会期:2026/06/06~2026/06/27
会場:シュウゴアーツ[東京都]
公式サイト:https://shugoarts.com/exhibitions/e01304/

アルテ・ポーヴェラやポスト・ミニマリズム、もの派といった潮流によって、彫刻がイメージや造形を徹底的に排除しようとした1970年代以降の状況において、戸谷成雄はあえて「作ること」へと立ち返った彫刻家である。素材や空間の関係性をただ示すだけではなく、木を削り、形を与え、彫刻として成立させる根源的な探求を通じて、戸谷は半世紀にわたり表面とは何かという問いを思考し続けていた。本展は戸谷の空間と視線、そして彫刻についての概念的な思考の軌跡を辿る追悼展である。


会場風景[筆者撮影]

代表作「森」や「視線体」シリーズでは、チェーンソーによって荒々しく刻まれた無数の痕跡が木塊の表面を覆い、削り残された山脈のような溝と、残された突起の凹凸のある連なりを生んでいる。こうして隆起した表面の手触りは物質と空間との関係を可視化する構造として機能し、同時に錯綜しながら関係をもつような線を浮かび上がらせている。戸谷は彫刻を自立した物体としてではなく、無数の視線が空間で交錯し、絡み合う境界として襞を表わしている。

こうした感覚の背景には、戸谷が幼少期を過ごした長野県小川村の地形体験が大きいと言われている。山と山が折り重なり、無数の襞として折りたたまれた山谷の風景によって、西洋近代が規定してきた垂直・水平による認識の座標とは異なる斜線の感覚が与えられた。さらに埼玉県秩父市のアトリエで木と向き合い続けた経験を通して、その斜線の感覚は彫刻の表面へと結実していく。戸谷が生み出した凹凸の連なりは、山肌の起伏であると同時に、空間を飛び交う無数の視線の軌跡を受け止め、物質の界面へと視線の関わりを刻み込んでいるようにも見える。

本展では、秩父のアトリエで撮影されたインタビュー映像をはじめ、《象の鼻》から《森》、晩年の《視線体:半彫刻》に至るまでの思考の変遷を辿ることができる。とりわけ近年の《視線体:半彫刻》では、量塊としての彫刻が再びレリーフ的な平面へと接近し、物体と空間との関係がより抽象的な次元で探求されていたことが窺える。また1988年の第43回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展に参加した戸谷成雄、舟越桂、植松奎二らを記録した安齊重男の写真や、戸谷の関連書籍により、同時代の日本彫刻を考える上でも貴重な機会となっていた。

戸谷の特異性は、彫刻を単なる物体としてではなく物質、空間、身体、視線が交差する出来事として捉え直した点にあるだろう。木彫という極めて原初的な行為を通して、空間に満ちた関係性を知覚する視線と物体の関わりにより「彫刻」のあり方を開き続けた作品の射程。そして、さまざまな形態や参照点から彫刻を見つめる、襞のような思考そのものに戸谷の作家としての美しさがあるのではないだろうか。

鑑賞日:2026/06/10(水)