このところ、PstoneKやCOUMAの卓球プロジェクト、コズミックワンダーとのコラボなど、チームプレイでの活動において、新展開を思わせていた木村友紀だが、今度は本格的なソロの個展があり(タカ・イシイギャラリー)、東京では3年ぶりとなる。ギャラリースペース壁面を十分使いながら、全体が緊密に構成されているインスタレーション空間だ。もともと写真をベースにした作品が多い木村だが、いくつかの単体作品の集積が、相互に組み合わさる可能性を持った上で、しかもその組み合わせは幾通りも可能、といったゲーム性も作品化の意図に持ち込まれている方法は、以前からみられたものだより緻密な仕組みになってきている。今回は壁面4面に、多数の、スケールもフレーミングも異なった写真をオブジェクト化したインスタレーションで、「YOU MAY ATTEND A PARTY WHERE STRANGE CUSTOMS PREVAIL」というタイトリングがされている。
これはロスで出くわしたフォーチュンクッキーの中に入れられていたフレーズということで、このニュアンスからそれとなく予想が引き寄せられるかもしれないのだが、今回使われている写真は、アメリカの蚤の市とかで埋もれている誰のものとも、何の目的に撮られたともつかない「ファウンドフォト」がベースとして多く使用されている。(精確にいえば、そのプリントをスキャンして。作家がテイストを加工したものが実際のオブジェクトとして使われ、また作家自身が直接撮影した風景もある。)どこか彩度もピントも寝ぼけたようなこれらのフォウンドフォトの組み合わせだが、インスタレーション全体は、相互に謎を掛けるようなテンションを投げ合っている。
壁面には、木枠でフレームされた写真と、例えばそれが何かの建物のファサード写真だとすると、その入り口の中身は、今度は切り取られた平面として、その同形同寸の木目の表層を持つ別のオブジェクトとして、本体の斜め下に置かれていたりする。またある写真では、アクリルのホールやゲート状のオブジェクトが、写真から切り出されていたりもする。興味深いのは、その中の何点かが、フレーム化が施されているが、その中の白木の木枠でフレーミングがされたものは、それが彫りの深い場違いな立体的なオブジェクトでありながら、どこかかなり薄っぺらな印象を強く与えることだ。それがどうしてなのか注視してみるなら、フレームの各表面に対して別の木目素材を事細かに切り出し、正確にマッピングして作り込んであるという。(この手作りは余りに手がかかるので1点だけで、あとは発注ものということだったが)ある意味かつてのシミュレーショニズムの時代に、精魂費やしたような感覚の奇妙な既視的な違和感がここにはあり、にもかかわらず、おしなべて写真性がどこか横すべりな扱いだった、かの時代に対して、木村による写真と作品との距離は、複雑(単なる利用引用遠視性と憑依的至近性の混濁)なるプロセスを漂わせている。また写真化された情景そのものの意味は、摩耗しており(撮影者の存在していた時間空間が漂白化している)、その代わりに写真がフレームにコントロールされている、補正され距離修正されているのは、われわれ覘いている側と記録された風景が整合通じ合う、と考えている現実の方である。つまり撮影者の善意も悪意もどこにもないのだ。
展示されたギャラリーが、東京都現代美術館に近いということもあり、同じ日に、大竹伸朗「全景」展も見たのだが、大竹の、ペインティングスペースの余白に美術館の壁があるんではなかろうかというあの莫大な量の作品が、予想に反してほとんどフレーム化されており、それが整妙に大竹のペインティング群の生真面目さと類縁性、連続性を図らずも示していて、それらがパンクなハッキングとは別種の増幅、いってみれば表現主義でなくポップアートの正統種を思わせること、に対比して言うなら、木村のインスタレーションスペースをまったく異質に伸縮させ流動化しているのは、フレーミングワークへと写真の関係への執拗なセンスと飛躍なのである。
しかもこれは、複雑系やエシュロン、スターウォーズエピソードシリーズを見知った後の時代としての、いまの感触だ。写真を使用したアーティストで、こうしたマジックに出会うことはまずなかったのではないか。しかも木村の場合、漆黒の(まさに漆塗りのような)水面にポツンと浮かぶ鯉の泳ぐ写真なども、この展示には混じっており、どこかわけがわからないところがある。と思いつつ再度それを目にすると、時間が経過すると、この芸のない黒面すら、光学的メカニックのアパーチャー=変動領域と見えてくる。写真にも染色体変化は起こるのか、摩耗し復帰不能である。ともかくも、木村は目を離せない存在といえるだろう。
会期
と会場 ●木村友紀「YOU MAY ATTEND A PARTY WHERE STRANGE CUSTOMS PREVAIL」展
会期:2006年11月11日(土)〜12月9日(土)
会場:タカ・イシイギャラリー
東京都江東区清澄1-3-2-5F
TEL:03-5646-6050
FAX:03-3642-3067
●学芸員レポート
山口情報芸術センターでは、今年生誕100周年を迎える山口市出身の詩人・中原中也の言葉から発想する新作映像グループ展「IMAGINARY CHUYA/映像としての中也のことば」を、第21回国民文化祭にあわせて開催中。参加アーティストは、大木裕之「中也アクション1−秋」、off nibroll[矢内原美邦、高橋啓祐)「byby」、木村友紀「12の如き沈黙の」、高嶺格「月夜の浜辺」、布山タルト「宙夜」、堀家敬嗣「so long, so long!」、前田真二郎「中也を想い、サンボする」の7名。展示終了後には、DVDでソフト化する予定。