会期:2026/08/07〜2026/08/11
座・高円寺1[東京都]
作・演出 坂本鈴
公式サイト:https://darumesian.cranky.jp/loveide2026/
映像配信:https://www.confetti-web.com/events/17680(2026年10月6日まで)
ポリコレ、つまりはポリティカル・コレクトネスが作品をつまらなくするという物言いがある。例えばポリコレ的なメッセージが前面に押し出されることで、物語としての面白さが損ねられてしまうというのだ。なるほど、ポリコレ的なものに限ったことではないが、直接的な言葉でメッセージを伝えるばかりの作品は私もあまり面白いとは思わない。芸術には直接にメッセージを伝えるだけでなく、芸術ならではのやり方でそれに触れる者に働きかけ、その思考を触発する力があるからだ。その力を十分に発揮している作品をこそ私は面白いと思う。
だが、なかにはダイレクトにポリコレ的なメッセージを発しながら、それでもエンターテイメントであることを忘れない、それどころか舞台上でダイレクトにポリコレ的なメッセージを発することそれ自体がエンタメであるような作品もある。劇団だるめしあんの25周年記念公演として上演された『ラブイデオロギーは突然に〈劇場版〉』(作・演出:坂本鈴)である。


同作は2024年にコンペ形式のフェスティバル『ガチゲキ!!』復活前年祭の一作として上演されたものの〈劇場版〉。ドラマ化したケータイ小説『あまこい』の世界に転生し、その登場人物となってしまった脚本家・杉原(田実陽子と高羽彩のWキャスト。以下同様)と原作者・藤井(小泉まき/河南由良)。二人は自分たちを待ち受ける「ケータイ小説特有の悲劇的な運命」を何とか回避し、元の世界に戻ろうとするのだが──。一方、『あまこい』の世界ではお嬢様の桜子(陽向さと子/大内彩加)と不良の和也(若尾颯太/甲斐優風汰)が恋に落ちるのだが、二人の恋にはさまざまな障害が立ちはだかり──。


異世界転生モノには転生前の世界での知識やスキルを使って「無双」(=大活躍)するというパターンがある。本作ではそのパターンを踏襲しつつ、20年前の自分たちの作品世界に転生してしまった脚本家と原作者が、現在の視点からかつて自分たちが書いた作品世界の「おかしさ」にツッコミを入れていく、というのが基本的なストーリーである。なお、同作は10月6日(火)までの期間限定で舞台映像を配信中(購入後は30日間視聴可能)である。興味を持たれた方は続きを読む前にぜひ配信をご覧いただきたい。
極端から極端へと振れるようなケータイ小説のストーリーを構成する要素はかつて「ケータイ小説7つの大罪」と呼ばれてきた。作品によってさまざまな組み合わせのある「大罪」だが、『あまこい』においては売春・性暴力・事故死・妊娠・流産・薬物・DV・真実の愛の「8つの大罪」らしい。和也の元カノ・小雪(小林桃香/木村美月)と桜子の友人・あかり(榊原あみ/林美月)にそれぞれ転生した杉原と藤井もまた、自分たちを待ち受ける事故とドラッグを回避するために『あまこい』の登場人物たちに働きかけていくことになるのだった。

さて、現在の視点からケータイ小説の世界に「ツッコミ」を入れることをエンタメとして成立させていることはこの作品の大きな強みではあるのだが、その「ツッコミ」はケータイ小説を現在と切り離された過去として一方的に断罪するようなものではない。むしろ、ケータイ小説が具現化しているのはかつて自分たちが生きた世界のおかしさであり、ときに現在に至るも連綿と継承されているおかしさでもあるのだ。
杉原と藤井は『あまこい』の登場人物に働きかけるうちに、かつての自分たちが見過ごしてしまっていたものにも気づいていく。例えば和也の親のネグレクトや、桜子の父(菅野貴夫/中嶌聡)によるモラルハラスメントがそれだ。杉原の「ごめんね、わたし、あなたのこと、こらえ性がない短絡的な不良だと思って書いてたよ」という言葉は、単なる脚本家の反省の弁ではない。問題を解決するためには、それを抱える人々の背景の理解が必要なのだということをも示しているのだ。
二人はやがて、自分たちもまた桜子たちと同じものに囚われ続けているのだという事実と向き合うことになる。それこそが最後の大罪「真実の愛」、またの名をロマンティック・ラブイデオロギーである。「真実の愛をみつけることですべての不幸から救われる」というセオリーを踏まえ、桜子と和也のそれを成就させようとしていた杉原と藤井。しかしあるすれ違いから和也にフラれてしまった桜子は、真実の愛が叶わないならそんな世界は滅んでしまえばいいと願う。「闇堕ち」した桜子によって崩壊していく世界。そんな桜子と世界を救ったのは、杉原と藤井の言葉だった。「世界は少しずつよくなっていく」「恋愛して、結婚して、子どもを産んだ男女二人だけじゃない世界に少しずつなっていく」「色んな生き方や色んな幸せをそれぞれに探していける世界になっていくから」──。それは桜子への言葉であると同時に自分たちに向けた言葉であり、あるいは未来に向けた祈り、いや、宣言でもあっただろう。そうして世界の崩壊は食い止められ、二人は元の世界への帰還を果たす。

坂本はポリコレ的なメッセージを巧みにエンタメとして織り上げながら、決して人間的な感情も置き去りにしない。私が特にグッと来たのは、ある場面で発せられる「すきーーー。でも殺したいーーー」というセリフだ。引き裂かれる感情がこれ以上ないほどストレートに出ていて思わず笑ってしまった。人間はそう簡単に割り切れるものではない。そのことを肯定しながら、それでも守るべきラインをきっちり引くこと。そしてそれを示してみせること。かつての自分たちに向けられた坂本の視線は、これからの世界を生きる下の世代へも向けられている。
観賞日:2026/08/10(月)