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デジタルアーカイブの未来──パーソナライズされる環境のなかで
須之内元洋
 これまでの連載のなかで、デジタルアーカイブに限らずさまざまなオンラインメディアの実例や状況を参照しながら、アーカイブのメディア戦略、ならびにその結果生成しうる情報エコシステムの可能性について紹介をさせていただいた。全6回の連載の最終回は、情報技術の側面から、未来のデジタルアーカイブの可能性について考えてみたい。一言でデジタルアーカイブといっても、その目的や役割は千差万別であり、その規模や仕組み、用いられるテクノロジーは大きく異なる。国の美術館や博物館の収蔵品データベースから、よくできた個人のブログまで、あるいはウェブ全体をデジタルアーカイブととらえることもできよう。そのため、未来のデジタルアーカイブというひとつの括りで可能性を語るのは乱暴に過ぎるかもしれない。
 ただ、未来のデジタルアーカイブがメディアとしての力を発揮し続けるためには、ネットワークの文化や情報のエコシステム、それを支えるテクノロジーの潮流から離れて存在することは考えにくく、ネットワークの状況を確認しつつ将来のありかたを考察してみたい。

テクノロジーのオープン化とアーカイブ構築プロセスの進化
DSpace
1──DSpace
 インターネットのインフラはオープンアーキテクチャのうえに成り立っており、昨今のウェブやネットサービスを支えているのは、世界中の技術者たちのコラボレーションによって生み出されるオープンソースのソフトウェアである。例えば、有名なLAMP(Linux + Apache + MySQL + Perl/PHP)と呼ばれるオープンソースのソフトウェア群は、ウェブアプリケーションの世界では必須と言ってよいほど大きな役割を果たす存在になっているし、オープンソースの検索エンジンやCMS(コンテンツマネジメントシステム)を活用したデジタルアーカイブも珍しくない。オンラインのダイナミックなコラボレーションによってテクノロジーは進化のスピードを速め、それにともってウェブの情報エコシステムも刻々と変化し続けている。
 文化を伝えていくインフラとしてデジタルアーカイブをとらえれば、デジタルアーカイブが必要とする基本的な機能群をオープンソースのコンセプトのもとで開発し(e.g. DSpace)、多種多様な文化資産をもつ個人なり団体が、その開発成果を手軽に利用してアーカイブ構築とグローバルなメッセージの発信ができるような環境を形成することも必要なのではないだろうか。これまでデジタルアーカイブというと、公の博物館や美術館に収蔵されている貴重な資料を高いクオリティで蓄積することに重点が置かれていたが、全世界に散在する文化財へとその対象を広げ、その気になれば誰でもが利用でき、安定的かつ長期的にアーカイブ運用の基盤となるようなシステムとノウハウのオープン化が必要である。

検索とインタフェース
digg
2──digg
 デジタルアーカイブと利用者とのベーシックな接点は検索である。近年の計算機処理能力の発達とともに、高性能な形態素解析エンジンや検索エンジンが利用できるようになったことで、検索したい適切な文字列さえ事前に決めることができれば、デジタルアーカイブ内のすべてのテキストデータを全文検索して瞬時に候補を絞り込むことは比較的容易になった。これからは、検索のきっかけづくりや検索ユーザの連想を促す仕組み、デジタルアーカイブに納められたアセットを活用してメッセージを発信していくためのデータの整理を促すような、検索システムの開発やインタフェースのデザインが求められるであろう。
 すでにウェブの世界では、ユーザの行動履歴やコンテンツへのアクセスの状況をもとにコンテンツ同士の関連性を計算したり(e.g. FFFFOUND!digg)、ボトムアップ的なカテゴライズやタギングによるフォークソノミーを利用してコンテンツにメタデータを付与したりする試みは一般的になりつつあり、映像や写真コンテンツの流通プラットフォームやソーシャルブックマークサービスなど、一部のサービスにおいては非常にうまく機能しているものもある。アーカイブ構築と運用のプロセスについても、コラボレーションの力で情報を整理したり、マンパワーと自動化の上手なバランスによって効率をあげたりするなど、優れた先例の適用を試行錯誤しながら、納められたアセットを活用して情報編集と発信のプラットフォームとして活用できるようなアーカイブシステムの進化が望まれている。

パーソナル化される情報環境
Open ID
3──Open ID
 ウェブ環境のパーソナル化がゆっくりだが着々と進んでいる。身近な例を挙げれば、過去の自分の購買履歴や自分と似ているユーザの購買履歴を根拠にして「おすすめ商品」を推薦するアマゾンのレコメンデーションシステム、過去の検索履歴、アクセス場所、検索時点の集団の検索状況といったデータを使って個別最適化された検索結果を返すGoogleの検索サービス、登録された個人情報や人のつながりの情報を加味したSNSの広告バナー表示など、程度の大小はあるもののウェブのサービスのさまざまな場面でパーソナル化が進んでいる。さらに近年、コストのかかるパスワード管理や個人情報管理を一元化し、無数に存在するオンラインのサービス利用が促進とされることを目指したOpen IDのような共通認証の仕組みや、これまで個々のSNSサービス内に閉じていた個人情報や人間関係、活動の履歴等の情報を外部から利用できるようにするOpen SocialのようなAPIなど、ユーザが自身の個人情報を安全な方法でサービス側に提供でき、よりパーソナライズされた質の高いサービスを得られるような仕組みが整えられつつある。
 パーソナル化されたオンライン環境の未来が徐々に見えてきた今、デジタルアーカイブにおいても、利用者の属性、アクセスの履歴や過程によって個別に提供されるような、文化体験を伝える仕組みが試されて然りではないだろうか。データの蓄積としてのアーカイブの次の段階では、パーソナル化された情報を伝える仕組みとしてのアーカイブが大きな力を持つようになるであろう。
 また、蓄積して伝えるというデジタルアーカイブ本来の役割に立ち返ってみれば、アーカイブを運用/利用する者が、データベースを活用しながら学び、コンテクストにアセットを配置してキュレーションを行なったり、アセットを編集して新たなフォーマットで情報発信したりするプロセスを支援する、編集のプラットフォームとして機能するアーカイブシステムの試みが、今一番必要なのではないだろうか。

須之内元洋
1977年生。メディアデザイン。プログラマ。写真家。札幌市立大学助手。
international & interdisciplinary design practice - assistant Co.,Ltd.所属
2008年3月
[ すのうち もとひろ ]
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