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学芸員レポート
東京/住友文彦|山口/阿部一直福岡/山口洋三
「レオン・ゴラブ」展
木村友紀個展「YOU MAY ATTEND A PARTY WHERE STRANGE CUSTOMS PREVAIL」
東京/東京都現代美術館 住友文彦
「レオン・ゴラブ」展
「レオン・ゴラブ」展(展示風景/ワコウ・ワークス・オブ・アート)
木村友紀個展
木村友紀個展(展示風景/タカ・イシイギャラリー)
邱黯雄《新山海経》
邱黯雄(チウ・アンション)、《新山海経》上海ビエンナーレ展示風景
筆者自身もわずかばかり関わっているので、ことさら賞賛するわけにもいかないのだが、ワコウ・ワークス・オブ・アートでおこなわれていた「レオン・ゴラブ」展は、同時代の社会に対するメッセージ性や作家の仕事を広範にとらえるものであった点で、本来なら美術館が担うべき仕事に近いものがあった。もちろん、本当に美術館規模のスペースを持つチェルシーの画廊などとは違って、展示空間の制限は拭い去りがたく感じられはしたが、戦争や暴力を描き続けてきたこの作家の作品に少しでも多くの人が触れられる貴重な機会になったに違いない。 ベトナム戦争、ユーゴスラビアの内戦などを描いてきたゴラブへの注目は、9・11以降再燃したといえる。この時代にあって、絵画というメディアを使って戦争や暴力を描きえるということは、ほとんど稀有な出来事のように思えてしまう。作品を見たときにおぼえるこの時代錯誤的な感覚、場にそぐわないような奇妙な感じがゴラブの作品にはついてまわる。兵隊や虐げられた人々の身振りのぎこちなさから画面を覆う絵の具の塗り残しまで、画面はいくつもの不透明な厚みを重ね持っているようにみえる。 ゴラブは、新聞や雑誌などに掲載された写真の切抜きを集めて分類した資料庫を持っていて、人体を描くときにはそこから選んで参照している。それも、例えば暴力をふるう側の腕から胴の形を参考にする写真をみつけると、それによって地面に押さえつけられている被害者の人体は別の写真を参考にするという風に、断片的なイメージを組み合わせるようにして利用している。つまり、あるドキュメントしての写真が絵画に置き換えられているのではなく、ゴラブによって暴力や差別を描くために再構成されたイメージ群といえるようなものである。したがって、それが統一感をもった画面を形作らないのもうなずけるわけだが、鑑賞者はマスメディアが好むようなある典型的な光景そのものをみせられるわけではなく、暴力や排除をおこなう人間たちの痕跡や兆候のようなものが画面に表出しているのを目撃することになる。 各種メディアを通して伝えられる膨大な数の映像や写真は、私たちそれぞれのなかに流れ込んで堆積していき、意識するにしても無意識にしても、何か志向性をもったシークエンスを作っていくような運動を繰り返しているような気がする。それをどう捕まえて表現するか。ゴラブのような特徴ある主題を持つわけではないが、木村友紀が最近発表しているファウンド・フォトやオブジェを並べていく作品をみていても、こういった私たちのなかを通過していく断片的なイメージ同士の結び付けられかたが気になる。タカ・イシイギャラリーでおこなわれた個展でも、特定の形の相似をみつけだしてつくりだされる関連性をもとに、連なっていく写真やモノたちが展示空間に配置されていた。二次元から三次元に、あるいはその逆に連関していく場合もある。お互いの関係性に特別な必然性は感じられなく、それはあくまで緩やかに開かれたものになる。ある並びのなかに意味が見出されることから軽妙に逃れていくようなところが面白い。そうすることで、差し出されているイメージは、まるで名付けえることができない不可解なものとしての地位を保持し続けることができるようにもみえる。 観る者が自由に想像力を働かせることを可能にして、イメージとの間に相互的なやりとりを生じさせるところは、ゴラブの作品においても重要な点である。描き残しのような余白や断片の集積によって、鑑賞者は全体としてのまとまりを欠いた画面を眺める。視覚的な経験のレッスン、あるいは遊戯のようなふたつの展覧会であった。

会期と内容
●「レオン・ゴラブ」展
会期:2006年11月11日(土)〜12月22日(金

会場:ワコウ・ワークス・オブ・アート
東京都新宿区西新宿3-18-2 サンビューハイツ新宿101・103
Tel. 03-3373-2860/Fax. 03-3373-2812
●木村友紀個展「YOU MAY ATTEND A PARTY WHERE STRANGE CUSTOMS PREVAIL」
会期:2006年11月11日(土)〜12月9日(土)
会場:タカイシイ・ギャラリー
東京都江東区清澄1-3-2-5F
Tel. 03-5646-6050/Fax. 03-3642-3067

学芸員レポート
 東京都現代美術館では、1月20日から三つの展覧会が始まる。独特の遠近感を持つ「ルポルタージュ絵画」で知られ、その後は本の装丁や挿絵なども手がけた作家の回顧展、「中村宏 図画事件1953-2007」展。秋山さやか、中山ダイスケ、しばたゆり、千葉奈穂子、加藤泉が参加する毎年恒例の日本人作家のグループ展、「MOTアニュアル2007 等身大の約束」。それから、今年の上海ビエンナーレで水墨画風のアニメーションを発表した注目の若手作家「邱黯雄(チウ・アンション)」展である。最近の中国作家の活躍には目覚しいものがあるが、とくに中国的なモチーフや伝統的な美術をとりいれた作品が多い。彼もそのような作家のひとりだが、一見なじみのありそうな風景に作家が独自に造った生き物が登場し、軽妙な創造性が加えられている点が目新しい感じをあたえる。
ソウルでは12月22日から「オリエンタル・メタファー」展(オルタナティヴスペースLOOP)がはじまった。中国、韓国、日本、台湾の作家が参加し、そうした伝統的な美術に対して現代の作家がどのようなアプローチをしているかをテーマにした展覧会である。日本からは会田誠、法貴信也、南川史門が参加している。同スペースが若手作家に対して賞を与える公募審査と、この展覧会のオープニングとシンポジウムに参加してきたのだが、若い作家が作品を展示できる機会がどんどん増えているようなソウルの状況には眼を見張るし、中国美術へ注がれる欧米からの熱い視線の余波が韓国にも及んでいるような気がする。現在のアカデミーやマーケットをはじめとする美術制度はどこも西洋の影響によって確立されている。あえてこの時期に、アジアの地域で、西洋美術の流入とそれとの影響関係において時間的な差があるもの同士が、こういった問題について繰り返し考えていくことは今後ますます重要になっていくように思えた。

「中村宏 図画事件1953-2007」
会期:2007年1月20日(土)〜4月1日(日)
「MOTアニュアル 等身大の約束」
会期:2007年1月20日(土)〜4月1日(日)
「邱黯雄(チウ・アンション)」展
会期:2007年1月20日(土)〜4月1日(日)
会場:東京都現代美術館
東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)

[すみとも ふみひこ]
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