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学芸員レポート
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森山安英講演会「光ノ表面トシテノ銀色」
福岡/福岡県立美術館 川浪千鶴
「集団蜘蛛」のハプニングを説明する森山安英氏
「集団蜘蛛」のハプニングを説明する
森山安英氏
 美術家の講演会を聞きにいく際、何を期待しているかといえば、例え丁寧にテープおこしされたとしても決して文章化できない、その人が目の前で話すことでしか伝わらない、表現者の態度や姿勢、生身の思想を知りえることかもしれない。
 北九州市在住の森山安英氏の、35年の作家活動で初めてという講演会で、まさにその生身の思想に触れた。最近の絵画作品の説明から始まり、「愚かな憤死と再生の物語」を静かに語ってくれた森山氏。伝説の前衛美術家の、まさにライヴの醍醐味を感じさせてくれる講演会だった。
 森山安英氏は、1936年生れの68歳。その名前を知る人は地元でも決して多くはない。理由のひとつには、氏の思想と活動、そのあまりの過激さと純粋さがあげられる。福岡では前衛美術集団「九州派」が活躍していた時代、森山氏は1968年から73年にかけて反表現集団「集団蜘蛛」のメンバー(最終的にはひとりで)として、北九州市を拠点に瞬間的で卑俗的なハプニング(氏いわく「直接行動」)活動を、猥褻裁判闘争での有罪判決をもって「自滅」をとげるまで、「自律的に」まっしぐらに展開し続けた。
 また、身も心もすり減らした裁判が1973年に終結したあと、制作はもちろんこれまでの人間関係を一切絶って、15年間引きこもっていたことも大きい。すべてを壊し尽くしたあとの虚脱感に苛まれながらも、確信犯的な、「志しの高い」猥褻という罪を犯したからには、その地から逃げることなく、それを生涯背負うという決意を固めていたという。その言葉は、森山氏がまぎれなく美術家として生きていることを伝えた。と同時に、日常の側から「生活と芸術」の蜜月をあっけらかんと嘯いている福岡のアートシーンや自分がいかに甘っちょろいか、突きつけられる思いがした。
《光ノ表面トシテノ銀色》
《光ノ表面トシテノ銀色》
「光ノ表面トシテノ銀色」
 「集団蜘蛛」としての5年間の活動、引きこもりの15年間を経て、森山氏は87年に「再生」を果した。判決後に語った再び絵を描くという宣言のとおり、それは「絵画」において。ただし、その銀色の絵画は、銀色の油絵具をキャンバスにかけ流すというやりかたで制作されており、描くというより「できる」といったほうがいい。
 銀色の絵画で、氏が関心をもっているのは、90年から94年にかけての一連の作品タイトル「光ノ表面トシテノ銀色」という言葉からもわかるように、環境に反応し、光の反射によってネガポジ反転してみえる銀色の皮膜そのものだった。
 「色」でも「もの」でも、「絵」でもない。こうした銀色の皮膜の特質は、逆説的にそのすべてであり、「絵画」とは何かと根源から問い直しているように思えて興味深い。そして、それはオブジェと絵画の相克から生れたといわれる菊畑茂久馬氏の「天動説」シリーズを彷彿させ、比較して考えてみたくなる。
 銀色のシリーズを終え次の絵画を、今度はすべての色を混ぜ合わせながら模索している最中と語る森山氏は、最後に「野たれ死するつもりでいる」とつぶやいた。それは、また世間や画壇を断固として拒絶し、写実に生涯をかけた明治生れの洋画家高島野十郎の言葉を思い出させ、その深い響きは心にいつまでも残った。
 
※1987年から制作された銀色の絵画シリーズのうち、90年代(90〜94年)の作品の一部が、昨年度北九州市立美術館と福岡県立美術館に寄託された。北九州市立美術館では現在、常設展の特集展示として9点を公開中。

◆森山安英の主要文献:
『反芸術綺談』菊畑茂久馬著、海鳥社、1986年
『駆け抜けた前衛 九州派とその時代』田代俊一郎著、花書院、1996年
『機関16号 「集団蜘蛛」と森山安英特集』海鳥社、1999年
会期と内容
●特集展示「光ノ表面トシテノ銀色」(春の常設展)
会期:2004年4月3日(土)〜6月13日(木)
場所:北九州市立美術館
問合せ先:北九州市立美術館 tel.093-882-7777

●森山安英 講演会「光ノ表面トシテノ銀色」
日時:2004年5月16日(日) 14:00〜16:00
場所:北九州市立美術館 講堂
学芸員レポート
 5月になって、展覧会の準備で(遊びではなく)熊本県阿蘇の小国町に毎週のように通っている。有名な黒川温泉などの観光地が近くとはいえ、小国町自身は山間のいたって静かな小さな町で、今の時期は緑が本当に美しい。
 準備中なのは、夏休み開催の「アートにであう夏VOL.6 坂本善三・ココロのかたち」展。いま、小国町立の坂本善三美術館の全面協力のもと、企画内容をつめているところだ。
 さて、最近「美術館はなぜ必要か?」という問いをよく耳にするし、自分自身にも投げかけているが、この問いに対して、小国町の人なら「ふるさとを象徴する、大切な私たちの場所のひとつだから」と答えてくれるかもしれない、と思っている。
 この美術館は、「小国の自然から生まれた坂本善三美術は、小国の生活の中にあるのが最も似合う」というコンセプトのもと、坂本の生家近くに明治時代の民家を移築して、平成7年に開館した。「黒の錬金術師」と呼ばれた坂本のモノクロームの抽象作品は、寡黙で地味で一見近寄りがたい。しかし、杉林に囲まれた緑豊かな小国の環境や、太い梁や白壁、障子、畳といった民家の佇まいを生かした展示空間が、ふるさとの自然や風土を愛し続けた作家の心とその表現のつながりを、来館者に、自然に、素直に気づかせてくれる。実際、この美術館には解説的な文章パネル(作家の年譜は別にして)はほとんどない。
 抽象画はわからないからと尻込みする人に、わからないことをそのまま受け入れて「ただ心を動かす」ことを、楽しむことを坂本は勧めたという。子どもたちが親しげに美術館に通い、ワークショップに町民が積極的に参加するようになったという同館学芸員の話からも、坂本善三美術館が地域の人にとって身近な存在であることが窺える。
 地域と美術館の、ひとつの理想的な関係を示唆している坂本善三美術館そのものを、福岡での「坂本善三・ココロのかたち」展の構成に有機的に取り込んで、いかに楽しく紹介できるか。これがいま最も頭を悩ませている課題です。
会期と内容
●「アートにであう夏VOL.6 坂本善三・ココロのかたち」
会期:2004年7月17日(土)〜8月29日(日)
場所:福岡県立美術館
問い合わせ先:福岡県立美術館 tel.092-715-3551
URL:http://fpmahs1.fpart-unet.ocn.ne.jp/

●坂本善三美術館
住所:熊本県阿蘇郡小国町黒渕2877
問い合わせ先:0967-46-5732
[かわなみ ちづる]
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