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学芸員レポート
青森/日沼禎子福島/伊藤匡豊田/能勢陽子|大阪/中井康之
戦争と芸術《美の恐怖と幻影》展/想画考4/藤本由紀夫展
大阪/国立国際美術館 中井康之
 今年の話題のひとつに、国立新美術館開館をあげることができるだろう。開館前に同館がテレビに紹介されているのを偶然見かけた。民放のバラエティ番組に、美術館開館がソースとして登場するというのは、日本においては極めて珍しい現象だろう。たとえその紹介のされ方が、レストランにポール・ボキューズが出店している、ということに終始していたとしても、である。肝心の展覧会に対して、その番組の司会者は、「当初から『ポンピドゥー・センター展』というのは、志が低い」というような発言をしていたが(註:レポーターから最初の展覧会は自主企画です、と訂正は入った)、それでは志が高い展覧会というものは何を想定して発言していたのであろうか。その国立新美の最初の企画展「20世紀美術探検──アーティストたちの三つの冒険物語」では志が低いのであろうか。あるいは隣接する森美術館の開館展「ハピネス」展のように、時代を横断するようなものを期待しているのだろうか。或いはまた、今年東京国立博物館で開催が予定されている「ダ・ヴィンチ展」のような誰でもが知っている対象で簡単には実現しないようなものを期待しているのだろうか。それとも公募展主体の運営ということを指しての発言だったのであろうか(これはこれでデリケートな問題ではある)。しかしながら、実際にはそのような具体的な事例を比較しての発言ではなかったであろう。マスコミによる理由無きネガティヴ・キャンペーンは控えて欲しいと思った。

 1月は、画廊の特色を示すような展覧会が開かれることが多い。京都の蹴上から岡崎公園周辺までの老舗画廊では、例年のように実力ある作家たちの個展が開催されていた。続いて北白川の上終まで足を伸ばし、京都造形芸術大学付属展示施設ギャラリー・オーブで開催されていた「戦争と芸術《美の恐怖と幻影》展」を鑑賞。防衛庁に保管されている藤田嗣治の戦争画を中心に、横尾忠則による戦災から着想した絵画、杉本博司によるニューヨークのツインタワーの写真と杉本自身による解説パネル、宮島達男による「Counter Voice」シリーズの作品、そして神谷徹による防衛施設を描写した作品、という新年からストレートなガチンコ展であった。一般に開放されているとはいえ、このギャラリーは学生に対するアジテーション的な役割を担っているものと思われるので、コンセプト不在の彼等に対する問題提起であるとは思ったが、学生たちが安易にこのようなテーマを扱うことによって作品に意味性が付与されるかのように思わないで欲しいと強く願った。同展は、出品者によって2回にわたりシンポジウムが開かれている。同様なことがシンポジウムにおいて話されていたと信じたい。
ALIMO
吉岡雅哉
上:ALIMO《顔ごしにみる風景》
下:吉岡雅哉《ひかりのあるところへ》のドローイング
 下鴨まで下がりヴォイスギャラリーに立ち寄る。同ギャラリーのラインナップ展としての「想画考4」を眺めた。同ギャラリーがプロデュースしてきたホテルを舞台としたstay with artに参加した作家たちが多くを占めていたが、見知らぬ作家のエスキースもあった。その一人はALIMO。ドローイング用紙に丁寧に描かれた線描と彩色やコラージュが施され、その緻密な作業と描写内容に作者の意志を感じ、同ギャラリー主宰の松尾氏に尋ねた。その作品は今年の5月に個展を予定しているアニメーションを表現素材としている作家のものだという。それらのエスキースはアニメ作品《A WHITE HOUSE IS FAR》、そして5月に発表予定の《メモリシッド》(記憶の殺戮)の画コンテのようなものであった。そして、図らずも京都造形のオーブで見てきた「戦争と芸術」が続いているようにも感じられた。ただし、京都造形の展示は、企画者の意図に沿って蒐集した作品が並べられ、幾分抽象的に概念化されていることに対して、ALIMOの表現は、現在、様々なメディアを通して見聞する時事的な現象を直接的に主題化しているものであろう。このような形での予告展は、美術館のような場所では適わない方法であるので多分に羨望を抱いた。さらに同ギャラリーで視線を止まらせたのは、吉岡雅哉の作品であった。何気ないコンビニの風景と匿名性の強い人物に理由の無い狂気を感じた。その吉岡のポートフォリオを開くと、同様のテーマによるタブローが無数に描かれている。松尾氏によれば吉岡は専門的な美術教育を受けたことがなく、家業としての大工を営んでいる作家だという。安易な連想は危険だが、吉岡の描き出す風景は、戦後日本の作り出してきたひとつの象徴であり、そのような無機的な風景を作りだした遠因として、アメリカの戦後占領政策のようなものが存在しているというのは勝手な解釈であろうか

会期と内容
●戦争と芸術《美の恐怖と幻影》展
会期:2007年1月10日(水)〜2月2日(金)
会場:京都造形芸術大学ギャルリ・オーブ 京都市左京区北白川瓜生山2-116
TEL:075-791-9122


●想画考4
会期:2007年01月09日(火)〜02月04日(日
会場:ヴォイスギャラリー 京都市上京区梶井町448 清和テナントハウス2階
TEL:075-211-2985

学芸員レポート
藤本由紀夫
藤本由紀夫《TIME》《HOLE OF SOUND》
 今年の担当展としては藤本由紀夫の個展を予定している。去年辺りから国内各地で藤本氏の個展が続き、先頃では鳥取大学地域学部によって明治期の商家の和室や土蔵を用いた個展が開催されたりしているが、当館で開催するのは、藤本氏が10年間にわたって西宮市大谷記念美術館で開催してきたプロジェクト「美術館の遠足x/10」が終了したことを受けて同館で開催される大規模な個展と関連したものとして企画したものである。先ず6月30日に西宮で「美術館の遠足」を検証するような「藤本由紀夫展(仮称)」が始まり、続いて7月7日から国際美術館で「藤本由紀夫 +/-」というタイトルで巨大な新作を発表し、さらに7月14日から和歌山県立近代美術館において藤本由紀夫のコラボレーションを中心とした作品が紹介されることになっている。運営主体や規模の異なる3館ではあるが、展示内容は当然の事として、各種イベント、発行図録などが相互に補完できるようなものを目指して現在取り組んでいる。もっとも、当館における新作は企業協賛があって初めて可能となるような作品であり、その交渉がいまようやく最終段階に入ったところではあるのだが……。

●藤本由紀夫展──see/hear
会期:2007年1月16日(火)〜1月28日(日)
会場:高砂屋(城下町とっとり交流館) 鳥取市元大工町1番地
TEL:0857-29-9024

●藤本由紀夫展 philosophical toys(仮称)
会期:2007年6月30日(土)〜8月5日(日)
会場:西宮市大谷記念美術館 西宮市中浜町4-38
TEL:0798-33-0164

●藤本由紀夫展 +/−
会期:2007年7月7日(土)〜9月17日(日)
会場:国立国際美術館 大阪市北区中之島4-2-55
TEL:06-6447-4680

●藤本由紀夫展(仮称)
会期:2007年7月14日(土)〜9月24日(月・振休)(一部は9月2日(日)まで)
会場:和歌山県立近代美術館 和歌山市吹上1-4-14
TEL:073-436-8690

[なかい やすゆき]
青森/日沼禎子福島/伊藤匡豊田/能勢陽子|大阪/中井康之
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