札幌/吉崎元章
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福島/木戸英行
|東京/増田玲|
高松/毛利義嗣
没後50年「知られざるロバート・キャパの世界」展
東京/東京国立近代美術館 増田玲
没後50年を機に開催されている今回の
キャパ展
は「知られざる」という表題にふさわしい内容だ。展覧会はスペイン内戦を巡る写真、30年代のパリでの日本人との交流、54年の来日と日本から直接取材に赴き、命を落とすことになるインドシナ戦争取材の三つのパートから構成されている。このうちスペイン内戦をめぐる写真は大半がスペイン・サマランカ内戦資料館、スペイン国立図書館から出品されたもの、そして残りの二つのパートは、その多くが毎日新聞社の所蔵、いずれもいわゆるヴィンテージ・プリントである。
キャパは報道写真家であり、グラフ雑誌や新聞などを通じて写真を発表していた。したがって今回展示される写真は、ヴィンテージ・プリントといっても原稿写真として焼かれたものであり、サイズも小さい。現在は貴重な資料として大切に保管されているが、元はといえば、印刷原稿として使用後はまとめて封筒につっこまれて保管されるといったぞんざいな扱いを受けてきたであろう。そのためキズがあったり折れやシワがあったり、変色したり、必ずしも状態は良くない。ところが、その必ずしも状態の良くないプリントの何とも言い難い存在感が今回の展覧会のトーンを決定づけている。
時節柄、戦争をめぐるそれらの写真からは、いろいろと考えさせられることも多い。しかしそうしたことよりも、数十年前にそれらの写真が撮られ、それが今眼の前にあるという単純な事実に、単純に反応してしまった。プリントの保護のために照度を落とした照明と、エンジやダークグレーなど暗色に塗られた壁面のために、展覧会の前半、スペイン内戦のパートは薄暗く、そのなかで弱い照明に浮かび上がるひとつひとつの古い写真は、時代の証言者としてのモノの存在感、あるいは「尊厳」と呼びたくなるようなものを、そのキズついた弱々しくすらある外見とは裏腹に、静かに示しているように感じられたのだ。
二つ目のパートのパリでの写真は、パリを拠点としていたキャパと交流のあった毎日新聞のパリ特派員城戸又一氏の遺品から近年見つかったもので、今回が初公開だという。文庫にもなっているキャパの自伝『ちょっとピンぼけ』は、キャパとパリで交流のあった二人の日本人、川添浩史と井上清一によって日本語に訳されているが、城戸もまた彼ら同様公私両面でキャパと親しく付き合っていたという。それらの写真は紋切り型の表現を使えば、彼らの友情のトークンとして城戸氏が大切に保管してきたものであり、スペイン内戦の写真とはまたちがう重みが感じられた。写真を専門とする人間としては、かなり単純すぎる反応だと自分でも思うのだが。
キャパといえば写真に詳しくない人にも比較的知られた存在だし、いくつもの戦場を取材し、最後にインドシナで命を落とすまでの劇的な人生や、誰からも愛されたというその人柄など、いわば華のある写真家である。今回も沢木耕太郎訳によるキャパの評伝が、展覧会開催に合わせて文庫化され、三分冊で3月から一冊ずつ刊行が始まるなど、「鳴り物入り」の開催といった印象を持ちながら会場に出かけてみたが、予想に反して静かに余韻を残すいい展覧会だった。ただ連休中や週末、多数の入場者でにぎわう中で鑑賞された場合、この意見に共感してもらえるかどうか、やや心許ないところではあるけれど。
会期と内容
●「知られざるロバート・キャパの世界」
会期:2004年4月3日(土)〜5月16日(日)
会場:
東京都写真美術館
東京都目黒区三田1丁目13番3号 恵比寿ガーデンプレス内
TEL 03-3280-0099 FAX03-3280-0033
京都 2004年6月2日(水)〜27日(日) 会場:美術館「えき」KYOTO(JR京都駅ビル内)
福岡 2004年11月18日(木)〜12月18日(土) 会場:福岡アジア美術館
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学芸員レポート
さてこの稿がアップされるのはゴールデン・ウィーク期間中になる予定。今年はどういうわけか連休直前の週末に日直、その代休が4月30日にはまりこみ、なんと7連休という勤務割り振り表がつい先日渡された。さあ何しよう(実際はたまった仕事を片付けるため職場に顔を出す、さえない連休になりそうなのだが)。そこで以下では原稿執筆段階ではまだ始まっていないものも含めて、これから観たいと思っている三つの展覧会を紹介したい。
まずは4月24日から原美術館で始まる
「飛ぶ夢を見た 野口里佳」展
。2001年には丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で個展が開催されたが、東京近辺でのまとまった展示となると2001年のパルコでの個展以来、しかも今回は初期作品から最新作までを含む内容になるという。新作も楽しみだが、これまでもとてもいい展示空間をつくりあげてきたこの写真家が、原美術館という空間でどのような展示をするのかも楽しみだ。
同じく24日、和歌山県立近代美術館では
「at W vol. 1 永坂嘉光・鈴木理策−高野 熊野 聖地−」展
が始まる。「at W」とは「和歌山の内外で活躍するアーティストを紹介するシリーズ」で、今回の二人は和歌山県出身の写真家、それぞれ高野(永坂)と熊野(鈴木)という和歌山にある「聖地」をめぐる仕事が紹介されるとのこと。東京からは少し遠いが、連休中になんとか行けないか思案中。
野口さんと鈴木さんは、僕が一昨年担当したグループ展
「写真の現在2 サイト−場所と光景」
に参加してくれた写真家である。実はこの展覧会の出品者の伊藤義彦さんも現在、芝浦のフォト・ギャラリー・インターナショナルで新作を中心とする個展を開催中。被写体を連続的に撮影し、引伸ばしたプリントから、一片ずつ部分を手でちぎり取り、ひとつの画面にコラージュしていくという独特の手法で作られる「パトローネ」シリーズの新作とともに、これまでの代表作も展示されている。ただしこちらは残念ながら連休中は休廊。以上、「サイト」展をご覧いただいた方へ、二年越しのアフターサービス情報でした。
会期と内容
●「飛ぶ夢を見た 野口里佳」展
会期:2004年4月24日(土)〜7月25日(日)
会場:
原美術館
東京都品川区北品川4-7-25
TEL03-3445-0651 FAX03-3473-0104
●「at W vol. 1 永坂嘉光・鈴木理策−高野 熊野 聖地−」
会期:2004年4月24日(土)〜5月23日(日)
会場:
和歌山県立近代美術館
和歌山県和歌山市吹上1-4-14
TEL073-436-8690 FAX073-436-1337
●伊藤義彦作品展「蓮の泡」
会期:2004年4月14日(水)〜5月28日(金)
※臨時休館4月29日(木)〜5月5日(水)
会場:
フォト・ギャラリー・インターナショナル
東京都港区芝浦4-12-32
TEL03-3455-7827 FAX03-3455-8143
[ますだ れい]
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