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高松/毛利義嗣
楽しむ空間・一歩前へ!
福島/CCGA現代グラフィックアートセンター 木戸英行
夏休みには、子供をはじめ、普段美術館に縁遠い人たちをターゲットにした展覧会を開催する美術館が多い。長い休みに家で時間をもて余した子をもつ親にとって、その種の展覧会は意外にありがたいものだ。一方、展覧会を企画する学芸員サイドからは、いまだに年長の来館者から不評を買うことも多く、集客の面で苦戦を強いられる現代美術の企画を、子供なら抵抗がないという殺し文句で大手を振って実現できるチャンスでもある。
本展の案内を最初に見たときには、これも親子連れを対象にした啓蒙的な現代美術入門展なのだろうと思った。だから、主な関心事は、その種の展覧会ではなかばお約束の各種解説パネルやハンドアウト、ワークシートの類がどのように作られているか、ということだった。
展覧会を一口で説明すると、視覚だけではなく、触覚や聴覚も総動員して体験することではじめて成立する、いわゆる観客参加型の作品を集めた内容だ。作家と作品は、キャンプ用テントを使ったインスタレーションの廣瀬智央、電気ノイズを電磁誘導を応用したワイヤレス・ヘッドフォンで聴かせるクリスティーナ・クービッシュ、白い巨大な円筒の内部に苔庭を仕込んだ大がかりなインスタレーションと、空気で膨らむ布製の大きな立体作品を展示した松井紫朗、展示室のカーペットを市松状に剥いで建築空間を異化して見せる祐成政徳、そして音や振動、光に反応して電子音を発する、繊細な立体作品を出品したピーター・フォーゲルの5作家である。
ぼくが会場を訪れたのは雨天の平日にもかかわらず、そこそこの数の観客がいて、そのほとんどが親子連れだった。神妙に作品を鑑賞している人はおらず、皆、監視員のアドバイスにしたがって作品を体験しては、おっかなびっくりながらも結構楽しんでいる様子。これなら子供たちの評判も悪くなさそうだし、現代美術入門展としてはまずまずの成功だろう、と思いながら展示室をしばらく見てまわるうち、そんなぼくの感想は少々的外れであるような気がしてきた。というのも、一応各作品のキャプションの近くには「匂い」とか「光」とか、作品鑑賞の手引となるようなキーワードを列挙したパネルと、作品リストと作家略歴を書いたギャラリー・マップは設置されてはいるのだが、詳細な解説を記したハンドアウトやワークシートなどは見当たらず、啓蒙的な展覧会にしては来館者サービスがどうもおざなりな感じなのだ。
それ以上に、会場構成自体が、展示室入口付近に設置された、松井紫朗の扇風機の風で膨らむ熱気球のような巨大な黄色い立体こそ、遊園地的な演出で子供たちの気を引くようではあるけど、それ以外は、複数の展示室を作家ごとに区切って、作品が互いに不必要に干渉し合うのを慎重に避けているのを見てもわかるとおり、観客参加型アートの楽しさを強調するより、作品個々の意図やコンセプトをじっくり体験させようという意図をもっているようで、そこが意外な点なのだ。
一例をあげれば、松井のスペースの裏側に配された祐成政徳の、広い展示室床面のタイル・カーペットを市松模様に剥いだインスタレーションだ。
赤く塗られたむき出しのコンクリート床の連続が、松井作品の黄色と呼応して、見慣れた宮城県美術館の展示室空間を明るく彩ってはいる。でも、この作者の狙いは、色彩の作用だけではなく、ところどころカーペットが剥がされた空っぽの空間という、建築工事現場や廃虚を想起させるそのしつらえと、妙にポップな色彩とのアンバランスな関係性が観客の常識や日常的な感覚を撹乱させることにあるように思う。楽しむというよりは、観客がその宙ぶらりんな不安さを頭の中で何度も咀嚼してはじめて何かが見えてくる類の作品なのだ。秀逸な作品だと思うけど、展覧会が対象としている親子連れにそれが伝わっているだろうか? と他人事ながら心配になってくる。
他の出品作品も、子供が楽しんで終わりではあまりにもったない充実した内容で、「楽しむ空間」というタイトルにはそぐわない。もっとも、それはそれで予想外の収穫だったわけだけど、会場で偶然出会った本展担当学芸員氏に話を聞いて納得した。曰く、啓蒙的とはいっても、子供に媚びたり押しつけがましい内容にはしたくなかった、とのこと。本人はそうは言わなかったけど、つまり、子供を隠れ蓑に、本当は彼が今見せたい作家と作品を取り上げたということなのだ。やられた、という他ない。ぼくとしては十分楽しませてもらったが……。
会期と内容
●楽しむ空間・一歩前へ!
作家:廣瀬智央、クリスティーナ・クービッシュ、松井紫朗、祐成政徳、ピーター・フォーゲル
会場:宮城県美術館
宮城県仙台市青葉区川内元支倉34-1
Tel. 022-221-2111
URL:
http://www.pref.miyagi.jp/bijyutu/museum/info/indexr.html
会期:2004年7月31日(土)〜9月20日(月・祝)
休館日:月曜日
入場料:一般600円、大学・高校生300円、小・中学生200円
主催:宮城県美術館、河北新報社、(財)自治総合センター
後援:仙台市教育委員会、NHK仙台放送局、東北放送、仙台放送、ミヤギテレビ、KHB東日本放送、Date fm
問い合わせ先:宮城県美術館 Tel. 022-221-2111
[きど ひでゆき]
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