1998年、ギャラリー16、アートスペース虹、ギャラリーココ、ヴォイスギャラリー、立体ギャラリー射手座など固有の歴史を持つ幾つかのギャラリーが連動して、自主企画展を同時開催する「KYOTO ART MAP」が始まった。2000年に第三回を開催した後、隔年開催として実施している「KYOTO ART MAP」は、河原町を中心とした東(蹴上)西(二条城)南(東寺)北(下鴨)の京都一円に点在する、主にコンテンポラリーを扱うギャラリー、美術大学、文化施設などを網羅したオリジナルマップを作成したり、シンポジウムや関連企画を開催すると共に、共通のフォーマットに様々な情報と各ギャラリーの作家の小品をプラスして販売するアートボックスを発行している。
通算5回目となるこの企画=マップは、初夏の匂いが清々しい京都の街並みをアート散策するナビゲーションツールとして有効利用され、本企画への参加を生きた教科書として授業に取り入れる芸術系大学も多い。一つのスペースにブースを設けて参加ギャラリーが一同に会する見本市形式の催しではなく、普段通りのギャラリーの営みをベースにして、マップやイベントというナビゲーションシステムを導入することで、ギャラリー巡りのビギナーを誘発すると共に各ギャラリーの作家セレクションが各オーナーやディレクターの指針を垣間見る機会として捉えている関係者やコレクターもいると思われる。また、【ミイラ取りがミイラ】ではないが、普段は自身のギャラリー運営で張り付きを余儀なくされている各ギャラリーのオーナー達も改めてギャラリー巡りをする機会となっているだろう。
京都は関西の中でも芸術系大学が数多く存在し、美学生達も集住しているので、学内で作品を制作して合評などの演習を経てから学外のギャラリーを借りて発表するというスタイルが主流だった。ここでは、美術館学芸員や美術評論家、コレクターと出会って作品に関する批評を受けたり、あわよくば作品が売れるといった、かつてない経験値を得る対価として高額なレンタル料を払うというシステムが有効であっただろう。しかし、経済の動向やシステムの崩壊など様々な要因によって費用対効果が希薄になったことを否めない、貸し画廊を活用するアーティスト予備軍は年々減少の傾向にあると言う。表現の場が限られていた時代に登場したアーティスト達の自由な表現の実験場・ラボラトリーとしてのホワイトキューブは、今、何を求められているのだろうか。
絵画、彫刻、インスタレーション、パフォーマンス、写真、ビデオ、コンピューター等々……作品の表現メディアの多様化は元より、アーティストが個人の領域で作品を創造し、鑑賞者が作品からアーティストの思想を一方的に感受するのではなく、サイトスペシフィックや共有する時間や作業といったプロセスに真価があるアートプロジェクトなど、地域活動や教育普及といった社会貢献としてアートフィールドは拡大している。さらには、マンガやアニメーションなどのジャパン・クールといった視点の潮流に乗っ取った一部のアーティストやギャラリーのグローバルな評価を得た現代美術のメジャー化やデザインやファッションなどとのボーダレス化により、「現代美術」のモードも変容している。
すべてがフラットな状態から多種多様なバリエーションが登場し、メジャーとマイナーのギャップが生じることで、そのものの存在が認知されていくことは、映画や演劇産業のマネジメント展開に裏付けられている。マジョリティを絶対的な価値基準に位置づけることの危険は承知しているが、その一方で、マイノリティこそが崇高とあがめたてまつることの空しさも否めないだろう。また、多様化という一見ポジティブな印象を与える現象を俯瞰してみると絶対的な価値の希薄化と同義に感じるのは私だけだろうか。
芦屋市などの諸問題が浮上して地方文化の危機感が騒がれる一方で、メディアを通じて流布される東京や海外の華やかなアートシーンの両極が混在し、地方と中央のギャップが著しい昨今、アーティスト、ギャラリスト、コーディネーター、インディペンデントキュレーター、美術ライター、美術館学芸員、美術評論家、マスコミ、エデュケーター、コレクター、アートNPO活動家、鑑賞者etcは何をすべきなのか、、、。私自身も改めて自問自答したとき、自らの存在理由や周辺環境を再考し、ある種のリノベーションを施す必要性を感じている。アートの生態系の構成員が改めて個々の役割について熟慮し、様々な環境のπ(パイ)を参照しながら各々のミッションをまっとうすることしか、この生態系は循環しないだろう。
そんな中で「KYOTO ART MAP2004」は、枯渇する現状を真摯に受け止めつつも、プライベートギャラリーとしての見解と態度を表明する機会としてこの場を設えたに違いない。そして受け手は、その個の集合体のマッピングを一度解体し、ギャラリーという個人が作品と向き合う場として最もミニマムで純度の高い環境に身を置いて、自身の編集方針に基づいたオリジナルマップの編纂を試みてみるのもいいだろう。