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学芸員レポート
青森/日沼禎子|福島/伊藤匡豊田/能勢陽子大阪/中井康之
青森は創造都市と成り得るのか?
「アートNPOフォーラムinあおもり」が誘発したものとは?
青森/国際芸術センター青森 日沼禎子
全国アートNPOフォーラム in あおもり
「全国アートNPOフォーラム in あおもり」会場
 今、この原稿を書いている現在の筆者は京都、大阪、神戸を回遊中の身である。そこで出会った人々が口々にのたまうに、「ここ数年、青森がアートで熱い!」のだそうである。我が身のこととしていえば、目の前の現場にコツコツと取り組んできた感があるので、「熱い!」只中に存在しているのかどうかはわからないのだが、昨年の青森県立美術館オープン(設計:青木淳)、同時期に開催されていた「Yoshitomo Nara + graf A to Z」を最大のニュースとして、地元NPOを中心としたアートイベント、プロジェクトが連続しているのは確かである。遡ると、筆者が所属する国際芸術センター青森(設計:安藤忠雄)が開館した01年の前後から、青森県内ではこうした公立の動きとも連動するようにボランティア有志等による運営が活発になる。八戸市では、20年間この北の地を拠点にしながら国際的にも発表の場を広げてきたパフォーマンスグループ「モレキュラーシアター」の活動がある。同カンパニーの芸術監督である豊島重之を中心に、メディアアートから都市のあり方を探ることをテーマとした市民アートサポート組織「icanof」が2001年に設立され、展覧会や連続講座「八戸市民大学」を開催している。また、モレキュラーシアター同様に青森を拠点にしながら優れた現代演劇を発表し続ける「弘前劇場」の主宰である長谷川孝治氏は、青森県立美術館の舞台芸術総監督に就任。市民参加型演劇や同美術館のコレクションであるシャガール作の舞台背景画「アレコ」を主題にしたコンテンポラリーダンス公演のプロデュースなどを積極的に手がけている。弘前市では「奈良美智展 弘前」(02、05)開催に伴ない、運営に関わった実行委員有志によりNPO-harappaが設立される。青森市では2003年に棟方志功生誕100周年を記念し公民一体となった多くの事業展開が行われたが、その中でも、同市出身の消しゴム版画家であるナンシー関の展覧会が市民有志によって開催され、事業終了後に継続的なアートサポート事業を行うための「ARTizan」として再組織化。アーティストによるトークイベントや、空きビルを再利用しギャラリーとカフェとして開放する「空間実験室」を運営している。06年にはアートを起爆剤にしたまちづくりと地域経済の活性化を推進することを目的とした「NPOアートコアあおもり」が設立。十和田市では、同市の文化拠点として「(仮称)アートセンター」が昨年7月から建設が着工されている。ここに列挙した以外にも音楽、演劇、美術などあらゆるジャンルにおいて、公立美術館・ホールにおける企画運営にとどまらず、各方面での公民双方の活動が多く存在する。こうした芸術施設や活動が、県人口に対して質・量としてどうなのか? とか、また、それらが別の地方と比較してどうなのか? ということに対しては数値化もデータ化ももちろんされていないのでわからない。しかしながら、公的な動きと市民運動とが連動していたことは明らかである。国内で公立の博物館、美術館、ホール建設ラッシュが過ぎた頃、ようやく県立美術館が開館。地域の人々にとっては「待ちに待った」という感もあるのだろう。県行政からの積極的な周知もあり多くの観客動員に成功し、また、より積極的な市民活動を行う人々にとっては、何らかの形で美術館に関わる、あるいは設立されたことをきっかけにし、自らの活動をスキルアップしたいという思いも強いのではないか。
そのような中、全国アートNPOフォーラム in あおもりが、去る10月に開催された。このフォーラムは、京都に事務局を置く「NP0法人アートNPO LINK」が主催し、アートが多様な価値を創造し、社会を動かす力を持つ社会的な存在であるとの認識をもとに、この力を広く社会にアピールするため、開催地との共催により各地域の抱える問題をテーマに据えながら、全国のアートNPOが集い討論する場を設けているものである。
 この度の青森での開催は、もちろん美術館開館および「Yoshitomo Nara + graf A to Z」との相乗的効果を狙ったものであり、県外NPO関係者に遠路青森まで来ていただくための絶好の機会である。タイトルは「アートでまちを、新しいアートのあり方を、市民とともに考える。」である。まず、率直な疑問として頭に浮かんだのが、「市民“と”ともに考える」ということは、誰が市民ととともに考えるのか?主体者はどこにあるのか?ということである。つまりは、ここに当てはめられるのは「行政」なのか「美術館」なのか。「NPO組織」が「その他の市民」と対話し考える会なのか。また、掲げられたテーマは「ストリートファイティング〜創造都市における市街戦術――青森の街を、どうしていきたいか?」ということである。全国的な注目をあつめている青森の激動の渦中にあり、空洞化が進む青森市中心商店街をモデルにした、創造都市よりもさらに具体的なアートによる商店街・地域活性化について討議することを目的とした。……とすれば、「商店街」が「アートNPO=市民」とともに考える会、なのであろうか。
フォーラムの概要として、初日は、青森のこれまでの芸術活動を紹介するため、公民に関わらず県内のキーパーソン、各担当者が一同に集められ、顔見世的な各プレゼンテーションが行われた。また、まちづくりに取り組む商店主による講演、「A to Z」開催中のgrafの豊島秀樹氏と県立美術館のVIを担当した菊池敦己氏の対談。続いてこのフォーラムのために実験的に行われた、商店街の空き店舗を利用して若手アーティストの展示・発表の場をつくる「怒涛のっ!アート商店街」を検証しながら、まちづくりにおけるアートの役割などが語り合われた。2日目は、実践報告と検証として「第3回全国アートNPOフォーラムin前橋について、白川昌生氏(アーティスト/NPO法人場所、群馬 理事長)が講演。その他、村上タカシ氏(美術家/国立大学法人宮城教育大学/SENDAIcompleX)、加藤種男氏(アサヒビール芸術文化財団 事務局長)により、それぞれスピーチが行われた。
 たくさんの要素が盛り込まれた本フォーラムであるが、主催者としての意図、終了後の雑感について、実行委員会副実行委員長である三澤章氏にお話を伺った。三澤氏は青森県のNPO法人第1号である「あおもりNPOサポートセンター(ANPOS)」および「アートコアあおもり」の理事をそれぞれ兼任。それゆえに、市民主導型社会への思いは強い。三澤氏によると、地方自治法施行による指定管理者制度が文化事業にも導入されている現在、その管理者のあり方を問う必要性があると考えたことが、アートNPOフォーラムを誘致した最も大きな理由であるという。「世界ではNPOが文化施設の運営に参加することが流れです。NPO団体が集結し、青森県の行政に対しアピールすることが必要でした。」と述べる。その手法として取り上げたことが、空洞化する商店街をアートの発表の場とし、今後の商店街とアートの関わりについて検証することであった。その成果についての問いに対し、「行政へのアピール以外はそれなりに出来たと思いますが、今後の商店街とアートの関わりになるとわからない」とのことである。三澤氏自身は前述したANPOSの理事者として、他のNPO設立を支援する立場からの思いも強く、「指定管理者制度のあり方を研究する会を、近日に立ち上げたい。青森だけでなく、文化施設の運営を市民団体が行うことが必要です。そのためには組織化をし、足腰を強くする必要があります。」指定管理者に対して強く問いたいという主催者の熱意の一方で、地元青森から参加したNPO組織からは「行政の事業を受託する以前に、個々のNPOとして自らが提案し、つくり、活動していく“場”が豊かであることが大切」という意見もある。
地域に美術館やアートセンターなどの文化施設の存在が根付き、何らかの成果をあげるまでには長い時間が必要で、公的な資金に保障されることが重要であることはいうまでもない。そしてまた、公的な文化施設ではすくい取れない地域や個人の問題に対して、市民活動がそれらを補い、あるいは新しいアプローチを行っていくことで文化の層を厚くしていくことが市民活動の担いであることも然り。そうした互いの時間と経験を積み重ねた上で、改めてパブリックについて考え、行動するための相互関係が生まれてくるのだろうと思う。人々の草の根的な根気と熱意は当然必要であるが、市民組織が文化施設を運営することが最善の方法であるとも言い切れないのではないか。青森の状況をいえば、長く前述してきたように、公的な動きへの依存や期待が大きければ大きいほど、思うようにならない事態となった時の怒りや失望も強くなる。新しい市民運動への模索も重要であるが、青森という地域で、長い間、自立的に優れた活動を行ってきた組織や団体に着目し、支援していくことも必要であろう。アートNPOのあり方が、企業にとってかわる指定管理者になる手法をとることも必要であるが、それぞれが自立した形で個人や組織と繋がること。その相手は地域住民のみならず、企画・展覧会やアートプロジェクトに参画するアーティストの活動に真摯に向き合うことも重要で、それは「組織力」とは違う側面を持つ。だからこそこうした議論を、NPOフォーラムだけで終息することなく、今後も地域内で行われていくべきである。
 次回のアートNPOフォーラムが、大阪で開催されることが急遽決定された。大阪市と、4つの異なるアートNPOとが中心となり取り組んできた「新世界アーツパーク事業」。個性的かつ社会的にも重要なこの活動は、全国からも非常に注目されてきた。拠点とされてきた商業娯楽施設「フェスティバルゲート」存続問題に伴い7月に一旦リセットされ、事業の見直しのため、その後の暫定的公共利用に向けた運営プランの公募が行われることとなる。フォーラムでは、新世界ならではの公共施設が実現するかを討論し、可能性を探ることとなる。筆者が訪問中の大阪フェスティバルゲートでは、このフォーラムにむけた準備のための対話が事務局とともに進められているところであった。それぞれの運営者たちがぐっと握り締めた手の中には、組織間が繋がっていこうとする決意と、個々の表現と場を守り育てようとする意志がある。
 それぞれの地域性と抱える問題を踏まえながら、「公共とは何か」を問う活動は、これからますます活発になるはずである。

会期と内容
●全国アートNPOフォーラム in あおもり〜アートでまちを、新しいアートのあり方を、市民とともに考える。
会期:2006年10月14日(土)-15日(日)

会場:青函連絡船メモリアルシップ 八甲田丸
青森県青森市柳川1-112-15先
Tel. 017-735-8150/Fax. 017-735-8170
主催:全国アートNPOフォーラム in あおもり実行委員会
   NPO法人アートNPOリンク
連携企画「踊りにいくぜ!! vol.7」
主催:NPO法人 ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク(JCDN)  
共催:NPO-harappa
●全国アートNPOフォーラム in フェスゲ!〜新★世界的公共の実践
会期:2007年2月24日(土)14:00〜21:00(交流会含む)
会場:Art Theater dB
大阪市浪速区恵比須東3-4-36 フェスティバルゲート3F
TEL: 06-6646-1120
FAX:06-6646-1149

学芸員レポート
大西伸明展会場1
大西伸明展会場2
大西伸明展会場3
大西伸明展会場4
大西伸明展会場
精巧なマルチプル作品で知られる大西伸明の展覧会が、国際芸術センター青森(ACAC)で開催された。形取りの技法で作られた作品は、じっくり眺めても容易にわからないほど、本物そっくりに作られた贋物なのだ。ギャラリーの壁からしなやなに伸びた枝の先の葉は、今にも、はらりと落ちてしまいそうな儚さまで湛える。弧を描くギャラリーの床に横たえられた5本の木は、昨年、ACACの森から採取し、持ち帰ったものを作品にしたものだ。建物をとりまく森からの影響を大きく受けるギャラリーの中にあって、それらの作品は、自然物と人工の間を、そして虚実の境界をいったりきたりしながら、物が持つ本来の美しさを放ち人々の心を捉える。その他モチーフで選ばれたものは、消波ブロック、定規や電球、サケの切り身、ゴム長靴、脚立など、身近なものばかり。女性の下着は布にシルクスクリーンで刷られ、黒いレースの美しさが際立つ。樹脂を数種類使い分け微細に彩色された物体は、よく見ると透明部分を残したり表皮だけで中身がない形にするなどして、贋物であるヒントを見せているのだが、そのことに気づいたときに、どきっとしたり、ニヤリとしてしまう。物事の価値や、バーチャル社会について問うような作品でありながら、あくまでもそこには大西の遊び心が見え隠れする。これらの作品は、大阪のノマルエディションでも開催を予定している。

大西伸明展「Desktop, Dress, Gray」
会期:2006年12月9日(土)〜2007年1月14日(日)
会場:国際芸術センター青森
助成:京都造形芸術大学
共催:国際芸術センター青森
●次回開催 大西伸明展「Desktop, Dress, Gray」
会期:2007年2月10日(土)〜2007年3月10日(土)
「邱黯雄(チウ・アンション)」展
会期:2007年1月20日(土)〜4月1日(日)
11:00〜19:00(土曜13:00〜19:00)日祝休廊
会場:ノマル・プロジェクトスペース
大阪市城東区永田3-5-22
TEL:06-6967-1354
FAX:06-6967-3042

[ひぬま ていこ]
青森/日沼禎子|福島/伊藤匡豊田/能勢陽子大阪/中井康之
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