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プライバシーステートメント
学芸員レポート
東京/住友文彦山口/阿部一直|福岡/山口洋三
BEPPU PROJECT
福岡/福岡市美術館 山口洋三
11月25日観光港
11月25日観光港
分科会テーマ:「アートで地域は変わったのか?」
分科会開催場所:別府観光港第3ふ頭関西汽船2F
11月25日鉄輪1
11月25日鉄輪2
11月25日鉄輪3
11月25日鉄輪
分科会テーマ:「まちに宿る力」
分科会開催場所:鉄輪地区一帯
11月26日B-Con
11月26日B-Con
第二部「2008年に向けて」
会場:B-Con PLAZA 国際会議室
写真提供:BEPPU PROJECT
 1990年代は、福岡には「ミュージアム・シティ・天神(ミュージアム・シティ・福岡)」があり、大分でも「大分現代美術展」が2度行なわれた。いずれも都市を舞台とした野外展で、これに刺激されて本来美術展には向かない場所での果敢な挑戦が作家グループの間でも行なわれてきた。
 では現状はというと、景気後退のあおりもあってか、かつての勢いは衰えた。また野外や都市を舞台とした美術展がもはや珍しくなくなった、というか大規模現代美術展の「お約束」「暗黙の了解事項」「あって当然」のような時代になってしまった。(いいんだか、悪いんだか)
 しかし昨年から、かつてのあの勢いを思い出させるような動きが、大分県別府市で起こっている。大分出身・在住の美術家・山出淳也が立ち上げた美術系NPO法人「BEPPU PROJECT」である。
 別府といえば、来たことがない人でもまず「温泉」という言葉、そして町のあちこちから立ち上る湯けむりをイメージするに違いない。しかし温泉街としてはかなり前から斜陽で、町の雰囲気は「昭和」の面影を残したまま、時間が止まったようにやや時代からずれた佇まいをみせている。新陳代謝の激しい福岡市の住民である私などの目からすると、その雰囲気というか気配は「いい感じ」なのだが、地元の人はそうじゃないかもなあ……? しかし最近では、別府に設立された立命館アジア太平洋大学に留学する海外からの学生たちが増え、また韓国や台湾からの旅行者も増えるなど、昭和の頃からはまた別の側面において活性化されつつある。
 ところで山出淳也は別府という街に少なからず興味を抱き続けてきた。彼は別府出身ではないのだが、日本有数の保養地として特別な地位を確保してきた別府の最後のにぎわいを知っている1970年生まれ。大分市や福岡市周辺で、一般観客になんらかの「質問」を投げかけてその「答え」をビデオや写真、音声などで記録、展示したりするなど、洗練された方法で地域住民一人ひとりの私性を浮き彫りにするプロジェクトを実施してきた現代作家である。90年代後半ごろから国内美術館の展覧会にも参加するようになったが、2000年に入り、アジアンカルチュラルカウンシル、ポーラ美術振興財団、文化庁の奨学金を相次いで受け、ニューヨークに1年、パリに2年滞在。米国のギャラリーとも契約を交わし、このまま海外暮らしかなと思っていたら、2004年に帰国して大分に戻ってきた。渡航先で、別府でなにかを始めたいという想いを断ち切れなかったのだ。この決断は簡単そうだがきっとそうではなかっただろう。彼のような作家はむしろ欧米での方が受け皿が在るに違いないし、ギャラリーまでついていたのだから。現代美術に関心を向ける観客や機関の存在がほとんど期待できない別府を舞台とするほうがよほど困難も多いだろう。
 しかし帰国の翌年2005年には、短時間でしっかりしたNPO法人を立ち上げた。地元の観光業界、美術界、行政と折衝し、味方につける。そして、2008年になんらかの形で国際現代美術展を開催する、という明確な目標を設定。地元企業などから資金集めを行ない、別府大学の学生をボランティアとして組織化する一方、学生やプロジェクトメンバー一人ひとりに、何をすべきかに関しての自覚と責任を明確化させるためのディスカッションを欠かさなかったという。
 残念ながら私は昨年のイベントは何も見学できなかったのだが、今年は美術展とシンポジウムの一部に参加してきたのでそのことを報告しておきたい。
宮島達男
平川渚
藤崎友子
大木千波
上から宮島達男、平川渚、藤崎友子、大木千波
  今回は「全国アートNPOフォーラム」、およびJCDN企画のコンテンポラリーダンスイベント「踊りに行くぜ!!」を別府に誘致・主催するなど、他地域との人的交流を進める一方で、宮島達男展 "Counter Voice in the Earth"、ストリートプロジェクト展を企画。前者では、9─1のカウントダウンの後、別府の湯土に顔をつけるパフォーマンスを、一般の人に演じてもらい、宮島監修のもとに制作された映像作品の展示。後者は、別府の裏路地を使った、大分、福岡の作家3人による展覧会である。
 さて宮島の作品は、すでに手法としては既出の作品のバリエーションであるが、会場となった「オンパクハウス」内(古い民家の座敷)の空間と映像のからみは絶妙。「ストリートプロジェクト」は、かつての大がかりな野外美術展ではなく、むしろ別府の(地元住民しか知らないような)細くて寂れた路地を巧に活用したささやかなもの。場所の確保、関係機関との折衝などをプロジェクト事務局ではなく出品作家が自らおこなったそうだが、このあたりがなかなか「山出流」だなと思わせる部分で、要するに単なる「受け皿作り」を彼はやっていないのである。適切な場所選びと交渉すべてを公募で選ばれた若い美術家に行なわせることから、すでに「展示」が始まっているのである。だからもしかしたら「展示しない(できない)」というケースもありえたかもしれない。いずれにせよ、この「経過」が重要で、若い作家にすらプロジェクトメンバーと同様のことをクリアさせようとしているように思われた(このあたりのことは、実は展示だけ見ているとちょっとわかりにくいのだが、これは2008年開催の国際現代美術展までの地ならしとみるべきか)。
 もう一方のフォーラムは、実は参加しようかどうか迷ったが、最後の全体会議のみに参加。この場で、山出本人から、2008年の国際展の開催の宣言がなされたが、何もかもが「未定」の状況であることも堂々?と宣言された。これをうけ、全国から集まった美術系NPO法人代表からの様々な提言がなされた。もっとも、その提言を山出が受け入れ、開催要項を作るわけではなかろう。私の感想であるが、山出はまずこの場そのままで大風呂敷を広げ、全国にいる同志たちの関心を一気に引きつけ、精神的なネットワークを一挙にその場で作り上げてしまったような印象だった。おそらく別府でのこれからの山出の動きに、各地のNPO法人代表者は無関心ではいられなくなったはずである。おりしも2008年とは、横浜トリエンナーレ、福岡トリエンナーレの開催年でもある。おそらくそのタイミングも見越した上での時間設定だと思われるのだが、果たしてどうなるか。このように組織の動きを意識化したうえで、展覧会開催経過に内外の様々な人を巻き込み、何かを発言させてしまうあたり、まさに山出がこれまでやってきた作品としてのPROJECTそのもののように思えた。

会期と内容
●BEPPU PROJECT
会期:
ストリートプロジェクト'06
2006年11月20日(月
)〜12月3日(日)
宮島達男展
2006年11月3日(金)〜12月3日(日)
Small Village プロジェクト'06
2006年11月25日(土)〜26日(日)
全国アートNPOフォーラム in 別府
2006年11月24日(金)〜26日(日)
踊りに行くぜ!! Vol.7 別府公演
2006年11月25日(土)〜26日(日)
大分県別府市西野口町6-29
TEL:0977-22-3560
FAX:0977-22-3560
MAIL:info@beppuproject.com

[やまぐち ようぞう]
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