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プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ百景
大学図書館、期待と課題
笠羽晴夫
 前の2回で大学図書館が構築提供しているデジタルアーカイブの魅力ある多様な姿を紹介してきた。今回はこのような進展をうけ、今後この分野がどのような道を歩んでいくのか、課題は何かなどを探ってみたい。
名古屋学院大学附属図書館
名古屋学院大学附属図書館
 まず大学図書館がインターネット上で実施するサービスとはなんだろうか。この点では多くの大学間で共通認識ができつつあるようで、自然な集約案ともいうべきものがいくつかの大学図書館を見るとわかってくる。トップページにうまく収まっている例として名古屋学院大学附属図書館を見てみよう。
 ここを代表としてみれば、まず一般的な利用案内があり、「蔵書検索」がある。さらにほとんどすべての館でOPAC(Online Public Access Catalogue)が適用されており、他の図書館特に国立情報学研究所、国立国会図書館ともつながっていることが多い。また電子ジャーナル、データベースという項目では、職員、学生など登録された人達あるいは来館者に限られるが、内外の著名なデータベース(有料のものも多い)を使用することができる。そして、貴重書などを所蔵し公開しているところでは、貴重書データベース、電子図書館などの名前で入口を設けてある。
 この先このようなWebサービスを前提として、「そこに加わるデジタルアーカイブのあるべき姿は」という問題については、やはり大学図書館だけあって、正しい理解をしているところが少なくない。たとえば上智大学図書館では貴重資料データベースを構築するにあたり、その趣旨を簡潔に述べている。
上智大学図書館「貴重資料データベース」
上智大学図書館「貴重資料データベース」
 すなわち、最先端の知識であろうとも、それは先人の成果を基にしており、この成果の集積と伝達こそ図書館に課せられた大きな使命であることから、1500年までに初期の印刷技術で作られたインキュナブラをはじめとする貴重資料についても、その保管・保存だけでなくより多くの利用者の目に触れ情報伝達に資することが重要であるとして、まずはシーボルト関連の資料についてデータベース構築を始めた。
 このように、図書館というものが本来持つミュージアムとは異なる使命をデジタルアーカイブにおいても引き続き保持していくということは、当然とはいえ見習うべきであろう。
 それではもっと話を広げて、大学図書館のデジタルアーカイブ一般として今後期待される側面はどういうものか、つまり貴重書を含むもっと大きなスケールのものはないだろうか。
 日本において多くの大学図書館は本格的な自治体の図書館と比べても存在感がある。また大学であるということから所蔵資料に対する研究能力も潜在的に保持している。一方、利用者ということでは、学生、職員に対する便宜が第一なのはやむを得ないことであるし、学外の対象者としては卒業生が一般より優遇されることもある。しかしながら、大学が社会の組織の中でより多くの特権を得ていることを考えれば、少なくともインターネットによる外部からのアクセスに対し、今後より多くのサービスを提供することは考えられていいはずである。
 そういう期待を抱かせるものとして、規模の大きな資料を収蔵している大学がまとめてデジタルアーカイブを構築し外部へ提供している例をいくつか紹介し、大学図書館の項の終わりとしたい。

 まず、個々の大学における研究成果を記した紀要をデジタル化し公開している大学は今いくつか見ることができる。紀要は有料であれ原則公開だからこれは大学のアピール、対外サービス両面から重要なことである。これを成果一般、それも学生のものまで広げている興味ある取り組みとして、北海道大学附属図書館が発信する北海道大学学術成果コレクションHUSCAP(Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers)がある。これは同大学の研究者、大学院生などが著した学術論文、学会発表資料、教育資料などを保存・公開するものとして運営されている。トップページ右側の紀要一覧で研究分野のおよそがわかると同時に、「収録文献ピックアップ」で時宜にかなった話題の関連文献が紹介されている。ほんとうは学内外のいろいろな人達が、この中のものに言及し広く興味をかきたてる状態が望ましい。
 龍谷大学学術情報センターは、「検索・電子ジャーナル」という区分で、まず「貴重書画像データベース」として同学が所蔵する古典籍資料の全ページ画像をデータベース化しており、奈良絵本、科学書、医学書、芸能書、哲学書、仏教書など215タイトル、約64710画像を公開している(2006年9月現在)。このほか、大谷探検隊シルクロード収集資料(大谷文書)約9000点のデジタル画像化も興味深い。わかりやすい解説文が直接添付されているとさらによいのだが。
北海道大学学術成果コレクション「HUSCAP」 龍谷大学学術情報センター
左:北海道大学学術成果コレクション「HUSCAP」
右:龍谷大学学術情報センター
 明治学院大学図書館は、ヘボン式ローマ字で知られる米国人宣教師ヘボンが編纂した日本初の和英辞書『和英語林集成』およびその後の日本人各層の言葉を集めた和英・英和辞書としての改訂各版を所蔵しているが、これらをデジタルアーカイブ化し辞書として検索・使用可能にしている。これらのほかにも初期の和英・英和辞書の収集は続けられており、このデジタルアーカイブは収集活動を支援する学外アピールとしても、効果が期待できそうだ。
 そして、地域と大学の研究テーマ双方が反映された例として、琉球大学附属図書館のデジタルアーカイブをあげておこう。
 ここでは「沖縄学」というカテゴリの重要性、独自性を認識し、関連資料のデジタルアーカイブ化、公開に積極的に取り組んでいるところが見られる。琉球語音声データベースなど、他の地方大学に同種のものはなかなか見られない。伊波普猷文庫、宮良殿内文庫などいくつかの文庫があるが、なかでもプール文庫にある約60枚のガラス版写真は古き沖縄を記録するものとして大変興味深いものである。
『和英語林集成』デジタルアーカイブス 琉球大学附属図書館「デジタルアーカイブ」
左:明治学院大学図書館『和英語林集成』デジタルアーカイブス
右:琉球大学附属図書館
2006年9月
[ かさば はるお ]
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掲載/笠羽晴夫
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