会期:2026/04/25~06/21
会場:栃木県立美術館[栃木県]
公式サイト:https://hotchpotch-ten.jp

「ハッチポッチステーション」(1996-2002、以下「ハッチポッチ」)や「クインテット」(2003-12)など、ながらくNHKの子供向けパペットバラエティ番組のキャラクターデザイン、アートディレクションを担当した藤枝リュウジの展覧会が全国を巡回中だ。昨年広島県立美術館を皮切りに、2026年は6会場で開催され(予定含む)、公式SNSによると来年の巡回も調整中であることがアナウンスされている。

「ハッチポッチ 藤枝リュウジの世界」展示作品[筆者撮影]

すでに半世紀以上のキャリアを誇る藤枝であるが、これほどの規模の展示は初めてである。「ハッチポッチ」をはじめとしたTV番組はもちろんのこと、広告、エディトリアルといった多くの仕事を通覧することで、同展はイラストレーターとしての顔とデザイナーとしての顔を使い分けてきたその稀有な歩みを回顧する機会となっていた。しかし、そのことは会場およびカタログにおいて、藤枝個人に便宜的なスポットを当てるだけでは示唆しきれておらず、彼のイラストレーションやデザインをめぐる歴史的な位置づけは不明瞭なままだった★1。そのため、以下では適宜歴史や同時代の背景を補足しつつ、展示内容に触れていきたい。

1943年生まれの藤枝は89年の取材において「自分の線みたいなのが出せるようになったのは、ここ数年だね」と語っている★2。つまり彼が描き手としての自覚を持ち始めたのは40代に入ってからということであり、その意味では遅咲きと言ってもいいだろう。しかし、68年にサンアドに入社して以降培ってきたデザイナーとしての経験は、とりわけ1990年代以降活発になるイラストレーターとしての仕事に好影響を与えることになる。

72年に独立した藤枝は、82年からたまプラーザ東急ショッピングセンターの広告やパンフレットのアートディレクション(以下、AD)を一手に引き受けるようになり、デザイナーとしての仕事を軌道に乗せていく。そして80年代中盤には唐仁原教久との出会いをきっかけに彼の主宰するHBギャラリーで展示経験を重ね、イラストレーションとしての魅力も向上させ、依頼も増え始めた。こうした経験は、「見せる相手を十分に意識して描かれているイラストレーションはいいもんだ★3」と明言する藤枝の価値基準が形成される重要な前史である。

そのことは「ハッチポッチ」や「クインテット」といったTV番組のアートディレクションを見ればよく分かるだろう。そこではキャラクターデザインのみならず、セット内に登場する小道具のデザインも手がけることによって、統一的な世界観をディレクションしていることが見て取れる。例えば「クインテット」の番組セットポスターは、明快な幾何形体によって構成されており、温もりある描線が持ち味の藤枝の造形感覚が、モダンデザインに根ざしていることを示している。

このように藤枝は、ADやデザイナーとしての感覚をキープしながらイラストレーションに取り組んでおり、その手腕を数多くの事例から見出せるのが同展の醍醐味である。会場で目を引いたのは、こぶ平時代から続く落語家、林家正蔵の独演会の広告や各種印刷物である。《林家正蔵独演会 冬の正蔵 其の四》(2010、下図左下)は、仲條正義を感じさせる脱中心化されたタイポグラフィと、和田誠的感覚をさらに単純化した似顔絵が組み合わされた傑作だと言えるだろう。

「ハッチポッチ 藤枝リュウジの世界」より《林家正蔵独演会 冬の正蔵 其の四》[筆者撮影]

 

★1──長きにわたり藤枝が担当したパペットバラエティの知名度は高く、筆者が足を運んだ栃木県立美術館では、5月の連休中だったこともあり親子連れはもちろん多くの観客が詰めかけていた。そういった来場者層を想定すると、言葉による啓蒙より、展示の物量で見せるプレゼンテーションのほうが有効であると企画側が判断したと考えられる。同展は出版事業と展覧会事業を行なうクレヴィスが企画制作を担っている。同社はこれまで写真とイラストレーションの展覧会を中心に手がけており、2016年に京都から始まり、直近では東京・立川のPLAY! MUSEUMでも開催された一連の「イラストレーター 安西水丸」展も担当している。同展のカタログは没後再発見された絵を収録し改定版を出版しており、安西の既出原稿などテキストも掲載している。このことを踏まえると、クレヴィスは展覧会に応じてふさわしい文脈を都度検討していると考えられるが、本文でも述べたように藤枝リュウジの仕事は歴史的に重要なものであるため、それについて一定の解説はなされるべきだったと筆者は考えている。
★2──「イラストレーションに強いデザインワーク 藤枝リュウジ事務所」(『イラストレーション』58号、玄光社、1989、113ページ)
★3──藤枝リュウジ「興奮したり冷静になったり。」(『イラストレーション』66号、玄光社、1990、35ページ)

 

(後編へ)7/15公開予定

鑑賞日:2026/05/04(月)