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学芸員レポート
青森/日沼禎子|豊田/能勢陽子大阪/中井康之山口/阿部一直
「山口啓介──睡蓮の地球図」/「アオコン!」
青森/国際芸術センター青森 日沼禎子
会場風景
《睡蓮の地球図/ドローイング2》
《DU-Childのcore 21 faces》
《水晶宮》
リュート演奏
上より
・会場風景。右手前より2点が新作《睡蓮の地球図/ドローイング3による》《睡蓮の地球図/ドローイング2による》
・《睡蓮の地球図/ドローイング2》
・壁=《DU-Childのcore 21 faces》
展示台手前=《イタリア旅行》
奥=《緑化砂 劣化ウランのこどもたち》エッチング、シルクスクリーンによる版画本。
・《水晶宮》
・リュートの演奏による夜会風景
 風景を眺めるとき、花は花として、そこに存在している。そして、それらを取り巻く光、風、露、鳥や虫たちが彩りを与える。古来多くの画家たちが、美しきその風景を描いてきた。しかし、花は凛としてそこにある以前は、小さな種であり球根である。宇宙的な遺伝子を抱えたその小さな一粒は、風や鳥や虫によって運ばれ、いずれかの場に着地し、水と光を受けて根を下ろし、そして、花となる。やがて花は姿を変え、再び一粒の種となって来たるべき時を待つのである。永遠に揺らぎ続け姿を変えながらも命を繋いでいく植物たち。そうした世界を取り巻く大きな循環の中にあって、私たちはとても弱く、ひどく臆病な生き物。生命の在り様を、絵画や写真という一瞬の時の中に封じ込め、眺めることに私たちが魅了され続けるのは、何かに傷つき、傷けられる弱さを、いつしか乗り越えたいと願うからなのだろうか。
 山口啓介は方舟や植物の種子など、運ばれるもののイメージを巨大画面の版画や絵画で表現してきた。このたびのACACでは、2000年頃から手がけている睡蓮をモチーフにした絵画作品を滞在制作。また、地域のボランティアの方々とともに制作したカセットプラントを、安藤忠雄設計による特異なギャラリー空間で発表した。
 ギャラリーAでは、モネの睡蓮連作が常設展示されているパリのオランジュリー美術館さながらの、円弧を描く高さ6メートル、幅52メートルもの壁面を使い、この空間の中で制作した2点を含む大型絵画4点を中心に展示。そのほか、植物の種子や果実、花弁を拡大描写した絵画、劣化ウラン弾に被爆した子どもたちの画像をもとに作られた木版画《DU-Childのcore 21 faces》などの版画作品、計40数点で構成した。新作《睡蓮の地球図》では、さまざまな色彩によって描かれた蓮の実を思わせる物体が、無数の染色体のようなもので繋がれ、増殖し、宙に浮かんでいる。自ら破壊と再生を繰り返す植物の、その生命の連鎖を思わせるイメージが、地図のように、あるいは海流のように平面に広がり、緩やかなカーブに沿いながら、さらに3次元の空間へも広がっていく。
 ギャラリーBでは、人工池に面した高さ6メートル、幅4.5メートルものガラス壁を、約3000個のカセットプラントで覆った。光と色彩に満ちた、ステンドグラスのような窓。その向こう側に揺らめく水景が、朝から夜へと変化する光を室内に取り込む。闇が訪れると、光と影が反転し、ギャラリーは森を照らす行灯となる。《水晶宮》と名付けられたこの空間は、時間とともにうつろう自然を、私たちの前に映し出す。
 水晶の球に手をかざして光を覗き込み、私たち人間の未来を占う。もしも、地球の上に、むき出しのままの自分がたった一人放り出されたとしたのなら? 遺伝子に組み込まれた本能が覚醒し、繋ぐ何かを、繋がれる相手を強く求め、立ち上がり、歩き出すのだろうか。光の球の中にその姿を眺め見ることで私たちは、自らも小さな一粒の種であることに気付くのだろうか。そしてその時初めて、死を死として恐れることから逃れることができるのかもしれない。山口の描く地球図を漂い歩きながら、そんなことを考えてみたのだ。

会期と内容
●春のAIR2007/遊びの経路 part1:山口啓介──睡蓮の地球図
2007年4月21日(土)〜5月20日(日)
会場:国際芸術センター青森
青森市合子沢字山崎152-6 Tel. 017-764-5200
主催:国際芸術センター青森AIR実行委員会、青森市
協力:(株)中村生花店花のなかむら、(株)クロタキ生花店、(有)さくらファーム、TDK株式会社 三隈川工場
【交流プログラム】
■ワークショップ「ACACでつくる《カセットプラント》」
 2007年4月18日(水)14:00〜16:00
■アーティスト・トークとコンサート
 2007年4月28日(土) 19:00〜20:30
 アーティスト・トーク:山口啓介(美術家) 古楽演奏:鎌田紳爾(リュート奏者)
 アーティスト・トークとリュートの演奏でACACを楽しむ夜会
【今後の予定】
■カセットプラントin京都「元明倫小学校」
2007年6月5日(火)〜6月24日(日) 京都芸術センター
京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2
TEL. 075-213-1000

学芸員レポート
harappa gallery
ショップコーナー
harappa gallery、中畑夕紀のドローイング
harappa事務局スタッフ
上から
・harappa gallery。左=熊谷晃太のドローイング。
・ショップコーナー
・harappa gallery。右=中畑夕紀のドローイング。左=大柳暁のオブジェのようなバッグ群。
・harappa事務局スタッフ。左から大瀬さん、小杉さん、奈良岡さん。
 「NARA+graf A to Z」。昨年、弘前に現われた奇跡のような時間、空間。展覧会は終わり、作品も、人々も、あのレンガ倉庫から姿を消し去ってしまったけれど、そこからたくさんの可能性の種が撒かれたのだと思う。それは、アートを愛する心、さまざまな人々の交流、そして、新しい何かに向かおうとする勇気。そのひとつが、芽吹きを見せた。同展実行委員会事務局を担っていたnpo-harappaが、4月1日、弘前市中心商店街・土手町通りに事務所を移転し、ギャラリー、ショップを併設した新スペースをオープンさせた。
 商店街の通りに面したスペースの前室は、大きなウインドウから光が差し込む心地の良いギャラリー空間。ショップでは奈良美智をはじめとしたグッズや、アート関連の書籍などを取り揃えている。さらに奥まったスペースにも、ギャラリーあるいは各種イベントなども開催できる場が設けられている。展覧会の立て込みで腕を慣らしたボランティアスタッフたちが、元CDショップであったこのスペースの改装を手がけたとのことだが、随所にA to Z展に登場した「小屋」の雰囲気が残されていて、訪れる人を和ませてくれる。
ギャラリーで開催されていた企画展第1弾は「アオコン!」。青森県内を中心に活動している大柳暁、熊谷晃太、中畑夕紀の3名のアーティストによるグループ展である。「コンセプトは‘地元回帰’です。‘青森のアーティストの合コン’というイメージでタイトルを考えました」と、企画担当の小杉在良さん。「過去3回の奈良美智展は、全国的、あるいは世界的な目線を持った展覧会でした。新スペースでの展開では、むしろ僕たちの生活圏内に目を向けていきたい。そしてまた、これまで応援してくださった近隣商店街とのつながりも大切にしていきたい。」と話す。散歩の途中で、ふらりと訪ねるように、アーティスト、観客、スタッフも気軽に出会うことのできる場所。harappaの名前の由来のように、遊び方は、遊ぶ人によって無限大。これからの展開を、ますます注目したい

●アオコン!
2007年4月1日(日)〜5月6日(日)
出品者:大柳暁、熊谷晃太、中畑夕紀
会場:harappa gallery  弘前市土手町112 TEL. 0172-31-0195
主催:特定非営利活動法人harappa

[ひぬま ていこ]
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