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学芸員レポート
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MobLabというバスアート/日 独メディアキャンプ2005
山口/山口情報芸術センター 阿部一直 
 「日本におけるドイツ2005/2006」の一環として、去る10月中旬から11月初旬まで「MobLab:日独メディアキャンプ2005」が行なわれたので、それを報告しておこうと思う。すでに全行程を終えたが、専用サイトは継続中なので、その成果やブログをみることができるし、それがまたプロジェクトの大きなパートを占めているともいえるかもしれない。
 ソンタークに代表される「キャンプ」という可動性や仮設概念を有効に利用しようというのは、60年代や70年代に一時ピークを迎えたが、現在のマルティチュードといった脱中心形の主体性が登場し、テクノクラートから移動の概念を奪い取ったともいえようし、またオフィスに居ながらにして容易に情報世宇宙の形成が可能となる時代においては、そのようなアノニマスなコミュニティは、一部でトライブとかの名称でも言い換えられもするが、ネット社会ならではの共有存在が強く押しだされている。がこのMobLabは、あえてそうした情報優先の主導権にそれとなく反逆した、現実の身体を移動バスの中に拘束し、共同体プロジェクトを提案してみよう、ということだったのではないかと思う。具体的には、モビウムと名付けられた市内巡回用大型バスをアーティストが購入し、そこを拠点に日本数カ所を巡回するというものだ。しかもこのバスは二重の意味を持っていて、日独の選抜されたアーティストの移動居住活動空間であると同時に、作品提示の場、また時にはバス自体が楽器とも化すというものだ。
 アーティストは、MobNautという呼び名で5組が参加。ベルリンのメディアフェスティバル、トランスメディアーレが推薦してきたのが、エレクトロニカ音響のAGF=アンティエ・グレイエ(彼女はヴラディスラフ・ディレイとのコラボでも有名)、映像のスヴェン・ガレイズ、アート・プロデューシングのシュテファン・リーケルス。日本からは、サインウェーブオーケストラから石田大祐+古舘健、メディアアートユニットのエキソニモ(赤岩やえ+千房けん輔)の2組。またバスのオーナーでアーティスト兼ドライバーとしてIAMASから河村陽介が乗り込んだ。
 今回は、大垣のIAMAS(情報科学芸術大学院大学+岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)を皮切りに、東京のNTTインターコミュニケーション・センター、横浜トリエンナーレ、せんだいメディアテーク、大阪のIMI、山口情報芸術センターを経由し、各地でオリジナルなワークショップやイベントを行なっている。
 実は、開催前にIAMASで、バスをかなりの情報移動基地化しようという取り組みが同校の特別チームの協力の元に行なわれ、ネットワークやGPS追跡システム、その他もろもろの機能を搭載したガジェットとして、いざスタートとなったわけだが、興味深いのは、実際に3週間乗り合いバス体験したアーティストたちにいわせると、むしろ情報遮断空間を作り出すほうが面白いという。あるいはそのコントラストを、移動と停留の間で極端につけるといった対処のほうが、相互の想像力やディスカッションが生まれやすいというのである。これはまさにやってみなければ分からない実践与件であり、情報クリティックというものだろう。またたとえば石田+古舘によるバスのノイズ共振楽器化など、たぶんそれだけで動いてもかなり面白いドキュメントになるであろうアイディアは、今後に是非発展させてもらいたいし、通常の運行バスでやったらどうなるだろうか(まず無理だろうが)、など想像は尽きない。エキソニモは、さすがにこのようなプロジェクトをうまく本歌取りするのに長けたチームらしく、バスの前後・左右・上にオートカメラを設置し、全ての行程をマッピング映像として定時的にドキュメント化する挙行に出て、しかもネットからプリントアウトし、立体バス折り紙にできるというかなりキュートなフェティッシュアウトもおまけでついてくる。実際この中からさらに発展展開するプロジェクトが出てくれば楽しみというところである。各サイトでの活動録やコメント、フォトなどは、ブログを見て下さい。

会期と会場
●MobLab:日独メディアキャンプ2005
会期:2005年10月15日〜11月6日
会場:IAMAS、NTTインターコミュニケーションセンター、せんだいメディアテーク、山口情報芸術センター
主催:MobLab実行委員会、ドイツ文化センター
後援:ドイツ連邦共和国大使館
助成:国際交流基金
特別協力:IAMAS(情報科学芸術大学院大学+岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)(大垣)/NTTインターコミュニケーション・センター[ICC](東京)/せんだいメディアテーク(仙台)/山口情報芸術センター[YCAM](山口)/トランスメディアーレ(ベルリン)

学芸員レポート
 
山口情報芸術センターでの今年のメイン企画が、12月から開催するカールステン・ニコライの新作インスタレーション「syn chron」である。これは、今年2月に、ミース・ファン・デル・ローエ設計で有名なベルリンの新国立ギャラリーでプレミエされ大きな話題を呼んだもので、その模様は以前に当コーナーでレポートしたが、それが、10月のベルンビエンナーレを経由して、YCAM展で日本/アジア初登場となる。もともと、作品が構想され始めた2年前当初から、ニコライとともに、ベルリンと山口での公開を想定して進められてきたコラボレーティブプロジェクトであり、今回、サウンド/映像コンテンツがYCAM用に一新されるというものである。
 ニコライは、特に日本で、過激なポリシーをもつ作品をいち早く発表してきたことでも記憶されるだろう。たとえば2002年の東京・ワタリウム美術館での「平行線は無限のかなたで交わる」展では、物理実験としかみえない現象の結晶やカオスを、まったく手つかずにそのまま提示していたり、前回の妻有トリエンアーレでは日照計と記録をそのままインスタレーションにしているなど、新即物派ともネオモダニズムともつかない独特のスタンスをとり、その先に読み込まれるシンボリズムやメタファーは一切拒否するのである。またサウンドアーティストとしては、坂本龍一とのピアノと電子音響のライブインタラクションによるイベントを企画し、この10月にはヨーロッパツアーで大きな反響を呼び起こしたりといった側面ももつ。

 この「syn chron」は、ネーミングからわかるとおり、シンクロさせる何か、がテーマである。巨大な躯体が透過するハニカム素材で多面体として構成されており、外部から投射される6台の白色レーザープロジェクションと、サイン波・パルス音で構成される音響が粒子的な動きで完全にリンクする。
 このサウンドは、視覚造形的な組織(結晶構造)から割り出されたシステムを独特な形で用いていて、ここでは一つの正方形の内部を、それぞれが全て異なった大きさの正方形で分割すると、その最小数として21のパートの正方形の組み合わせで完全形を作り出すことができるが、辺長が異なるこれらの21の正方形を、中心から螺旋状に順次展開して横1線に並べ直し、それを時間軸に読み直して、音のダイアグラムとしているのである。ニコライはこれを視覚的、聴覚的コンポジションと言っており、部分と全体の関係を、緻密にフォーカスチェンジしながら流通させ、ある時点で数的な結晶体へと導入する方法をとる。非物質なシステムにシフトしながら、今回眼前に顕現する巨大な物理的躯体をどうとらえたらいいのか。数的リサーチを主とするnotoと、ファンクなグルーヴを創造するalava notoというダブルネームを持つ、まさにニコライらしいアンビギュアスなプロジェクトといえるだろう。

会期と会場
●「carsten nicolai┃syn chron
会期:2005年2005年12月17日(土)〜2006年2月19日(日)
※火曜および12月27日〜1月3日休館
会場:山口情報芸術センター スタジオA  山口市中園町7-7 TEL. 083-901-2222
入場:無料
●オープニングLIVEイベント
raster-noton.ycam+koss
会期:12月18日(日)19:00-22:00
会場:山口情報芸術センター スタジオB(限定100名/オールスタンディング)
入場料:1500円
出演:
[raster-noton]
alva noto (aka carsten nicolai)
byetone (aka olaf bender)
signal (carsten nicolai+olaf bender)
kangding ray
[guest]
koss (aka kuniyuki takahashi))

[あべ かずなお]
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