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プライバシーステートメント
ミュージアムIT情報
編集プロセスを描くデザイン
──超・情報過剰時代における編集の価値
須之内元洋
 今回は、超・情報過剰時代にウェブの情報を編集することの価値について整理をしながら、オンラインで情報編集プロセスを構築しようとするプロジェクトをご紹介したい。

超・情報過剰時代
 昨年9月のミュージアムIT情報の記事★1のなかで、膨張し続けるデジタル情報量について触れた。われわれが実際に経験可能な限界量をはるかに超えた情報が、さまざまなメディアを通じて日々フローしていく感覚は、読者の皆さまも少なからず実感としてお持ちなのではないだろうか。
 アメリカの市場調査会社IDCによる報告書によると、2007年の1年間に世界で生成・複製されたデジタル情報量は計281エクサバイト(単純計算で500GBのHDD5億6千万個強)、2011年にはその6倍強の1.8ゼッタバイトに達すると見込まれている
★2。新たに生成・複製されるデジタル情報量は、ほぼ毎年1.5倍のペースで増え続けており、これは、ムーアの法則とほぼ一致するペースである。
 もうひとつ、超・情報過剰時代の実態を眺める資料として、今年の3月に総務省が公開した「平成18年度情報流通センサス報告書」
★3を参照しておきたい。日本におけるさまざまなメディアの情報流通量を定量的に捉えたものであるが、注目したいのは「原発信情報量」「選択可能情報量」と「消費情報量」という3つの指標である。「原発信情報量」とは「各メディアを通じて流通した情報量のうち、当該メディアとしての複製や繰り返しを除いたオリジナルな部分の情報の総量」、「選択可能情報量」とは「各メディアの情報受信点において1年間に情報消費者が選択可能な形で提供された情報の総量」、「消費情報量」とは「各メディアを通じて、1年間に情報の消費者が実際に受け取り消費した情報の総量」である。
 報告書にある図1のグラフからは、興味深い実態が見えてくる。まず、情報の受け手の環境に提供される「選択可能情報量」と、実際に消費された「消費情報量」との差分は年々拡大の一途にあり、われわれが認知可能限界を超えた膨大な情報フローに囲まれながら、そのほとんどを無視しているという実態である。もう一点着目したいのは、オリジナルな情報といえる「原発信情報量」と、情報の受け手に提供される「選択可能情報量」との差分が年々拡大の一途にあることである。情報の編集や複製を基本原理とするインターネットやウェブの性質を反映し、オリジナルの情報が、複製や引用、改変といった操作を加えられてから情報の受け手に届く割合が増加していることを表わしている。
平成18年度情報流通センサス報告書
情報流通量等の推移。平成13年を境に「選択可能情報量」が急増している
出典=平成18年度情報流通センサス報告書
情報に価値を与える編集プロセス
 超・情報過剰時代のウェブにおいては、編集こそが価値を生む。そもそも、大局的に見て非同期的かつ拡散的なメディアであるウェブでは★4、日々膨大な情報が生成・複製され続ける過程で、エントロピーの法則にしたがって時間とともに拡散してゆく分子のように、ノイズに満ちた無秩序な情報が溢れかえっている。こうした事態は、たわいのない内容で当人の周囲以外のほとんどの人々にとって意味のない個人の日記やつぶやき、あるいは、なにかのネタに対する個人の思い思いの賛同や反発が綴られた掲示板をみれば想像に難くない。また、たとえ有用な情報を多く抱えるウェブサイトであっても、情報の見せ方を誤れば、周囲の情報と一緒に有用な情報をも埋没させてしまうことになる。
 ノイズに満ちた無秩序なコミュニケーション、あるいは同期的でその場限りのコミュニケーションなど、それはそれでインターネットの可能性であって、否定をする立場ではない。しかし、基本的には非同期的に情報への編集が加えられながら、拡散的にドキュメントがアーカイブされてゆくウェブにおいて、積極的に建設的情報を紡いだり、ユーザーが有用と考える情報への経路を整備したりするためには、例えば、インデックスの作成、見出しの作成、選択抽出、関連づけ、ソート、ランキング、比較など、情報に対する多様な編集的操作が要求される。ウェブに存在するあらゆるコンテント(HTML、画像、映像、音、その他)は、ユーザーの意識的な選択操作やクリックをトリガーとして、当該コンテントのデータが手元に複製されて視覚化され、そこで初めて知覚される。すべてのアクセス可能なコンテントは、基本的に複数のハイパーリンクや、コンテントに仕込まれた読込み記述によって関係が構築されているが、その関係なくしてわれわれはまともに情報へアクセスをすることはできない。消費情報量を遥かに超える勢いで選択可能情報量が増加の一途をたどる状況では、ユーザーにとって有意義で多様な見方を提供するような編集の価値が相対的に高まることになる。

 具体例を2つ挙げてみよう。たとえばグーグルは、検索、メール、オフィスドキュメントの作成管理、ブログ、動画共有、ニュースといったサーヴィスをオンラインで提供しているが、彼らはけっして自分たちでオリジナルのコンテンツを生成することはない。どこか他のソースから情報を持ってきて、彼らの論理でそれらの情報を組み換えて提供したり、新たな情報を生成・編集するための仕組みを提供したりするものであって、検索結果が表示される画面や、ユーザーによって情報編集が行なわれるよくできた操作画面など、ユーザーに価値を提供する場面に巧妙に広告を挿入することで、いまのところ莫大な収益をあげている。グーグルの代表的なサーヴィスである検索についていえば、対象としているデータの圧倒的ボリューム、そのデータを扱う技術力やサーヴィス展開についてはまったく見事というほかないが、実際に彼らがやっている事といえば、ハイパーリンクを辿りながら世界中のウェブコンテントを収集し、リンク構造の解析による重み付けによってページのランキングを作成し、ユーザーの検索ワードに応じたウェブの目次をただただ提供するというものである。ウェブのアーキテクチャと相性がよく、ソフトウェアによってほぼ自動的に処理可能なグーグルの編集の仕組みは、あっという間に大きな力を持つようになってしまった。
 もうひとつ、2007年初頭にリリースされたサーヴィス「Tumblr
★5は、ウェブで流通するあらゆる形式のコンテントを対象として、コンテンツへの参照に短いコメントを付して、ひたすらクリッピングを行ない、興味関心によって緩く繋がったユーザー間で共有するサーヴィスである。よくできたブックマークレットをハンティングの道具のように利用して、ブラウジングの流れを邪魔することなく、アンテナに引っかかったウェブページ、動画、写真、チャットのログ、音、ブログのテキストなどを次々に取込めるようになっている。その結果、ユーザーの興味や思考の流れが、ウェブ上の多様なコンテンツの引用の羅列として、軌跡のようにして刻まれていく。Tumblrで行なわれるプロセスを要約すれば、ウェブにすでに存在する情報を選択して、簡単な意味付けを行ない、その参照を共有するという仕組みであり、ウェブの共同編集装置とでも言えるだろう。
 ここで挙げた2つの例は、その規模や目的、やり方はまったく異なるものの、その時々でウェブの情報を編集する仕組みによって、ユーザーに価値を提供し続けようとするものである。世界中のドメインに分散してフローする膨大な情報をすくいとり、なにかの基準で集めたり、並べたり、組替えたりすることで、常に新しい見方を提示している。
Tumblr
「Tumblr」トップページ
新たな編集プロセスをデザインする試み
 筆者が関わっているプロジェクトのなかから、以上で述べたような事柄を意識しながら進めている試みを2つご紹介したい。その時々で絶え間なく編集が行なわれ、そのことによって情報の受け手に価値を提供し続けるようなオンライン上の試みである。ただし、現時点ではまだ公開されていないということもあって、今回はプロジェクトの概要を紹介するにとどめ、次回に詳細を書かせていただく。
 ひとつ目は論考雑誌のアーカイブメディアである。執筆者と編集者によって練られた文章を、どのようにして継続的に興味深くユーザーに提供できるか、そして、将来の執筆者が文章を載せてみたいと思うような信頼性のあるメディアに仕立てるにはどうしたらよいか、などということを考えながらシステムを構築している。例えば、分量的に限られたコンテンツに対して、編集者が本文中に細かくアノテーションを加え、キーワードなどを手がかりにして毎回異なった見方をユーザーに提供する工夫や、外部のサーヴィスやデータベースと連携しながら信頼性のある情報を編集する仕組みを盛り込む予定である。
 二つ目は、地域対応型の共同編集プラットフォームの構築である。ソーシャルブックマークやTumblrのような、ウェブに存在する一定単位の情報を収集して、その参照情報のランキングやインデクスを編集する仕組みは、流動的で一過性のある地域情報を集約、編集するのに適した仕組みではないかという仮定にもとづき、地域のイヴェント情報を集約して発信するためのプラットフォームを開発中である。地域のユーザー達の手によって、リアルタイムに地域の目次をつくっていくようなシステムである。

 次回の連載記事を書くころには、どちらも公開されて稼働を始めているはずなので、改めて詳細をご紹介させていただきたい。

★1──artscape 2007年9月号:ミュージアムIT情報
URL=http://www.dnp.co.jp/artscape/artreport/it/s_0709.html
★2──IDC, 2008: The Diverse and Exploding Digital Universe
URL=http://www.emc.com/digital_universe
★3──総務省情報通信政策局情報通信経済室「平成18年度情報流通センサス報告書」(平成20年3月)
URL=http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/linkdata/ic_sensasu_h18.pdf
★4──濱野智史「第20回【同期性考察編(1)】インターネットというのは、「非同期的」で「繋がりの社会性」を増幅するがゆえに、拡散するメディアである。」
URL=http://wiredvision.jp/blog/hamano/200711/200711151100.html
★5──Tumblr
URL=http://www.tumblr.com/
須之内元洋
1977年生。メディアデザイン。プログラマ。写真家。札幌市立大学助手。
international & interdisciplinary design practice - assistant Co.,Ltd.所属
2008年12月
[ すのうち もとひろ ]
前号
ページTOPartscapeTOP 
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