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カオスモス'03 マインドスケープ
東京/東京都現代美術館 南雄介
この記事は基本的には「リコメンデイション」なので、アップした時点で開催中の展覧会を取り上げるようにしていたのだけれど、今回は例外的に終了してしまった展覧会になる。申し訳ありません。しかしこれは本当にいい展覧会です(でした)。一か月で終了してしまうのは何とも惜しいと思います………。
佐倉市立美術館が開館以来開催しているチバ・アート・ナウシリーズも今年で10回、そこで千葉県ゆかりの作家のなかから毎年テーマを決めて選んできたセレクションを拡大して、カオスモスという新シリーズにスイッチした第一回目である。カオスモスは、以後隔年で開催していくという。
チバ・アート・ナウが現代美術の現況展、グループ展としてとてもクオリティの高い、見応えのあるものだということに気がついたのは、恥ずかしいことにずいぶん経ってからだったのだが、しかし少なくとも私の実見した過去二回はとてもすぐれた展覧会だった。キュレイションという意味では、作家や作品の選択のバランスのよさとか、あるいは3つに分かれていて本来ならば決して使いやすいとは言えないであろう会場を巧みに使いこなした展示のセンスとか、感心してしまう点は多々あって、そして何より、作品がとても見やすく、展覧会の主役として展示されているところが見事だった(私はやはり、展覧会というものは、キュレーターがあまりおもてに出過ぎてはならないと考えている。作品が見やすく、そしてその本質が伝わるように意を用いるのがキュレーターの本分であるべきだ)。
だが、チバ・アート・ナウがジャンルであるとか素材であるとか、どちらかと言えば美術の外形的な部分からテーマを引き出していたのに対して、今回は「マインドスケープ」、外形よりも内容とか主題とかに重心を移して構成された展覧会である。展覧会の企画としては、以前よりも踏み込んだかたちのものであると言えるだろう。ではそのマインドスケープ、心の風景とは何なのだろうか。
「作家個人の記憶や体験、願望などを起点として、人間の内面世界を見つめようとする作品は既存のジャンルを横断したり、新しい方法を提示したりしています。そこには捉えどころのない現代社会を反映し、社会の中の個人ではなく、自分を含めた個人の集合体として社会を捉える発想の転換があり、既存の枠組みよりも個人の視点を通した世界の捉え方にリアリティが感じられている事を示しています」(同展チラシより)
まず当然のごとく大きな物語の失効という前提があり、しかし大概の人はどんなものであれ物語なくしては生きられないものだから、手近な既存の幻想とか小さな物語とかに「はまって」やり過ごしている。とりとめのなくなった世界のうちに、うそでもいいから何か「私のもの」を探す、そういった現状があるわけだ。だが、既存の小さな物語がやはりうそだと気がついてしまったとき、世界のとりとめのなさに直に触れてしまったときにはどうするのか。そこで開き直って新たな――個人的な――世界構築(世界創造?)を始めることができた人たち、あるいは始めないではいられなかった人たちが、ここではアーティストとして召喚されている。
展覧会は森山晶(岩絵具)、村上保(乾漆)という、伝統的な素材を用いる作家から始まる。森山の画面で、深い闇の中に輝く光点の一つ一つは、その背後に他者の存在を想起させる。それがために闇は暖かい。村上の立体は、表面がヴォリュームを要請する構造を持っており、したがって世界はそこで反転しているのである。フロアを移って、福田尚代と倉本麻弓が、この展覧会の、言ってみればコアとなる部分である。回文(福田)にせよ夢の模型(倉本)にせよ、他者のとの接点が、ほんとうにぎりぎりのところっで維持されている、きわめてオリジナルな表現である。そこには、表現が作家を選んだとしか思われないような、切迫性がある(かつて三木富雄は、「耳が私を選んだ」と言わなかっただろうか)。最後に用意されたのは藤城凡子で、彼女は文字通りに「世界創造」(いや「世界飼育」?)を企てているのだった。
時間をかけて展覧会をたどっていくうちに、言葉によって語られるより先に、展覧会が伝えようとしている主題が、自然に心の中に浸透し、頭の中に組み立てられていくのが感じられた。何よりもそこには、作家と作品の必然性があったからである。まさに、展覧会を見ることの醍醐味が感じられる、そのような展覧会であると思った。
会期と内容
●カオスモス'03 マインドスケープ
開館時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
住所:〒285-0023 千葉県佐倉市新町210
問合せ先:Tel.043-485-7851(代)
URL:
http://www.city.sakura.chiba.jp/museum/
[みなみ ゆうすけ]
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