今回は、ウェブ上の多様な装置や情報のサーキュレーションによる生態系を意識しながら、メッセージを効果的に伝達し、ユーザの次なるアクションを誘発するような、オンラインメディアのあり方について考えてみたい。
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ソーシャルメディアの影響力
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ソーシャルメディアと新聞オンラインメディアの
リーチ率を比較したグラフ |
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例として、2005年の暮れ頃からウェブでの影響力を徐々に持ち始め、今やウェブの生態系の一部を構成するソーシャルニュースやソーシャルブックマークといったソーシャルメディアをとりあげてみたい。これらのサービスは、ウェブの生態系のなかで各ユーザが意識的に情報(ニュース記事やブログ記事、特定のページなど)を選択し、投票やタグ付けといった機能を利用して、選択した情報を共有/整理するという、一連の情報のサイクルを実現する装置である。ウェブのアクセスに関する統計情報を公開しているAlexa★1より引用した過去三年間のデータによれば、著名なソーシャルメディアであるDigg★2とdel.icio.us★3は、既存の新聞オンラインメディアにひけをとらないリーチ率★4を昨年来確保している。Alexaとウェブ全体のユーザ母数の性質の相違、また、ユーザ主体で行なわれる情報の整理/共有といった活動のうえに成立するソーシャルメディアと新聞オンラインメディアという性質の相違を踏まえれば、単純にその数値をメディアの影響力として比較することはできないものの、近年リーチ率が減る傾向にある新聞オンラインメディアを尻目にして、新たな情報の循環を生み出すソーシャルニュース/ブックマークという装置がネットのメディア環境に埋め込まれ、ウェブの生態系として成長してきた様子が確認できる。注目度の高い新興ネット企業がYahooやGoogleといった大手の情報技術企業によって買収されるニュースが飛び交うなか、既存のメディア企業による買収が目立つソーシャルニュースやソーシャルブックマークの状況をみれば、この新しい情報生態系への既存メディア企業の注目度の高さは明らかである。
ソーシャルメディアという概念が一般に認知され、ソーシャルニュース/ブックマークサービスによる生態系が形成された結果、サービスへの投稿/登録をワンクリックで可能とするボタンを情報発信サイトに埋め込むことはすでに当たり前のこととなり、ソーシャルメディアに蓄積されているデータを読み取って、その内容を検索結果に反映させる検索エンジンも存在する。有益か無益かに関係なく莫大な情報を浴びながら日々の活動を営んでいるわれわれにとって、自分のアンテナに引っかかった情報やメッセージをどうにかして自身の活動にフィードバックさせたい、という思いは凡そ自然なものであって、特にそのような能動的なユーザに対してメッセージを効率的に届けたい場合、ソーシャルメディアの生態系を意識した発信方法を検討することは、もうしばらく有効なはずである。
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Everyware
Apple iPhoneを始めとしたスマートフォン、動画視聴やネットワーク接続が可能な携帯音楽プレーヤーなど、ウェブの生態系はいよいよ本格的に、われわれのポケットの中にまでその領域を拡大しようとしている。仲間との通信手段や自身の記憶の拡張機能として、また、より日常的な身体空間におけるコンテンツ視聴メディアとして、ハードウェアとサービスのコンバージェンスのもとで新たな生態系を創出しようとしつつある。ネットワークへの接続とユーザ体験を前提としたデザインは当たり前のものとなり、サービスは既存ネットワークの生態系との親和性を備え、あわよくば外部のコンテンツや機能を自分たちの生態系に取り込むよう予め仕組まれている。このようにして、われわれの生活環境や身体環境へ埋め込まれたEverywareによる新たなメディア空間が徐々に構築されつつあるが、今後この新たなメディア空間へとメッセージを発信していく試みにおいては、ターゲットとするユーザ像や想定する利用シチュエーションによって、多種多様なサービスとの連携、個々に最適化された複数のフォーマットでの情報発信を今以上に求められ、より複雑な情報生態系が形成されていくことになるだろう。われわれのためのEverywareの実践はまだ始まったばかり。ようやく手探りで一つひとつの課題に取り組みはじめた段階であり★5、おそらく今後数年から数十年のスパンで大きな影響力を持つようになるであろう、新しいメディア環境である。
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TEDにみるウェブのメディア手法
TEDはテクノロジー、エンターテイメント、デザインというテーマを核として、その時々の世界で最も魅力的な思想家や実践家が集い、そのアイディアや実践を披露しあう年次のカンファレンスである。ウェブサイトted.comは、TEDカンファレンスで披露されたスピーチを映像フォーマットで一般に無料公開しており、“Spreading ideas”というTEDのミッションを体現したアーカイブ装置として機能している。すでに約160の映像が公開され、週に一度のペースで新たなアイディアが追加されている。2006年6月に新たなスポンサーを獲得し、同時に公開されたアル・ゴア氏によるトーク映像をひとつの契機として★6、当時ブログ形式で運営されていたTEDのウェブメディアは一躍注目を集めた。現在運営されているウェブサイトは、統合アーカイブ装置として新しく構築され、2007年4月に公開されたものであるが、ナビゲーションや検索に関するインタフェースが小気味よく実装されているのは勿論のこと、現時点でのウェブの生態系を意識した、情報のサーキュレーションを促進するための記号やリンクが設置され、また、映像の受け手からのフィードバックを反映するコメントや投票機能など、必要なものが適所に配置され、まさに“Spreading ideas”のためのメディアとしてデザインされている。
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変化し続ける生態系とアーカイブ装置
技術進歩のスピードが勢いを増し、支えとなるテクノロジーがいつのまにか変化してしまうため、アーカイブの膨大な情報を体系化し、検索し、適切な形に加工して発信するという一連のサイクルが困難となって久しいが、ウェブのテクノロジーと、それによって支えられている情報生態系は、さらにその変化の速度を増す一方である。たとえば、先日発表されたGoogleのOpenSocial★7は、既存の多種多様なSNSと連携して、ユーザのプロフィールや人的ネットワーク、SNSでの活動に関する情報を活用し、新たなウェブアプリケーション装置を開発するための共通プロトコルである。もし今後、このプロトコルがうまく機能する状況へと進めば、メディアを作っていく側にとっての有力な方法論となりうる新たな情報生態系が発生する可能性を持っている。
アーカイブはメッセージを伝えるメディアであり、すでにアーカイブとメディアの概念の境界線は限りなく溶解している。アーカイブはネットワークの生態系の変化に応じて、そのあり方の変化を常に求められる。変化が必要な部分、必要でない部分をその都度判断して更新し、フィードバックの反映/蓄積、アーカイブの運用によって紡がれる新たな記憶を刻みながら、後世へと受け継がれるメディアとしてアーカイブを構築することが求められている。次回は、メディアとしてのアーカイブ展開の可能性について考えてみたい。 |
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★1──http://www.alexa.com/
★2──http://digg.com/
★3──http://del.icio.us/
Alexaそのものの説明については、Alexaのサイトやマーケティングに関する情報サイトなどを参照していただきたい
★4──全体の何%のユーザが当該ドメインにアクセスしたかを一日単位で集計。日に一回以上アクセスすればカウント。
★5──Adam Greenfield, Everyware, Peachpit Pr., 2006.
★6──http://blog.ted.com/2006/06/al_gore_on_tedt.php
★7──http://code.google.com/apis/opensocial/ |
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2007年11月 |
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[ すのうち もとひろ ] |
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