「GeoWalker/ FootStep Rhythming」
一方、筆者と池田秀紀が共同で開発しているGeoWalkerでは、少しまた別の角度から現代的なサウンドスケープについてのアプローチを試みている。我々は、都市のなかで、「聴こえていそうで聴こえていないもの」に関心を持った。つまりは、通常のマイクとレコーダーでは、そのものを「オーディオクリップ」として記録できないもの。その代表例は、「人々の足音」である。
「都会の雑踏」という言葉がある。雑踏とは、正確には「一定の限られた場所に不特定多数の人や車が集中し、混雑する状態」を言うらしいが、この語は多分に音楽的なニュアンスを含んでいるとも言える。都市の人々(群集)の2足歩行を「目」で見ていると、だんだんそれらが「リズム」に見えてくる瞬間がないだろうか。身体や都市は生体的・機械的・心理的・交通的・言語的、その他のリズム(たとえばiPODを耳にしている人をよくよく見ていると、おそらく聴いているであろう音楽の種類を類察可能な場合がある)が常に発生・伝播し、輻輳してゆく場である。アンリ・ルフェーヴルの提起した“リズマナリーズ”によると、リズムは、「ユーリズム(調和的なリズム)」「ポリリズム(複合的・多層的なリズム)」「ア・リズム(非リズム)」と3つの概念から捉えることができると言われている。都市と音楽を「リズム」という観点から考えるにあたっては魅力的なキーワードである。しかしなんとも、そのような「足音」やそのリズムは、視覚情報から再構成して感じているもの、体感しているものであっても、「実際に」聴こえているわけではない。マイクでは拾えないのである。そこで我々は、1歩ずつにタイムスタンプをつけることができるデジタル万歩計を付帯して都市を歩き、そこから歩行の「リズム」のデータを計算・抽出し、それをWEB上でミックスして楽しむことが出来るようなシステムを開発している。万人がデジタル万歩計を付帯してデータを投稿してくれるとはいかないまでも、ともかく数人の協力者に実験を依頼し、このような都市の歩行データを集めている最中である(図1)。
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図1
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これまで体感として捉えていたリズムを、改めて数値化して取得し、精緻に聴きなおしてみると、そこから驚くような「活動の豊かさ」が沸きあがってくる。普段の生活のなかに埋め込まれていたスピード・ピッチ・テンポ・グルーヴといった音楽的な要素と、このインターフェイスを通じてよりよく対峙できるようにならないだろうか。このシステムは現在急ピッチで開発を進めているところであり、近々WEB上に一般公開する予定である。
次号、これらの具体例を再びまとめなおし、実世界とWEBが連動した「サウンドスケープ」と「デジタルアーカイヴ」の接点を再び議論していく予定である。「デジタルアーカイヴ」は、音の持つダイナミズムをうまく取り入れることによって、これまでとは別の可能性が開けるのではないか?
協力:池田秀紀(慶應義塾大学田中浩也研究室)
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