会期:2026/06/15~2026/07/18
会場:武蔵野美術大学 美術館・図書館[東京都]
公式サイト:https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/23064/

武蔵野美術大学美術館で、アニメーション作家・黒坂圭太の展覧会「黒坂圭太──森を見ずに木を見る」が開催された。本展は黒坂が長年にわたり教鞭を執ってきた同大映像学科の教授退任を記念する企画展である。

黒坂は武蔵野美大の油絵学科を卒業したのち、イメージフォーラム映像研究所や京都芸術短期大学に通い、16mmフィルムを用いた実験映像の制作を始める。映像学科には1990年の設立から携わり、昨年度末に定年を迎えて30年を超える教員生活に区切りをつけた★1。展覧会ではアニメーション作品の上映やそれらの資料群に加えて、10代の頃に描いていた油画から最新作の大型ドローイングまでが紹介され、彼の創作人生の軌跡をたどる構成となっていた。

「森を見ずに木を見る」展[筆者撮影]

黒坂の資料を見ていて驚かされるのは、アニメーションの制作過程で生まれる中間生成物の緻密さである。鉛筆で描かれる原画の筆致はもちろん、フィルムコンテやグラフィックスコアと呼ばれる視覚的な設計図にも目を見張る。

「森を見ずに木を見る」展[筆者撮影]

展覧会の入り口には黒坂の直筆で「私はこれまで木だけを見てきました。おそらくこの先も森を見ることはできないでしょう。」と掲げられている。また第1章のパネルには「描くことではなく、祖父自身の『ドラマ』を描き出すことが好きだった」という発言も記され、自らの関心事に対する局所的な視点と、人生の来し方を視覚化することへの興味が明かされている。

2011年の震災以降、黒坂は線がうごめくようなドローイングアニメーションを制作してきた。それらは線や風景を主体とする出来事の変遷、すなわち「ドラマ」を表現したものだといえる。この手法による代表作《山川景子は振り向かない》は、変わり続ける風景という対象を山、川、景、子なる名のもとに擬人化し、その行く末を鉛筆による線とデジタル編集におけるディゾルブによって表現している。そこでは「山川景子」というキャラクターが人間の似姿を取ったり、「木」や「水」といった具体的な対象が躍動したりするような表現は志向されない。彼の作品にアニミスム的な生命感が見出されるとすれば、それは描かれた表象ではなく、線そのものにおいてである。


「森を見ずに木を見る」展[筆者撮影]

本展ではマンガ作品《ママのハンカチ》の原画や、新作アニメーション《たらちね(仮)》の試作パートも観ることができた。《たらちね(仮)》は彼が「画劇」と呼ぶライブドローイングに基づくもので、長年におよぶ創作活動の集大成的な作品になることが期待される。ただただ、その完成が待ち遠しい。

鑑賞日:2026/07/10(金)

★1──金沢美術工芸大学大学院映像コースでは、現在も客員教授に名を連ねている。
URL=https://www.kanazawa-bidai.ac.jp/faculty/research1/movie/