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Acquisition Method──採取の技法 #5
田中浩也
印象のアーカイヴ
WEB上の参加型アーカイヴシステムは、それが情報の投稿・蓄積・編集・閲覧の場であると同時に、「どのような方法で実世界から情報を集めてくるのか」という採取への動機付け、そして「どのように世界を感じれば、新しい採取対象が見えてくる(世界から浮かび上がってくる)のか」、というオーガナイザーからの「眼差しの提示」の場でもある。
その意味で、私がかねてから注目していたプロジェクトに「PICS─語りかける素材」というアーカイヴ活動がある。

このプロジェクトは基本的に世界中の建築作品についてのデータベースではあるが、特に「素材」に着目し、その場で感じた印象、雰囲気、記憶をデータベースとして「深化」させていくことを目的としたものである。
設定された9つのカテゴリー「合奏、霞、ゆらぎ、触知、変幻、艶容、消失、鋭利、密実」が興味深い。


「“PICS”は“PICTURE”であり“PICK UP”でもある」とサイト上で述べられているように、ここにあらかじめ設定されたカテゴリは、実世界からの“PICK UP”に際しての「独特なまなざし」を提起している。

主宰者の一人である佐々木一晋氏は、日本では数多くの擬態的言語が無自覚的に日常生活に組み込まれていることに着目し、できる限りその場で感じた印象、雰囲気、記憶をデータベースとして深化させていくことを促すよう、これらのキーワードを注意深く選択したと述べている。この9つで必要十分であるかどうかはさておき、現在の「自由な」タグづけ、アノテーションに基づく参加型アーカイヴィングとは少し異なる方向性を示しているといえるのではないだろうか。ボトムアップな「分類」「検索」が主目的なのではなく、あくまで世界に対する認識を「深化」させながら、経験に依存する「想起しえるイメージ」を共同で創出・共有することを指向しているからだ。


「半定量」へのまなざし
佐々木氏はこのプロジェクトの後も、独特のまなざしで世界を観察する活動ことを継続しているそうだ。

今回、氏の活動の動向を伺うべく、急遽インタヴューをさせていただいた。

「picsプロジェクト以降、アーカイヴィングの対象として、感覚的・意味論的に捉えられる分類のフレーム自体に関心をもっていました。感覚的に取得した情報は、どのようにしてフレームが生成されていくのか、そして、どのようにアーカイヴィングが行なわれていくのか、ということに興味があります。
そこで、ひとつ考えられる手法が“半定量”といえるかもしれません」

氏が現在注目しているのが「半定量」という概念であるという。
以降、氏の説明を聞いてみよう。

「半定量(定量と定性との中間領域)的なアプローチとは、主に物質科学の分野で扱われていて、定性実験と概念形成においては重要な意味をもつと考えられています。例えば、3つのプールがあった時に、それらの分類の説明の仕方に着目すると、定量的なアプローチは、数値的な意味合いであってプールの水量や水質の成分量で表わすことができます。また、定性的なアプローチとは内容的意味合いであり、プラスかマイナスで表わせるプールの性質(色やニオイ、成分の有無など)ということになります。このように、現世界の分類手法に着目すると、一見、科学的な説明が多いように思うのですが、ほとんどが定性的な説明で終わっているといえます。これは、定量的に解析することは一般の方には技術的に困難であることとや、その定量の差異は僅かな差しか生じていないケースが多いことが挙げられます」

「そこで両説明を補完的に取り扱う手法が半定量と考えられています。もし3つのプールの水量が同じ程度で、水の透明度やニオイの区別がない場合、それらの差異を説明する定性的なアプローチは難しくなります。
しかし、その際に、ある『代替的な情報』を用いると半定量的な見方が可能な場合があります。ここでは『代替的な情報』として、ある『触媒』を選択します。そして、その触媒の同量分を『3つのプール』へ加え質料変化を生じさせます。ここで、3つのプールは化学作用によって、あらたな物質(3つのプール)へと変容します。入浴剤を投入する浴槽の湯(欧州と日本)の性質によって、湯の変容の仕方が多少異なるように、この変容した『3つのプール』を定性的に論じることが可能となります。もちろん厳密にいうと、この測定下の条件を一定にすることや、代替する情報量を制御する必要がありますが、さまざまな場所への相対的なアプローチが可能となります」

氏はこの物質科学における「半定量」の概念を手がかりに、環境科学へと視野を広げていく。

「情報の編集・閲覧の場において、感覚的な情報から取得する定性的な理解を定量的な理解へと翻訳するような作業といえるかもしれません。ここで扱われる定性的な情報とは、ある事象全体への理解度を高め、情報の価値を高めるために作用し、一方、定量的な情報は、事実の裏付けとなって分析的効果を高める働きがあるといえます。
このように、定性よりは情報が多いけれども正確な定量ではなく、定性と定量、つまりは、感性と実験の中間、という意味合いで半定量と捉えられることができます」


半採取のための触媒とは何か
「触媒」を複数の環境に投げ込んで、相対的に観察すること。
確かに、それによって世界を新しい目で再発見することができるかもしれない。
新しい尺度や事物の分類方法をも誘起する可能性もあるだろう。
では、ここで「触媒」として現在利用可能・実践可能なものは何だろうか?
この連載でテーマとしている、「新しい採取デヴァイスの発案」との接点はどこにあるだろうか?

次回、このインタヴューの後半をお届けしたい。後半ではより具体的なプロジェクトを中心に紹介していただくつもりである。



田中浩也(慶應義塾大学環境情報学部 専任講師)
佐々木一晋(東京大学工学系研究科博士課程/慶應義塾大学非常勤講師)

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