいが、単に名称が横文字になっただけで、「美術賞」なら昔から各種団体主催の公募展や自治体主催のコンクールなどたくさんあったともいえる。数が増えたのではなく、アルファベット表記が多くなっただけなのかもしれない。 だが、単にカッコいいからアルファベットにしたわけではなく、賞=アワードの目的が、芸術的に優れた作家・作品を顕彰し権威づけることから、国際的な活躍が期待できるアーティストの育成・支援へと変化してきたからでもあるだろう。要するに、絵画や彫刻を対象としたドメスティックな「美術賞」から、グローバルなアートワールドを目指す「Art Award」へとシフトしているのだ。

ということで、今春ぼくが見ることのできたアートアワード展を挙げてみると、以下の5本になる(開催順)。

⚫︎「Tokyo Contemporary Art Award 2024-26受賞記念展『湿地』 」 (2025/12/25-2026/03/29) 東京都現代美術館
⚫︎「TERRADA ART AWARD 2025 ファイナリスト展」 (2026/01/16-2026/02/01) 寺田倉庫G3-6F
⚫︎「第29回岡本太郎現代芸術賞展 」 (2026/01/31-2026/03/29) 川崎市岡本太郎美術館
⚫︎「FACE展 2026 」 (2026/03/07-2026/03/29)SOMPO美術館
⚫︎「VOCA展 2026 現代美術の展望―新しい平面の作家たち 」 (2026/03/14-2026/03/29)上野の森美術館

すべて会期が終了してしばらく経つので記憶も薄まりつつあるが、一つひとつ振り返ってみたい。

Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)

まず、昨年末から開かれていた「Tokyo Contemporary Art Award」受賞記念展。主催は東京都とトーキョーアーツアンドスペース(TOKAS/公益財団法人東京都歴史文化財団)で、2018年の設立だからまだ歴史は浅い。アワードの対象は海外での活動に意欲を持つ中堅アーティストで、毎回2組が選ばれる。これまで風間サチコと下道基行(2019-2021)、藤井光と山城知佳子(2020-2022)、志賀理江子と竹内公太(2021-2023)、サエボーグと津田道子(2022-2024)らが受賞。なかなかエッジの効いた人選である。今回は2024-2026年の受賞者である梅田哲也と呉夏枝の展示となる。

ほかのアワード展と異なるのは、候補者の作品を展示してそのなかから賞を決めるのではなく、あらかじめ受賞者を選んだうえで時間と予算をかけて展覧会を行なう点だ。そのため2組の作品しか見られないが、受賞者2組が広大なスペースに3カ月間展示するだけあって見応えがある。

選考は公募と推薦の併用で、選考委員が書類選考やスタジオ訪問をして2組を決定し、3年にわたる継続的な活動支援を行なう。支援内容は、賞金300万円のほか、海外での活動支援200万円(上限)、東京都現代美術館での個展開催、作品集の作成などとなっており、ただ賞金を与えるだけでなく幅広く親身な支援体制を築いているのが特徴だ。

選考委員は6人で、毎回2人ずつ入れ替わる。今回(2024-26)は、高橋瑞木(CHAT館長兼チーフキュレーター)、野村しのぶ(東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター)、ソフィア・ヘルナンデス・チョン・クイ(クンストインスティテュート・メリー ディレクター)、レズリー・マ(メトロポリタン美術館 ミン・チュー・シュウ&ダニエル・シュー アジア・アート部門アソシエイト・キュレーター)、鷲田めるろ(十和田市現代美術館館長)、近藤由紀(TOKASプログラムディレクター)が務めた(肩書きはすべて当時のもの。以下同。一部省略したが、それでもカタカナの肩書きは長い!)。

今回の受賞者の梅田哲也は、その場にある身近なものを使って動いたり光ったりするサイトスペシフィックなインスタレーションを手掛けてきた。一方の呉夏枝は、在日3世の出自を背景に織や染などの技法を用いて個人の記憶に基づく制作を続けている。2人は近年「海路」「水路」など水にまつわる考察を深めていることから、共通タイトルを「湿地」とし、会場を2つに分けずに全空間を共有しながら個々の作品を展示することになった。

とりわけ圧巻だったのは、もっとも大きい展示空間に足場を組んで空中回廊を設け、来場者を歩けるようにしたこと。ふだんは見上げるしかない天井を間近で観察することができたのは、意味もなくうれしい体験だった。この無駄にタッパの高い空間をこれほど目いっぱい使った例がかつてあっただろうか。あっぱれ!


Tokyo Contemporary Art Award 2024-26受賞記念展「湿地」 展示風景[筆者撮影]

なお3月には、2026-28年の受賞者として潘逸舟とやんツーを選出。授賞式と選考委員によるシンポジウムが行なわれ、丁寧な選考過程と2人の作品が紹介された。ちなみにこれまでは男女1組ずつ選ばれることが多く、男性2人の選出は初めてのことである。


「Tokyo Contemporary Art Award 2026-28」授賞式   前列左から2人目が藩逸舟、3人目がやんツー[筆者撮影]

TERRADA ART AWARD

「Tokyo Contemporary Art Award」と目指す方向性が似ているのが、5年前に創設された「TERRADA ART AWARD」だ。これは美術品の保管をはじめ修復・梱包・輸送・展示などのサポートを行なってきた寺田倉庫が2021年に始めた新しいアワード。隔年で開かれ、今回で3回目を迎える。

ここも世界を舞台に活躍が期待される新進アーティストの支援を目的とする。18歳以上45歳未満という年齢制限はあるが、国籍不問で、絵画、立体から、写真、映像、音、デジタルメディア、パフォーマンスまでジャンルも問わない。

まず公募によるポートフォリオの一次審査を行ない、展示プランの最終審査を経て5組のファイナリストを決定する。それぞれ賞金300万円を制作費として渡し、寺田倉庫を会場に個展形式でファイナリスト展を開催。さすがに潤沢な制作費とハードな空間が使えるだけあって力作が並ぶ。この5組に最終審査員がそれぞれ各審査員賞を授与する仕組みだ。

今回のファイナリストに選ばれたのは、黒田大スケ、小林勇輝、是恒さくら、谷中佑輔、藤田クレアの5人。黒田は、自分の口の周りにウサギやカニなどの顔を描き、その動物が喋っているようにセリフをいう映像作品で知られるが、今回は戦後日本の抽象彫刻家たちがブランクーシの《空間の鳥》(1926)について議論を交わすというもの。マンガチックな動物がまじめなテーマをとぼけた関西弁で語るのがたまらなくおかしい。


黒田大スケ《彫刻家のテーブル》(2025)[筆者撮影]

小林は一風変わっていて、中国武術「詠春拳」を起点とする学際的パフォーマンスを発表。会場には練習道具や写真が並び、チャイナ服の本人がデモンストレーションもする。是恒は、人と鯨の関わりを探るうちに集まってきた鯨由来の素材で《空想玩具》を制作。消えゆく鯨文化を残すための模索だという。

谷中と藤田は作品の外観から意図を読み取るのは難しい。谷中の会場には壁に月の満ち欠けが示されているが、メインの作品は中央に吊るされた楽器であり(彫刻でもある)、これを居合わせた人に呼びかけて3人集まったら演奏できるという仕組み。藤田は花を用いた装置を見せているが、植物のように時間をかけて周囲との関係を育んでいく生き方を人間も学ぼうということらしい。

一次審査員は、池城良(アーティスト)、大巻伸嗣(美術作家)、木村絵理子(弘前れんが倉庫美術館館長)、高橋龍太郎(精神科医、現代アートコレクター)、竹久侑(水戸芸術館現代美術センター芸術監督)、椿玲子(森美術館キュレーター)の6人。最終審査員は金島隆弘(金沢美術工芸大学准教授)、神谷幸江(国立新美術館学芸課長)、寺瀬由紀(アートインテリジェンスグローバル・ファウンダー)、真鍋大度(アーティスト)、鷲田めるろ(金沢21世紀美術館館長、東京藝術大学准教授)の5人。

これまでのファイナリストには持田敦子、山内祥太、川内理香子、久保ガエタン、スクリプカリウ落合安奈(以上2021)、金光男、冨安由真、原田裕規、村上慧、やんツー(以上2023)がいる。

蛇足だが、もしぼくが最終審査員だったらだれを選ぶだろう? 個人的には黒田大スケの作品がいちばん刺さった。おめでとう、勝手に村田真賞だ。

VOCA

以上2つがノンジャンルの現代美術全般を対象としたアワードであるのに対し、絵画をはじめとする平面に焦点を合わせているのが「VOCA」と「FACE」である。

「VOCA」は「The Vision of Contemporary Art」のイニシアルで、サブタイトルは「現代美術の展望―新しい平面の作家たち」。設立は1994年だから今回のなかではもっとも長い歴史を持つ。といってもまだ30年ちょっとだけどね。

主催は日本美術協会と上野の森美術館で、第一生命保険が特別協賛。日本美術協会は明治初期に設立された龍池会に端を発する日本最古の財団法人で、現在はフジサンケイグループに属し、上野の森美術館を本拠とする。高松宮殿下記念世界文化賞や上野の森美術館大賞も同協会の主催だ。また、第一生命保険は受賞作品を買い上げ、日比谷本社ビルに展示するなどの支援を続けている。

「VOCA展」の大きな特徴は公募ではなく、全国の美術館学芸員や美術評論家約30人が推薦した40歳以下の作家の新作を展示し、そのなかからVOCA賞はじめ各賞を決定するという方式だ。これにより首都圏在住作家に偏らず、地方に埋もれがちな作家を発掘する可能性が広がったように思う。賞金はVOCA賞が300万円、奨励賞が各50万円、特別賞が各10万円となっている。

ということで、今年のVOCA賞は戸田沙也加、奨励賞はソー・ソウエンと寺田健人、佳作賞は加藤千晶と倉敷安耶が受賞した。戸田は同サイズの写真と絵画を併置した作品を出品。写真には首のない裸婦彫刻が打ち捨てられた風景が写っており、胸から上を描いた彫像のような女性の肖像画と対を成している。


「VOCA展 2026 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」シンポジウム前 左奥2点が戸田沙也加《語られざる者の残響》、右奥が馬場美桜子《Liminal》[筆者撮影]

ソーは身体性をテーマに、絵画や映像、点字などの複合メディアで表現した作品、寺田は沖縄の戦跡を写した写真に基づくモノクロのリトグラフで、弾痕や砲弾による欠損部分は金継ぎのように薬莢をすりつぶした金属粉で塗り潰している。加藤は家庭をテーマに「写真を編む」手法で織り上げたテキスタイル、倉敷はマグダラのマリアや小野小町の手のイメージを継ぎはぎし、年季の入ったフレスコ画のように仕上げた。図らずも受賞作品からは「身体」「傷」といった共通のテーマが浮かび上がってくる。

今年の審査員は拝戸雅彦(キュレーター)、尾﨑信一郎(鳥取県立美術館館長)、丹羽晴美(東京都写真美術館学芸員)、服部浩之(キュレーター/東京藝術大学大学院准教授、国際芸術センター青森館長)、原久子(大阪電気通信大学教授)の5人。審査員も全国各地から集めている。

審査員についていえば、初回から20年以上、高階秀爾、酒井忠康、建畠晢、本江邦夫の4人が務め「VOCAの顔」となっていた(途中でゲストが加わったが)。問題は4人とも男性であり、かつ首都圏在住であること、そして毎年着実に年齢が上がり(初回の4人の平均年齢は52歳だったが、2015年には73歳に達した)、20- 30代の出品作家との世代間ギャップが広がっていったことだ。

この4人の影響力は大きく、次第に「VOCA的」ともいうべき作品傾向が顕わになっていく。これをマンネリと見るか、「VOCAらしさ」が鮮明になったとプラスに捉えるかは意見の分かれるところだが、いずれにせよこの4人の「顔」を外してメンバーを入れ替えるようになったのは2016年からである。

同展は多くの作家を輩出してきたことでも知られる。第1回はVOCA賞の福田美蘭をはじめ、大竹伸朗、岡﨑乾二郎、村上隆らが出品しているし、歴代受賞者には杉戸洋、堂本右美、やなぎみわ、石田徹也、蜷川実花、小西真奈、山口晃、今津景、淺井裕介など錚々たる名前が並ぶ。これも公募ではなく、推薦制ならではの現象だろう。

さて、ぼくが審査員だとしたらだれを選ぶだろう。少し迷うが、VOCA賞は馬場美桜子《Liminal》に贈りたい。収穫後に廃棄された大根の花や茎を丹念に描いたもので、生と死や環境問題にこじつけることもできるが、そんなことより意味もなく植物のごちゃごちゃした感じを描き出したいという欲望が先立った、と思いたい。奨励賞は前出の寺田健人と倉敷安耶の2人に。

FACE

「FACE」も平面中心だが、「VOCA」より絵画指向が強い。こちらは2012年にSOMPO美術館と読売新聞社の主催、SOMPOホールディングスの特別協賛により始まった公募展。「FACE」とは「Frontier Artists Contest Exhibition」の頭文字らしい。

SOMPO美術館(SOMPO美術財団)は開館翌年の1977年から、美術団体の公募展への「財団奨励賞(現SOMPO美術賞)」や、中堅画家を対象とする「東郷青児美術館大賞」などの支援事業を行なってきたが、「FACE」もこれらの理念を受け継ぎつつ、「将来国際的にも通用する」多様な新進作家に開かれた登竜門になることを目指しているという。つまり団体展系からより新しい現代美術に近づいたといえそうだ。

対象は絵画や版画を中心とする平面作品のみで、国籍や年齢は問わない。公募した作品から入選作を選んでSOMPO美術館の3フロアに展示し、審査員がグランプリや各賞を決めるという方式だ。これまで唐仁原希、村上早、田中千智、平川恒太らが受賞してきた。

今年は1,271点中57点が入選。応募者は9歳から98歳まで広がりがあるというから驚く。出品数は第1回からほぼ千点前後、入選数はほぼ70~80点で推移しているが、今回はこれまで別の時期に開いていたFACE受賞者による「絵画のゆくえ2026」展に1フロアを譲ったため、57点に減少した。

今年のグランプリは吉田茉莉子、優秀賞は伊藤陽々咲、黒澤匠、肥沼義幸の3人。吉田の《天泣》は、植物が鬱蒼と生える神話的な世界で大きく腕を開く人物を描いたもの。勢いのある筆致や滴り落ちる絵具がタイトルの「泣」を強調している。

伊藤は腕の肉をつまんだらゾウの顔に見えたところからゾウの群れを描き、黒澤は環状の蛍光灯をあたかもUFOのように画面の上半分いっぱいに描出している。どちらも幻想リアリズムといえるような写実描写だ。肥沼は木炭でブッダとキリストらしき人物を併置させたモノクロームのドローイングを出品。


「FACE展 2026」より、左から黒澤匠《幾千年》(2025)、肥沼義幸《二柱の祈り》(2025)、吉田茉莉子《天泣》(2025)[筆者撮影]

そのほか、30歳以下に送られるU30フロンティア賞にアザミユウカ、審査員特別賞に村尾伊織、小笠原礼瑠、澁谷由貴子、原真莉亜が選ばれた。こうして名前を書いているだけでもいかに女性が多いかがわかる。

審査員は椿玲子(森美術館キュレーター)、秋田美緒(国立西洋美術館研究員)、田中龍也(群馬県立近代美術館学芸員)、西脇芳和(SOMPO美術館館長)、森谷佳永(神奈川県民ホールギャラリー学芸員)の5人で、館長を除けば女性が多い。賞金はグランプリ300万円、優秀賞50万円(3点)となっていて、どこも300万円というのが最高賞の上限らしい。

さてここでもぼくが選ぶとしたら……グランプリも優秀賞も残念ながら該当者なし。でも併催の「絵画のゆくえ2026」に出ていた「FACE展2025」優秀賞の春日佳歩は、食にこだわる自撮りのようなセルフポートレートが蠱惑的だったので、越境して村田真賞だ。


「絵画のゆくえ2026  FACE受賞作家展」より春日佳歩作品[筆者撮影]

岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)

数あるアワードのなかでもひときわ異彩を放つのが「岡本太郎現代芸術賞展」である。岡本太郎の亡くなった翌1997年に始まり、今年で29回を数える。同賞は国籍・年齢を問わず、5m×5m×5m以内に収まればジャンルも問わない。岡本太郎という型破りの芸術家の名を冠した公募展だけに毎回「ベラボー」な作品が集まるので、アワード展のなかでも個人的にいちばん楽しみにしている展覧会だ。

まず作品プランを記した応募用紙による第一次審査で入選者を決め、実現した作品を川崎市岡本太郎美術館で展示する。今回は21組の作品が並んだ。第二次審査により岡本太郎賞(賞金200万円)、岡本敏子賞(同100万円)、特別賞(総額50万円)を選ぶ方式。太郎賞受賞者は東京の岡本太郎記念館で作品展示の機会が与えられる。これまでの受賞者には、山口晃、大巻伸嗣、梅津庸一、風間サチコ、キュンチョメ、サエボーグらがいる。

審査員は椹木野衣(美術評論家)、土方明司(川崎市岡本太郎美術館館長)、平野暁臣(岡本太郎記念館館長)、山下裕二(美術史家)、和多利浩一(ワタリウム美術館キュレーター)に、特別審査員の福田美蘭を加えた6人。このうち福田を除く5人は常連の男性だ。

「VOCA展」でも見たように、審査員の顔ぶれが固定すると作品傾向が偏ってきてマンネリ化する恐れがあるが、ここではそれがプラスに働いているように思える。なぜなら岡本太郎がベラボーを好んだように、太郎を愛する審査員たちもベラボーなものを望み、応募者もベラボーを目指して応募してくるからだ。この太郎―審査員―応募者の三位一体が続く限りベラボーも絶えることはないだろう。ベラボーはマンネリ化しないしね。ほかのアワード展ではこうはいくまい。

とはいえ、この10年ほど受賞作品に顕著な傾向が見られるようになったのも事実だ。それは単体の絵画や彫刻より、無数の作品を集積してひとつのインスタレーションとする作品である。今回の岡本太郎賞の高田哲男《FUKUSHIMA5000》もそうだ。原発事故からの日数と同じ5440枚の小さなドローイングで壁3面を埋め尽くし、中央にドローイングを貼り付けたフレコンバッグを積んだもので、これは圧巻。太郎賞もうなずける。


「第29回岡本太郎現代芸術賞展」より、高田哲男《FUKUSHIMA5000》[筆者撮影]

岡本敏子賞の馬場敬一《死と再生のイニシエーション》も同じ傾向にある。こちらは本人の鬱体験で得た死生観を祭壇画のように表わしたもので、大小の段ボールにほぼモノクロームで描いた左右対称の図像は禍々しさにあふれている。

どちらも洗練からはほど遠い泥臭い労作で、TARO賞ならではの選択といえよう。ちなみにふたりとも50歳過ぎで、悪いけどこれらの作品がほかのアワード展で受賞することは想像できない。太郎賞がなければ埋もれていたかもしれない作家・作品なのだ。

特別賞は宇佐美雅浩、櫻井隆平、鈴木藤成、Soma Tsuchida、みずかみしゅうと、吉村大星の6人で、圧倒的に男性が多い。驚いたのが吉村大星《丁寧な対話》である。父の故吉村芳生の描いた大作《無数の輝く生命に捧ぐ》を、同サイズ、同構図、同手法で写した「模写」なのだ。違うのはタイトルだが、これは親子の対話を意味するという。それにしてもいくら親子とはいえ、模写が公募展に入選し、受賞までするというのはTARO賞以外にありえないのではないか。吉村もすごいが、それを選ぶ審査員もすごい。


「第29回岡本太郎現代芸術賞展」より、吉村大星《丁寧な対話》[筆者撮影]

もしぼくが審査員だとしたらだれを選ぶだろう。太郎賞はやっぱり高田哲男だな。敏子賞は迷うが、想定外という点で吉村大星に贈りたい。

アートアワードの行方

最後に、昨年新設されたばかりの「森アートアワード」にも少し触れたい。これは森現代芸術財団が主催し、2年にいちど開催するアワードで、「中堅作家が次のグローバルなステージへ羽ばたくための表彰制度」と位置づけている。

まず国内の推薦委員がアーティストを推薦し、国際選考委員による書類審査を経て4人のファイナリストを選出。その後、最終審査を経て最優秀賞受賞者ひとりを決定し、賞金1000万円(!)と作品発表の機会を提供する仕組みだ(ほかのファイナリストには賞金100万円ずつを授与)。「Tokyo Contemporary Art Award」や「TERRADA ART AWARD」と方向性は近いが、賞金が飛び抜けている(付け加えると、名称がカタカナ表記なので覚えやすいことも重要だ)。

推薦委員は、趙純恵(森美術館アソシエイト・キュレーター)、角奈緒子(金沢21世紀美術館学芸課長)、木村絵理子(弘前れんが倉庫美術館館長)、中村史子(大阪中之島美術館主任学芸員)、徳山拓一(森美術館シニア・キュレーター)、椿玲子(森美術館キュレーター)の6人で、うち5人が女性だ。

国際選考委員は片岡真実(森美術館館長)、ラーナ・デヴェンポート(南オーストラリア州立美術館元館長)、グレン・ラウリィ(ニューヨーク近代美術館名誉館長)、フランシス・モリス(テート・モダン元館長)、スハーニャ・ラフェル(M +館長)、ユージン・タン(シンガポール美術館館長、ナショナル・ギャラリー・シンガポール 館長)と錚々たる顔ぶれを揃えている。

初回のファイナリストに選ばれたのは、片山真理、小泉明郎、目[mé]、山城知佳子の4組。この2月に最終審査が行なわれ、グランプリに選出されたのが片山真理である。このあと森美術館との共催で作品展示が行なわれるという。

こうして見てくると、冒頭でも触れたが、ここ30年ほどのあいだに「賞」が「ART AWARD」に変わり、絵画だけでなくノンジャンルの現代美術が増え、個人の顕彰よりアーティストの育成と支援が強調され、審査員が全員男性から最近はむしろ女性のほうが多くなり、外国人の審査員もちらほら現われ、美術評論家が影を潜めてキュレーターや館長ばかりになってきた。時代を見事に映し出していることがわかる。変わり映えしないのは賞金の額くらいだろうか。その意味で「森アートアワード」の1000万円は突破口になるかもしれない。

ただ気になるのは、ここ数年のあいだに新設されたアワードがどれも海外を視野に入れたグローバル志向であること。それ自体は歓迎すべきだが、それらのどこがどう違うのか、名称も含めて区別がつきにくくなっているのも事実である。

方向性が似ていれば選ぶ審査員も選ばれるアーティストも被ってくる。たとえば「Tokyo Contemporary Art Award」「TERRADA ART AWARD」「森アートアワード」の3つで見ると、アーティストでは山城知佳子とやんツーの2人、審査員・選考委員では鷲田めるろ、木村絵理子、椿玲子の3人がダブっている。ダブるのはもちろん本人が優秀で評価が高いからだが、側から見るとなぜもっと違いを打ち出さないのだろうと疑問に思ってしまう。

アートアワードはたくさんあることに越したことはないが、それらが同じ方向を向いていてはもったいない。もっと多様なアーティスト、多彩な表現を掘り起こすべきではないか。たとえば、対象を70歳以上に限定するとか、逆に20歳以下まで下げてみるとか、在日外国人しか応募できないとか、路上に設置した作品で競うとか(そういえば昔「代官山インスタレーション」があったな)、審査員をすべて素人に委ねるとか……。そんな「ベラボー」なアワードがあったら世のなか楽しくなるんだけどね。