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学芸員レポート
東京/南雄介神戸/木ノ下智恵子|倉敷/柳沢秀行
2000年後の冒険ミュージアム
“川に埋もれた伝説の町〜草戸千軒”と“現代の美術”展
倉敷/柳沢秀行[大原美術館]
 2ヶ月近いロングランの間、5千人以上がワークショップに参加したという。この企画は、アーティストで、地元の福山女子短期大学で教員をつとめる柴川敏之が中心となり進められた。
 本欄で紹介したこともあるが、柴川は、私たちが暮らす現代(20〜21世紀)が、2千年後の41世紀になって発掘された状況というコンセプトをたて、携帯電話や各種商品のロゴなど現代に流通する様々な物品を配した半立体の作品を、使用済の耐火煉瓦などとあわせたインスタレーションを手がけ、地元のみならず東京、大阪など各地で発表している。
 もっとも、そのコンセプト以上に、やはり目を引くのが造型的な処理の巧みさ。これらの作品は、その形状や古色然とした色調ゆえ、ある時期から遺跡に見たててインスタレーションされるようになったが、本来、これらの作品は壁面展示を前提とするもので、彼のイマジネーションが生み出した金輪や、雲形のような様々な形態を統合するためのスタイルとして生み出されたものである。こうした自然界に由来するような有機的な形態・素材感が巧みに構成されることで、観者は親和的に作品に近づき、そして様々な想像をかき立てられることとなる。
 さて今回の会場となった広島県立歴史博物館は、地元福山市にある約750年前に港・市場として栄えた草戸千軒遺跡を展示・研究の核として持つ。
 柴川は、自身の作品と草戸千軒遺跡の出土品を併せて同館1階の特別展示場に大規模なインスタレーションを行うが、さらにこのフロアーが基点となり、観客は同館の展示全体に対して誘導される仕掛けとなっている。
 柴川の作品と草戸千軒遺跡が密接に関わるのは、博物館でおなじみの覗き込み型の展示ケースの中。そこには、草戸千軒遺跡からの出土品とともに、柴川が制作した、錆付いた出土品かと見まがうようなベイブレード、キューピー人形、ウルトラマン、ドラエモンなどが並べられている。
 観客は、遺跡のような大型の柴川作品のインスタレーション中に、風化した携帯電話やキーボードなどを見出した後、これらの展示ケースをのぞくことになるのだが、まずそこで、それが草戸千軒遺跡からの出土品なのか、柴川の制作品なのかを判別するために凝視を余儀なくされる。それほどまでに、柴川の制作品は大変に手間と時間をかけて作りこんであり、その錆びた質感の具合や、錆ゆえに本来の形状を欠損したように作られているので、一見しただけでは草戸千軒遺跡出土品と見分けがつき難いほどのものなのである。
 さらに草戸千軒遺跡出土品も、柴川が意図的に形状の特異なものを選別しているために、その用途がわかりづらいことも、両者の見分けを難しくしている。
 もちろん、この出土品の選択にも仕掛けがあり、全員に配布されたワークシートや、作品の傍らに置かれたキャプションによる問いかけによって、その出土品が本来どのような目的で使用されたものかについて思いをめぐらせることとなる。そして、その種明かしがその場ではなされないのが巧みなところ。
 観客はさらに、その答えを求めて「第2会場」「第3会場」と名づけられた、通常の「常設展示場」となる2階、3階のフロアーへと答えを求めて誘われることとなる。
 その各々のフロアーの一角には、1階と共通のロゴやイメージカラーで指示された種明かしのコーナーも用意されるが、答えを求めてモティベーションを高められた観客は、おそらく通常よりも、より関心をもって展示物を目にすることとなるであろう。
 さて、こうした展示もさることながら、この企画を特色付けているのが、以下の4つのコースが用意されたワークショッププログラムである。

「ドキドキコース(みんなのワークショップ)」 
2000年後を紙にうつそう!!!
柴川のインスタレーションを版にして、その模様をローラーにのせたインクで拓本にする。

「博士コース(みんなの夏休みの特別教室)」 
拓本入門〜草戸千軒をうつそう!
草戸千軒出土資料を、博物館担当者の指導で拓本にとる。

「化石コース (こどもの夏休み自由制作?)」 
工作の時間〜現代を化石にしよう!
身近な物品を化石状に加工する。

「ワクワクコース(こどもの夏休み自由制作?)」 
絵画の時間〜2000年後を絵にしよう!
 ドキドキコースのプロセスの上に、裏彩色の手法で着色し、さらには団扇などに加工する。
 
 基本的には、自作を版にして拓本スタイルで版画を制作する、さらにはそれに裏彩色を施すという、これまで柴川が自作品制作やワークショップとして実施してきたプログラムを基本系にしているが、そのスケールの広がりが凄まじい。
 なにより目を引かれるのが、ドキドキコースの制作物が、博物館の広いエントランスに延々と増殖展示された光景。そのためには館職員が毎日タワーを敷設して貼り継いだとのことだが、参加者の制作物によって建築の内部景観が日々変化し、次第に祝祭的空間となる様は、博物館職員にとって刺激的な体験だったのではないだろうか?
 次いで圧巻なのは、これらのワークショップの参加者が、近隣の学校からの集団参加、あるいは個人単位の参加をあわせて5千名を超えるという尋常ではないその数。
 学校単位の参加に関しては、同じワークショップに対し、社会科、美術科、総合学習など異なる授業枠で臨んでいるのが、受け入れ側の懐の深さと、教員側の知恵を感じさせるが、感心したのが、その多くの学校が夏の博物館でのワークショップ参加を受けて、ある学校は美術としてさらに彩色を行い作品として完成させ、ある学校は社会科として草戸千軒の学習に進めるといった具合に、2学期以降の授業の中で、各々その成果を展開させるとのことである。
 これだけの参加者を受け入れるためには、介添え役となって実施にあたった柴川自身と、彼が指導する学生は、およそ会期中無休に近い状態でその対応にあたることとなる。
 このイベントを博物館の側から見れば、現代美術家なるものと共同作業することの多少の戸惑いと摩擦はあったかもしれないが、実に益の大きな企画ではなかったろうか。
 まず実施のための受け入れ側の人的確保も果たされているし、柴川側がほとんどの作りこみをしてくれる。また学校、家庭の双方から働きかけて夏休みの子どもたちの動員もはかれる。会期中入場無料ゆえ、それが入場料収入の蓄積には結びつかないが、ワークショップへの参加者だけで5千人を超えるのだから、展示を見た観客数はもっと多いであろう。それが日ごろ労力を注ぐ常設展示をも含めてめぐるように、企画構成されているのであるし、また博物館の企画と学校の授業が、ただ来場しただけではなく、様々な学習となって関係、展開するのもまた大きな実績ともなろう。
 アーティストの側にしても、ある程度の予算配置があり、もともとの自作のコンセプトを十分に発揮できる場を与えられてのことであるから、博物館側と同じようにメリットがあったはず。
 こう考えると、実にハッピーな企画であったろうことが想像される。でも何よりハッピーだったのは、この企画に立ち会うこととなった観客、特に小さな観客たちであろう。
 会期中、ほぼ毎日のようにここを訪れる常連客もいたという。
 彼らを引きつけたのは、もちろん様々に凝らされた仕掛けでもあったろう。けれど何よりその根本には、博物館の豊かな展示資料、そして柴川作品そのものがたたえる豊穣さであったと思う。この夏、ここを訪れた小さな観客の中から、きっと素敵な考古学者とアーティストが生まれてくるに違いない。
会期と内容
●2000年後の冒険ミュージアム“川に埋もれた伝説の町〜草戸千軒”と“現代の美術”展
会期:2003年7月1日(火)〜9月21日(日)
会場:広島県立歴史博物館(広島県福山市西町2-4-1)
入場料:一般290円(220円)/大学生210円(160円) 高校生まで無料 
※( )内は団体20名以上
問合せ先:084-931-2513 広島県立歴史博物館
URL:http://www.manabi.pref.hiroshima.jp/rekishih/ 広島県立歴史博物館
主催:広島県立歴史博物館
学芸員レポート
 手前味噌になりすぎるのですこし控えますが、11月3日まで大原美術館で開催している棟方志功展はすごいです。
 生誕100年の今年、3本の異なる棟方展が全国行脚しておりますが、質量ともに、それらを凌駕する単独の棟方展。
 何がすごいか?
 まず棟方の板画(棟方は版画を板画と書きます)において、彼を語る上で欠かせない主要な作品がほぼ網羅されています。
 さらに棟方といえば板画ですが、そんなイメージをひっくり返すような、初公開の肉筆画が多数出品されています。これがすごい!高階館長もびっくり。
 さらに大原美術館では、10月10日から19日までの限定10日間、旧大原家別邸の有隣荘で、中川幸夫さんをお迎えします。
 題して「有隣荘・中川幸夫・大原美術館」。これまでの写真、ガラス作品の他、新作のインスタレーションも行われます。
 いずれも詳しくはhttp://www.ohara.or.jp/
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[やなぎさわ ひでゆき]
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